(写真:AP/アフロ)
(写真:AP/アフロ)

 この時期に気になるのは、子どもへのクリスマスプレゼントだ。プレゼントを買おうにも、そもそも店舗でおもちゃを売っている店が少ない。少子高齢化だから、おもちゃをどこでも買えるわけではないだろう。それにしても、現物を見て買おうと思ったら、家電量販店くらいしかない。しかし、そうしているうちに店舗に行く時間もなくなり、結局はネットで注文することになる。ありがたいことに、クリスマス当日から、二日前に思い出しても、ネットならなんとか配達してくれる。さらに店舗よりも安い。

 以前、私が子どもと店舗に行ったとき、子どもがほしがったおもちゃを見つけられなかった。子どもが店員に聞いたところ、「並んでいる中から探してね」といわれた。店員の価値は何だろうか。そこで、私のスマホでアマゾンのサイトに飛んだ。在庫もあるらしい。すぐさま注文した。おそらく、その店舗には行かないだろう。ネット店舗とリアル店舗の闘いが報じられ、リアル店舗の呻吟が叫ばれている。しかし、実際にはリアル店舗で努力すらしていないところが多いのではないかと私は思う。

アマゾンのおもちゃ侵攻

 ところで米国ではトイザらスが倒産した。その倒産を好機としてとらえるかのように、アマゾンの攻勢が止まらない。一部の報道によれば、アマゾンはプライベートブランド商品を拡大しようとしており、それは以前のこの連載でも書いたとおりだ。そして、次に、その範囲をおもちゃにも広げようとしている。米国ではクリスマス商戦が激しいと有名だ。その意味で、アマゾンがクリスマス商戦の目玉ともいえる、おもちゃそれ自体に手を広げるのは理解できる。

 アマゾンは米国で「A Holiday of Play」と題した冊子を配っている。一度ご覧いただくと早いが、子どもたちがアマゾンの段ボールらしきおもちゃで遊んでいる表紙のカタログだ。これがなかなかよくできている。男の子と女の子のおもちゃがうまくブレンドされている。さらに、ミッキーマウス、マーベル、ピクサー関連のキャラクターグッズもあるかと思えば、レゴもあるし、楽器、オーディオグッズに、カメラ、さらにはアマゾンの独自タブレットまで用意されている。

 そして、それぞれの商品をクリックすると、もちろん、アマゾンの個別ページに飛ぶようになっている。さらにこの冊子は、実際に印刷され、顧客に送付されている。アマゾンがダイレクトマーケティングにも参入しているわけで、これはリアル店舗にとっては、いままでにない脅威だろう。実際に、このブラックフライデーやサイバーマンデーの期間で、1800万個以上の注文があったようだ。

 なお、紙の冊子からはQRコードでアマゾンのサイトに飛ぶことができる。さらに、やはり手にとってみたい消費者のニーズをすくうために、アマゾンは「4-star store」を併設している。写真を見てもらうとわかるように、特設のおもちゃブースがあり、そこには有名なキャラクター商品が並び、さらに、アマゾンのプライベートブランドである商品が所狭しと並んでいる。さらには、「Highly Rated」として、アマゾンの星の評価が高い商品として、書籍は4.8点以上のものが並んでいる。

アマゾンのおもちゃ

 アマゾンが狙っているおもちゃはどのようなものだろうか。これもご覧いただくとわかるように、子どもたちが室内で遊ぶ、ウレタン(ソフトクッション)商品などのようだ。まずは、幼児のカテゴリーからはじまって、次に就学時向けの商品に広がっていくだろう。そのうち、キャラクター商品も、アマゾンが生産・販売するようになるのかもしれない。既存のおもちゃ屋は、既存商品を販売することしかできず、さらに、お客に興味もない(ように私には見える)。それにたいして、アマゾンは顧客に興味をもっており、かつビッグデータももつ。子どものニーズをとらえるのは、きっと必然だろう。

 たとえば、アマゾンで売れているおもちゃはなんだろうか。特撮ヒーローのベルトだとしよう。その良かったフィードバックはメーカーに届くだろうか。もちろん届くだろう。しかし、アマゾンの商品評価欄には、その数倍のデータが集まっているのではないか。あるいは、苦情はどうか。苦情もメーカーより、アマゾンへのほうがより多くの情報が集まっているのではないか。

 さらに購入者はどうだろう。冒頭で私のエピソードをあげた。購入者はもしかすると、父親や母親が大半であるとか、あるいは祖父母ではないだろうか。そうすると、両親や祖父母に向けたマーケティングが有効となるだろう。そうすると、子どもが「買いたい」商品ではなく、両親や祖父母が「買ってあげたい」商品が訴求性をもつだろう。さらに、購入時期はいつだろうか。ついでに買っている商品はなんだろうか。それらの情報をもっているのは、実にリアル店舗ではなく、アマゾンにほかならない。

 さらに、アマゾンのおもちゃを買った子どもたちは、次に何を買うようになるだろうか。そして、そのおもちゃを購入した(買ってもらった)子どもは、成長し、子どもができたときに何を買うだろうか、何を子どもに勧めるだろうか。

 アマゾンは、真面目に「ゆりかごから墓場まで」を実践しつつある。

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