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「プロゲーマーの中で一番孤独を感じている」 トップランナー「ウメハラ」の実像(インタビュー後編)

プロゲーマーの「ウメハラ」こと梅原大吾さん(撮影・齋藤大輔)

「ウメハラ」こと梅原大吾さん(37)―――。格闘ゲームをプレイする者の中で、この名を聞いたことがない人は、ほぼ皆無と言っていいでしょう。数々のゲーム大会で優勝し、「世界で最も長く賞金を稼いでいるプロゲーマー」として、ギネスに認定。日本のみならず、世界の格闘ゲーム界でカリスマ的存在となっています。

しかし、そんなウメハラの私生活については、これまであまり語られていませんでした。ウメハラの結婚観や余暇の過ごし方はどうなのか。話を聞くと意外な答えが返ってきました。トップランナーゆえの孤独を感じるときもあるというウメハラ。ゲームとの向き合い方や将来のビジョンなど、ウメハラの本音に迫りました。

インタビュー前編】伝説的プロゲーマー「ウメハラ」の意外な素顔 「基本的には競争がきらい」

ユニークなプレイスタイルが生まれるワケ

「ストリートファイターV」をプレイするウメハラ(撮影・齋藤大輔)

――ウメハラさんのプレイは、テクニックのみならず、試合運びもユニークで、見ていてとてもワクワクします。何か意識していることはありますか?

ウメハラ:10年以上前から聞かれていることですが、別に楽しませようとしているわけではないんです。他と何が違うのか、正確には分からないんですが、原因があるとすれば、取り組みの質というか、どういう気持ちで取り組んでいるのか、ということではないかと思いますね。

ゲームを楽しむことが重要だと思っています。もちろん勝ち負けがどうでもいいってことではない。ただ、勝つことだけに固執してしまうと、いずれ行き詰まってしまうんです。戦い方もどこか予想がつく動きになるので、見ている人も退屈に感じてしまうんですね。一方、ゲームを楽しみながら、どういう風に遊ぶと面白いかな、ということを考えてプレイすると、自然とプレイの幅が広くなり、ゲームに対しての理解度も深まります。

そういう人は、対戦相手や観客が想像できないような視点や発想でプレイするため、「この人の動き、なんか違う」ということになるんだと思うんです。自分もゲームの面白さを追求しているから、人とは同じプレイにならないし、見ている人たちからすると、刺激になるんだと思います。

――そういったプレイスタイルからレジェンドやビースト(野獣)といった異名で呼ばれるようになったと思いますが、こうした評価についてどう受け止めていますか?

ウメハラ:この世界で長く活躍したからこその評価だと思うので、素直に誇るべきだと思いますが、勝負の世界は「いま」が大事なんですよね。どんなに偉業を成し遂げようが、「レジェンド」や「第一人者」なんて言われようが、勝ち続けなければいずれ忘れ去られる。その緊張感は常にあります。それが勝負の世界の厳しいところで、気が抜けないところなんですよね。たかがゲームなんですけど、全然楽じゃないですよ。

自宅で練習するウメハラ

――気が抜けないということですが、練習も相当していると思います。普段の練習量はどのくらいですか?

ウメハラ:それこそプロ1年目は、数をこなせばいいと思っていたので、1日16時間くらい練習していました。ただ、肉体的にも精神的にも限界になり、このやり方はダメだと学び、1年でやめました。それ以降は工夫を重ね、最近では集中力が続かなくなったらやめるという練習方法になっています。本番でなくても、いかに練習の中で集中できるのか考えています。時期によって変わりますが、いまは8時間くらいかな。これでも多いと思っています。集中力がない中での練習は意味ないので。

他のプレイヤーと練習するウメハラ

――練習ですが、自宅だけではなく、プレイヤー同士で集まって練習していますね。オンラインゲームなのに、なぜわざわざオフラインで集まって練習するのでしょうか?

ウメハラ:オフの場に集まる人たちは、意識が高い人が多く、そういうプレイヤー同士で戦うことでレベルアップが早くなるからですね。最新の情報を交換できることもメリットです。あと個人的な意見ですが、実際に顔を見て対戦すると、勝ち負けの重みが違うんですよね。目の前に対戦相手がいると、嬉しかったり、悔しかったりして、練習するモチベーションにもつながるんです。

――練習以外の時間はどんなことをしているのでしょうか?

ウメハラ:散歩が好きですね。練習中は神経を張り詰めているので、外を出歩いて疲れた神経を癒しています。雨が降らなければ毎日散歩していますね。あとは軽い筋トレを継続しています。海外の大会は、遠征しているというだけで不利で、移動や待ち時間で体力が削られます。本来の力に近い状態で戦うためには、体力って重要で、スタミナをつけるために体を鍛えていますね。

「相手に合わせて生き方を変えられない」

――練習以外の時間もある意味ゲームのために費やしている。本当にストイックだと感じますが、孤独を感じる瞬間はありませんか?

ウメハラ:プロゲーマーの中では一番感じていると思います。目標とする人物がいれば、そこを目指して熱中したり、没頭したりして、孤独を感じないと思うんです。だけどプロゲーマーの世界では自分がパイオニアなので。自分で言うのはおこがましいかもしれませんが、目標とする人がいてくれたほうが、仕事としては楽しいんだろうなと思う瞬間は結構ありますね。

プロになってからのここ数年は、いままでにないくらい孤独ですね。自分が勝ったり、上手くいったときに、心から喜んでくれる人は周りに何人いるんだろう・・・。試合に勝てばファンは喜んでくれるけど、ファン心理としてじゃなくて、喜びをちゃんと共有できる人ってそんなにいない世界だと思います。

――「孤独」という切り口でいうと、ウメハラさんは現在独身だと思います。結婚については、どのように考えていますか?

ウメハラ:結婚したいという願望はないですが、両親に孫の顔を見せてあげると良いだろうな、という思いはあります。年を取ったときに、一人というのも寂しいかもしれないですしね。やっぱり、子供とか孫がいたほうが楽しいだろうとは思います。そういう意味では、昔に比べると結婚したい気持ちは出てきました。

ただ、こんな仕事にたどり着くような人間ですから、特殊な思考というか、尋常じゃない考え方をしています。自分を客観的に見ても、多くの女性にとって心地いいと感じるものではないと思うんですよ。

プロゲーマーの仕事って終わりがないんです。ノルマがある仕事であれば、ノルマをこなせば休めるじゃないですか。そういうオフがない。常に臨戦態勢でゲームに集中していると、「心ここにあらず」になっちゃうんです。練習している時だけじゃなくて、それ以外もずっとなので、一緒にいても相手は嫌な思いをしますよね。でも、自分は相手に合わせて生き方を変えられない。これは、生き方の問題だと思っています。

――そういうものなんですね。

ウメハラ:結婚する人の中には、結婚しないと一人前の大人として見てもらえなそうだから、そんなに好きではないけど結婚するっていう人もいると思います。それでお互い、つまらなくなったり、窮屈になったり、がんじがらめになっちゃう。そういう思いをするくらいなら、独身でもいいと思うんですよ。

自分の周りには、独身だったり、子供がいなかったりしても、「自分の人生それでいい」と前を向いて生きている女性がけっこういます。そういう自分らしく生きている姿を見ると、自分もこれでいいのかなと感化されます。もちろん子供がいない国は寂しいから、そこは問題だと思う。でも、いまの自分にとってはそんなに必要じゃないなって。いまはやることがあって充実しているし、先のことを考えられる人間だったら、こうはなっていないですしね。

いまの強さを維持するのが最大の目標

――プロとして実現したいことを教えてください。

ウメハラ:現役プレイヤーとして最前線にい続けたいです。自分以外のプロの人たちは、セカンドキャリアを気にしている人たちも多い。この職業がいつまでできるのかは、気になるところだと思うんです。自分はいま37歳で、特に衰えを感じることもなく最前線で戦えているので、今後も最前線にいることができるというのを後から続く人たちに示していきたい。自分は初代のプロゲーマーなので、後に続くプロゲーマーを安心させるためにも、いまは強さを維持していくことが最大の目標になっていますね。

――プロゲーマーの先駆者として、次世代の人材育成についてはいかがですか?

ウメハラ:もともとこの業界は、日陰者の避難所みたいなところだったから、中には反骨精神がある人間がいるんです。独特の気迫というか、オーラが備わっている人間が。そういう鬼気迫るような連中が、昔のゲームセンターにはちらほらいたんです。そういう空気を持った若いプレイヤーがいたら、育ててみたいと思うかもしれない。さとり世代とは真逆の発想でしょうけどね。そういうのが出てきたら目をかけようかなって思います。

いまどきのプレイヤーは、個性は強くなっているんですけど、業界を引っ張っていこうという気概は感じないんですよ。ときど(日本のプロゲーマー)なんかは、十分やってくれるだろうと思うけど、同じ世代じゃないですか。次世代じゃないんですよ。ときどは最高の人材だと思うけど、もっと若いプレイヤーで気概があるやつがいたら、と思いますね。

――ゲームのほかに、実現したいことは?

ウメハラ:プロになる前は、自分の欠点に直面し、自信を失っていました。それがたまたま得意なことが仕事になるという一発逆転が起きたから、過去の自分も含めて、個性として自分を認めてあげることができたんです。ただ、この年になって分かったのは、ただ単に自分の気質、言ってみれば「タイプの問題」だったんだなということです。自分という人間は、本当に好きなことだったらとことん努力できるし、好きなものにさえ出会えれば強いタイプだと思うんですよね。

だけど、打ち込めるものに出会えていない人たちは、過去の自分と同様に、一般的な社会からはダメなやつ、使えないやつって見られてしまうんです。そういった、自分には何が合っているのか分からずに自信をなくしている人たちに、何かきっかけを与えることができたら、楽しそうだな、やり甲斐がありそうだなと思います。これに関しては、ゲームというジャンルを飛び越えてもいいかなとも思っています。

(取材協力:Cooperstown Entertainment LLC)

【インタビュー前編】伝説的プロゲーマー「ウメハラ」の意外な素顔 「基本的には競争がきらい」

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