社会人になってから算数を学ぶ大人たち。かなりの比率の日本人が仕事に必要な「読解力」「数的思考力」「IT活用力」を備えていないとも読み取れる国際調査の公表……。日本の人材力低下を意識させられる機会が増えている。
その理由として、「大人のための算数・数学教室『大人塾』」を運営するマミオン(東京・新宿)の森万見子社長は「明らかに日本の教育現場の変質がある」と話す。明治期から数えれば100年以上の歴史を持つ日本の教育制度。だが、「いよいよ日本の旧来型組織と同様に、既存の教育システムも立ち行かなくなってきた」と、教育学が専門の中澤渉・大阪大学教授も認める。
日本の教育劣化を強調したいが故に極端なデータだけを取り上げているという疑念を払拭するため、ここではさらに確度の高いショッキングなデータを上げておこう。
中高生の読解力はもはや危機的状況
今の中高生の3分の1は、簡単な文章が読めない――。書籍『AI vs.教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社)でこんな見解を示したのは国立情報学研究所教授で、同社会共有知研究センター長の新井紀子氏だ。
中高生の読解力について「危機的と言っていい」と警鐘を鳴らす新井氏。その根拠となるのが、全国2万5000人規模を対象に実施した基礎的読解力調査だ。
調査に使われた問題の一部を、許可を得た上で掲載したので、読者の皆様もぜひ挑戦していただきたい。
[問1]
次の文を読みなさい。
仏教は東南アジア、東アジアに、キリスト教はヨーロッパ、南北アメリカ、オセアニアに、イスラム教は北アフリカ、西アジア、中央アジア、東南アジアにおもに広がっている。
この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを選択肢のうちから1つ選びなさい。
オセアニアに広がっているのは、( )である。
- ①ヒンドゥー教
- ②キリスト教
- ③イスラム教
- ④仏教
落ち着いて文章の構造を理解すれば、簡単に正解できる問題のはずだ。
仏教は東南アジア、東アジアに/
キリスト教はヨーロッパ、南北アメリカ、オセアニアに/
イスラム教は北アフリカ、西アジア、中央アジア、東南アジアに/
おもに広がっている/
つまり、
東南アジア、東アジアに、おもに広がっているのは、仏教
ヨーロッパ、南北アメリカ、オセアニアに、おもに広がっているのは、キリスト教
北アフリカ、西アジア、中央アジア、東南アジアに、おもに広がっているのは、イスラム教
正解は②のキリスト教である。「そこまで丁寧な解説をしなくても誰でも即答できるのではないか」と思う人もいるかもしれない。が、この問題の正答率は中学生が62%、高校生が72%。この数字の怖さがお分かりいただけるだろうか。
新井氏は書籍の中で「(この簡単な問題を)中学生の3人に1人以上が、高校生の10人に3人近くが正解できなかったと理解すべきだ」と主張する。参考までに、「この問題に解答した745人の高校生が通っているのは進学率ほぼ100%の進学校」だという。
もう一つ、例題を引用してみよう。
[問2]
次の文を読みなさい。
Alexは男性にも女性にも使われる名前で、女性の名Alexandraの愛称であるが、男性の名Alexanderの愛称でもある。
この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを選択肢のうちから1つ選びなさい。
Alexandraの愛称は( )である。
- ①Alex
- ②Alexander
- ③男性
- ④女性
問1同様、文章の構造を把握すれば、正解はたやすいように思える。
Alexは男性にも女性にも使われる名前で(ある)/
(またAlexは)女性の名Alexandraの愛称である/
が、(Alexは)男性の名Alexanderの愛称でもある/
つまり、
Alex=男性にも女性にも使われる名前
Alex=女性の名Alexandra の愛称
Alex=男性の名Alexanderの愛称
正解は当然、①のAlex。問2に至っては正答率はさらに低く、中学生38%、高校生が65%だった。中学生の5人に3人、高校生の3人に1人は間違えたわけだ。選択肢④を選ぶ解答が多かったという。
3人に1人は存在する「AI未満人材」
上の2問はいずれも、文章の「係り受け」をどの程度理解しているかを確かめるものだという。係り受けとは、どれが主語でどれが述語か、どれが修飾語でどの言葉を修飾しているかの関係を指す。本書によると、こうした「係り受け」の問題に対するAI(新井氏が開発している人工知能「東ロボくん」)の正答率は8割。一連の事実をそのまま解釈すれば、こと係り受けの見極めに限れば、8割の確率で今の中高生の3人に1人は、AIに負けかねない状況にあることになる。
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