「起きてますか、先生」 声に自信あってか、それともこの時間は私が一階の机前にいると心得てか、インタホンなんぞというまだるっこしいものは使わない。野尻組の若い衆だ。 「おう」私もぞんざいに大声を挙げてから、ゆっくり玄関扉を開ける。 「一時間くらいで用意できるかい? 午後から出かけるんだが」 「へっちゃらです。戻ってすぐ揃えますから」 ほんとうに三十分ほどで、またやってきた。一式を載せた大きな盆を両腕で支えている。玄関の玉飾りと、門扉両袖の松が枝二本と、神棚の〆縄と、各戸口や窓や水道蛇口用の輪飾り十本ほどの一式で、毎年の決りものだ。代金も去年と同じである。 「珍しい酒が手に入ったんだ。頭のお口に合…