英国で通称“ビッグ4(フォー)”と呼ばれる日本食のファストフードチェーン4社が、英国のみならず、欧州大陸から中東諸国、オーストラリア、そして米国へと事業を急拡大しているのをご存じだろうか。

 そのビッグフォーとは、「Wagamama(ワガママ)」、「Wasabi(ワサビ)」、「Yo!Sushi(ヨウ!スシ)」、そして「Itsu(イツ)」。

 ロンドンにあるこれらの店舗はいつも若者で賑わっている。ワガママのファンというサイモン・ディーン氏(27歳)は、「ワガママはランチやディナーを気楽に食べられるし、料理はいつも新鮮だし、すぐに出てくるし、とにかく、いいね」と話す。

 興味深いことにビッグフォーには、ある2つの共通点がある。1つは、いずれも日本人の手による経営ではないこと。そしてもう1つは、ロンドンで創業されたことだ。

 日本では、政府による「クールジャパン」の掛け声のもとに、日本文化の世界進出に躍起だ。しかし、日本の「食」の分野に限って言えば、既に「クールジャパン」は日本人以外の手で、英国から世界に広がりつつある。

 米国の「Nobu(ノブ)」に象徴される高級日本食チェーンがグローバル化している事例は既にあるが、一般大衆を対象にした日本食ファストフードの世界展開では、英国のビッグフォーが先頭を走る。

 ビックフォーの成功要因を分析すると、世界が日本の何を「クール」と感じるのかが見えてくる。

日本人でない経営者が日本食ブームの火付け役

 まずは、ビッグフォーそれぞれの事業概要を簡単に紹介しよう。

ビッグフォーの中で最大手の「ワガママ」。創業者は香港生まれの英国人
「ワガママ」のメニューの1つ、「ジンジャー・チキン・ウドン」

 最大手のワガママは、香港生まれの企業家アラン・ヤウ氏によって1992年に創業され、それ以来、急成長を遂げている。現在、英国内に91店舗を展開しているほか、既に17カ国に進出済み。ラーメンや鉄板焼き、カレーなどの「日本食にヒントを得た料理」を提供しているのが特徴で、伝統的な日本食とはだいぶ異なる。

 例えば、ココナッツやチリペッパーといった、タイなど東南アジア料理に良く使われる食材を多用しており、日本人の感覚からすれば、日本食とは呼べないものが多いようだ。

本物志向の日本食ファストフードも登場

回転寿司を英国に持ち込んだ「ヨウ!スシ」

 ワガママの誕生から5年後、英国人サイモン・ウッドロフ氏が創業したヨウ!スシは、回転寿司を英国市場に持ち込んだことで知られる。ワガママと同様、ロンドンから既に海外進出を果たしており、英国内の64店舗に加えて、アイルランドやノルウェー、中東、そして米国などに13店舗を展開している。

持ち帰りが特に人気の「イツ」

 ヨウ!スシと同様に1997年に創業したイツは、現在、ロンドンに37店舗を展開しており、海外進出を準備中だ。イツは、英国で成功を収めているサンドイッチチェーン「Pret a Manger(プレタマンジュ)」の創業者ジュリアン・メトカーフ氏が立ち上げたもので、寿司の盛り合わせやうどんなどのテイクアウェー(持ち帰り)が人気を博している。

最後発だが本物志向の日本食を提供する「ワサビ」

 そして今、最も勢いがあると言われているのが、韓国人ドン・ヒュン・キム氏が2003年に創業したワサビである。ロンドンに35店舗を展開しており、今年6月には米ニューヨークのタイムズスクエアに進出予定だ。さらにフランスやアラブ首長国連邦のドバイへの出店計画がある。

 ワサビは、寿司を1カンずつ透明フィルムで包み、顧客が自分で好みの寿司をボックスに詰めて持ち帰りをする手法を世間に広めたとされる。まだ日本食に馴染みのない客でも、寿司を1カンから試食感覚で試して、好みの寿司を発見できる楽しさが支持されている。

 日本で生活したこともあるというナオミ・ジョンソン氏(23歳)は、「高いお金を出せば本物の日本料理も食べられるけど、繁華街で手頃な値段で本物志向の寿司やカレーを食べられるのはワサビだけね」と話す。

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