セブン-イレブン・ジャパンにファミリーマート、ローソン……。市場シェア約9割を握る大手3チェーンの経営トップに話を聞いてきた日経ビジネスの10月30日号特集「コンビニ大試練」。だが大手以外にもコンビニチェーンを展開する企業はある。北海道を地盤に「セイコーマート」1000店強を経営するセコマはその一社だ。

 人口減少と高齢化という今後の日本の重要課題を先んじて経験する北海道にあって、セコマは早くから、大手3社とは異なるビジネスモデルの構築を進めてきた。言うなればコンビニ業界「北の異端児」。大手チェーンとは何が違うのか。改革の成果のほどは。丸谷智保社長に聞いた。

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<span class="fontBold">丸谷智保(まるたに・ともやす)氏<br />1979年北海道拓殖銀行に入行。シティバンクなどを経て2007年セイコーマート(現セコマ)入社、2009年に社長就任。63歳。</span>
丸谷智保(まるたに・ともやす)氏
1979年北海道拓殖銀行に入行。シティバンクなどを経て2007年セイコーマート(現セコマ)入社、2009年に社長就任。63歳。

コンビニ業界では人手不足が深刻になっています。出店数の増加で客の奪い合いも激しくなり、加盟店オーナーが経営難に喘いでいると聞きます。

丸谷智保社長(以下、丸谷):その通りだと思います。コンビニ本部は加盟店オーナーとフランチャイズチェーン(FC)契約を結ぶことで、(自身では資産を抱えることなく)効率よく店舗網を増やしてきました。かつては長時間営業すれば売り上げも増え、本部と加盟店オーナーは儲かりました。ただ、成長期だからこそ機能していたビジネスモデルを、業界全体が巡航速度に落ち着いてしまった現在まで、そのまま続けていて良いものなのか。

 高密度に出店が進んだことで、店舗あたりの売上高は伸び悩んでいます。そんな中で人件費や光熱費が上昇すれば、現場が疲弊するのは当然と言えるでしょう。いま表面化しているコンビニ業界の様々な課題点は、すべて、古いビジネスモデルを変えることなく現在まで来てしまったことが原因だと思います。

セコマはどのようにビジネスモデルを変えてきたのですか。

丸谷:一つは直営化です。店舗を経営する加盟店オーナーからロイヤルティー(経営指導料)を受け取るのではなく、我々のグループ会社が直接店舗を経営するのです。私たちも従来はFC契約による出店が主でしたが、2009年に直営比率がFC比率を超えました。いまでは8割弱が直営店です。

直営なら過疎地でも出店可能

大手チェーンの店舗は95%超がFC加盟店です。そんななかであえての直営展開には、どんなメリットがあるのでしょうか。

丸谷:今年8月、紋別市の上渚滑(かみしょこつ)に新店を開きました。周辺住民は900人ほどしかいなくて、うち4割が65歳以上の高齢者です。お年寄りは一般的に食が細いですから、食べ物を売るコンビニは基本的には成立しません。

それなのにセコマは成立できている、ということですか。

丸谷:はい。この店が1日13時間半しか営業していないのがポイントです。朝6時半に開いて、夜は8時に閉めるのです。夜間の人件費や光熱費を抑えられます。

大手コンビニは「深夜営業は店員の作業時間としても欠かせない」と話しています。

丸谷:確かに朝一番に来店したお客にとっては、オープンして最初の数分間はまだ品出し作業が続いているわけですから、多少ご迷惑をおかけするかもしれない。ただ、それで営業に致命的な支障が出ているかというと、そういう話はありません。

営業時間の短縮なら、契約形態さえ変えればFC加盟店でもできるのでは。

丸谷:いえ、フランチャイズでは難しい事情があります。フランチャイズの加盟店オーナーさんが経営する場合には、自店だけで初期投資を回収しなくてはなりません。本部が土地・建物を用意する契約ではもちろんのこと、土地所有者がコンビニ事業を始める場合にも、店舗を作るには初期投資が必要ですから。多少の無理があっても、オーナーさんは長時間営業して「元を取る」インセンティブが働きます。

 ところが身を粉にして働いても、もともと商圏は極めて小さいわけです。オーナーが生活できるだけの売り上げを確保するのは難しいのです。

上渚滑店は黒字経営なのでしょうか。

丸谷:ちゃんと黒字ですよ。開業当初から黒字でした。いまも当初目標を少し上回っているくらいです。

 上渚滑以外にも過疎地で営業する店はあります。セコマが出店時に重視するのはサステナブル(持続可能)かどうかという観点です。

 サステナブルかどうかを分けるのは、初期投資して作った設備をしっかり償却でき、しかるべきタイミングで再投資ができるかどうかです。セイコーマートが今後例えば30年にわたって営業して店がぼろぼろになったときに、もう償却は終わっていて、再び店舗を新しくできるのか。そんな観点から開店可否を決めています。

<span class="fontBold">8月1日、紋別市に開業したセイコーマート上渚滑店。</span>
8月1日、紋別市に開業したセイコーマート上渚滑店。

ただ、それでは本部があまりに儲かりません。非上場会社であるとはいえ、セコマも慈善事業を営んでいるわけではないですよね。

丸谷:だからこそ小売業という「川下」だけを手がけるのではなく、「川上」にあたる製造から、「川中」にあたる物流にまで自社で参入を進めてきたのです。掲げているのは「総合流通企画会社への転身」です。

 製造については、既に道内に10社を超える製造関連会社を抱えており、弁当や総菜、乳製品などをグループ内企業で生産しています。配送についても、自社でトラック277台を保有していて、1日の配送距離は7万キロメートルに達します。

 店舗で利益が生まれなくても、他の部門でカバーできるんです。総合的に、企業として収益を生み出す力があるのです。単店で利益を出さないといけないフランチャイズ方式の加盟店経営では、こうはいきません。

ウエルシアに自社商品を供給

単なる小売業からの脱却、ということですね。

丸谷:製造した商品は外部への販売も進めています。ワインや弁当、アイスクリームなどがそうですね。(ドラッグストア大手の)ウエルシアホールディングスさんの店頭には既に並んでいますよ。

 ただの製造業ではなくて「小売業をベースにした製造業」であることが役に立っています。いきなりゼロから商品を売り込むのではなく「北海道では既に1000店で取り扱い実績のある商品です」と売り込めば、先方も安心して導入してもらえます。外販実績は2016年に100億円にのぼっています。

「北海道」というブランドを持っているセコマだからできること、と言えそうです。大手にはなかなか真似できません。

丸谷:そうですね。幸運ではありましたが、これを使わない手はないですよ。海外への輸出も進めていきたいです。

直営主体のビジネスモデルだと、最低賃金の改正で人件費が上昇したときに、本部が直接影響を受けてしまいます。デメリットも大きいのでは。

丸谷:確かにそうですが、一方でメリットも大きいですから。例えば、セコマでは2010年頃から「支援部」という部署を設けています。本部の正社員と契約社員40名くらいの部隊で、店舗のパートさんが「子どもが熱を出したので休みたい」といった理由で欠勤になった際、ヘルプ要員として派遣するんです。

ずっと本社に待機しているんですか。

丸谷:いえ、ほとんど出払っていますよ。1日のあいだで、朝は中心街の忙しい店で1時間、その後午前中はこっちの店舗で数時間、午後は他の店で店長補佐……みたいな働き方をしてもらう場合もあります。最近は冬になるとニセコのスキー場に訪日外国人が押し寄せますから、泊まり込みで1カ月、そちらで働いてもらうとか。

 こうした支援要員、最初は札幌だけに配置していましたが、最近は函館にも3名常駐しています。

とはいってもヘルプが必要ないときだってありますよね。

丸谷:要請がないときには新人さんのいる店舗に、OJT(職場内研修)の支援要員として派遣しています。あるいは店舗業務は十分回っているんだけど、店員があと1人いれば売り上げがもっと伸びるような店舗にも行ってもらっています。

大手チェーンのコンビニ加盟店でも派遣スタッフや単発バイトの採用が増えていると聞きました。

丸谷:ですが、毎回割高な手数料がかかったり、そもそも時給が高かったりしていますよね。私たちのほうがコスト効率は良いと思いますよ。

営業時間はニーズに応じて柔軟に見直し

大手チェーンとは異なり、24時間営業しているセイコーマート店舗は全体の約25%にとどまります。今後も24時間営業店は減らしていくのでしょうか。

丸谷:いえ、そうとも限りません。年1回ほど、地域のニーズを見極めて見直ししています。結果次第では、営業時間を延ばすことだってありますよ。

 24時間営業をやめれば売り上げは落ちます。けれど利益は増えるかもしれない。ただ利益が増えるといっても、人手不足でシフトが埋まらない苦労があるかもしれない。あるいは深夜の売り上げが大きい有力店に経営資源を集中するために、近隣店は24時間営業をやめてスタッフを有力店に融通することもあるかもしれない。すべてケース・バイ・ケースです。

 ある大手チェーンの方が、私どものところに視察に来たこともあります。「24時間をやめるなら、大手3社のなかで最初に手をあげたほうが良いのではないですか。業績は短期的には悪くなるかもしれないけど、いち早く変化に対応してチャレンジするんだって市場にアピールできれば株価には好影響ですよ」なんてアドバイスをしました。新規のオーナーさん募集にも効果はあると思うのですが、やはりロイヤルティー収入の減少につながるだけに、慎重な様子でした。

「自然にこういう形になった」

コンビニは社会インフラと呼ばれるようになっています。

丸谷:その言葉自体は悪くないと思います。「アマゾンで十分じゃないか」っていう方もいますが、食品や日用品のような(単価の安い)商品を注文に応じて個別に宅配するよりは、まとめて店舗まで届けて、そこまでお客さんに来てもらったほうが物流効率は高いですから。

 大儲けできるかどうかは別として、住民の方に我々のお店が必要とされているのなら、それはもう立派な「サステナブル」だと思うんです。現在のコンビニ業界では「必要とされている」以上のものを提供し過ぎなのではないですか。必要とされていない時間帯にも営業していたり、必要とされていない地域に新店を出したり、隣にコンビニがあるのにすぐまた隣に出店したり。

 直営化についても、24時間営業への柔軟な考えかたも、何か将来を見通してビジネスモデルを変えてきたというわけではないんです。北海道は土地が広くて、人は多くない。配送コストも高い。そんななかで企業としてどう生き残るかを考えたときに、自然にこういう形に変化しただけなんです。

 本当の社会インフラであるなら、その社会インフラを支える人々が苦労して泣いているようではいけません。本部と加盟店が共存共栄の関係が崩れているとすれば、もはやコンビニは社会インフラと呼べないのではないでしょうか。

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