2003-12-19
近況
会社主催の忘年会に出席する. 飲み会やパーティの苦手な私が特に苦手立食形式. ふだんならひたすら食事を貪るところだけれど, 少しは社交に励んでみることにした. 私のいるプロジェクトを担当する営業の人や上司のそばでうろうろ. 会社の人間関係ネットワークは基本的に木構造であり, 各ノードは接続として木の枝といくつかのショートカットを持つ. 私は葉の位置にいる(下っ端なので). だからネットワークを traverse するには上流かショートカットの何れかをたどることになる. 上流が上司で, ショートカットが営業の人. 枝は他にもあるけれど, 次数の高さで彼らは群を抜いている.
もっとも, そんな事を考えたのは帰路についてからのことだと白状しよう. ぽつんと立っているのが寂しくて, かまってくれそうな相手を捜していたらそれが上司と営業氏だったというだけの話. 同期入社の仲間や職場の先輩は普段から一緒にいて, 別段忘年会で話すこともない. こんな時は普段話すことの少い相手をみつけたくなる.
営業氏や周りの人々の振舞いをみて, 宴会のプロトコルが少しわかる. たとえば, 彼が私に同じ部署の女の子を紹介してくれるユースケースについて観察してみよう. (その前に, 立食形式による宴会の要求事項を把握しておく必要がある. 憂さばらしは個人の問題として置いておくと, 社交を深めることがもっぱらの要件だと考えて良いだろう. 他人を紹介するケースはこの要件に因る.)
- まず, Carol (営業氏) が互いを紹介する. ( "彼(私のこと), ** 部で ** のプロジェクトをやってる Bob くん. こちらうちの部の Alice さん." )
- Bob (私) はおずおずと素朴な反応を返す. ("どうも Bob です. もごもご.")
- Bob が主体的にコミニュケーションできない人間だと察知した Carol は Bob ではなく Alice (同僚の女の子) に主導権を委譲する. (Alice に向かって: "Bob はいいやつだよ. どう?")
- Alice は主導権を受諾する. (コミカルに態度を改める演技をして "Alice です. 私, ピュアな子なんです!")
- Bob はプロトコルを理解できずうろたえる. ("...")
- Bob にかわって Carol がすかさずつっこむ. ("嘘つけこいつー")
Alice の発言は Bob の fail を許容できるだけの冗長性があった点に注目すること.
- Alice のリトライ ("いやほんとですよお." "私彼氏いないんですよー")
- Bob は(セッションを使わない)別のプロトコルを参照してしまう ("僕もですよー. 仲間ですね!")
- Carol は Bob がこのプロトコルを解釈できないと判断し, シャットダウンプロセスに入る. (Alice に対して:"じゃあクリスマスどうするのよ. 俺なんて大阪で営業だけど.")
- (以下省略)
宴会プロトコルは過剰に複雑で, その殆どがヘッダに相当するメタ情報からなる. 上の例でのペイロードは互いの部署と名前だけだ. 僅かな情報のために大量の通信が行われる. なんたる非合理!
プロトコルを理解していない部外者にはそう思える. プロトコルを理解できる立場にいたら, きっとこう考えるだろう: 宴会プロトコルはわずかな情報から大量の通信を生み出すことを目的に設計されており, 冗長であるほどよい. なぜなら通信者はそこに watermark を埋め込むことができるから. つまり volnerable な空間での secure communication を実現する手段の一つとしてそのプロトコルはある. 通信を傍受するにはプロトコルを理解しなければならない. プロトコルを知らなければ, そこにメッセージが埋めこまれている事さえわからない. 社交儀礼を知らない者に他人の真意を知る術はない.