2004-11-07
近況
本の雑誌 11 月号 を読んでいたら, 吉野朔美がエッセイで 本棚.org のことを書いていた. そういえばぜんぜん追加してないなあ, などと思いつつ読んでいると話題は 見せ本棚 の方向へ. おお, これだ! (写真参照.) でも回転できるスペースがあったらもっと本を置けるよなあ. やはり隠し観音開き方式が合理的だ...などと一瞬真剣に検討してしまった. 最近は早くも本棚が full になりつつあり危機感をつのらせるばかり.
最近読んだ本 : 若かった日々 (レベッカ・ブラウン)
またレベッカ・ブラウン. あとがきによれば自伝的な内容らしい. 家族との関係を中心に, 幼年期から両親の死まで, ある時の snapshot によって章だてがされている. ガールスカウト・キャンプの夜, 学校でのひととき, とかそんなの. 章の書き出しをいくつか並べてみると本書の性質がわかるかもしれない.
- 生まれたとき, 私は片目が斜視だった.("見ることを学ぶ")
- 小さかったころ, 母は毎晩私を寝かしつけてくれた. ("暗闇が怖い")
- 子供のころ, 私は毎年サマーキャンプに行った. ("ナンシー・ブース, あなたがどこにいるにせよ")
- 私が六歳のとき家族はスペインに移り住んだ. ("A Vision")
- 私の家族はかつてみんな煙草を喫っていた. ("煙草を喫う人たち")
- 私の父は海軍軍人だった. ("自分の領分")
- 私たちは母の家にいて. 母が息をするのに耳を澄ました("息")
こんなかんじ.
"若かった日々" の居心地の悪さ, 両親(特に父親)への不信感や嫌悪がうまく描かれている. 歳をとりそれをうけいれていくプロセスも自然.
"私はそれを言葉にしようとする."
そんな風に話は進み, 母の死を静かに迎え, そろそろおわりそうだけどまだページ残ってるなああとがきが長いのかな, などとぼんやりしていると 突如あらわれる内省的な独白に足元をすくわれる. そしてここが一番の読みどころなのだ.
私はそれを言葉にしようとする.
それは変わってはいないが私のなかからはなくならなかった. なくなって, それから, 私にはその必要があったから, いつだってその必要があったから, 私はそれを間違ったかたちで記憶した.
でもそれを完全に忘れることはできない. それはいつも, そこにあるから.
と始まる一連の, ほとんど独り言と夢想が入り混じった散文的な文章がすばらしい. 自分を支配し, ドライブする "それ" について語り, "言葉にしようとする". 決定的なのはこの翻訳. 柴田元幸は最近朗読にはまっている (というか朗読をする機会が多い) と POETRY CALENDAR TOKYO で読んだけど, その影響をうかがわせるような黙読を許さない息使い. すごい.
とにかくこの章は別格の迫力がある. 原文のよさはおいておくとして, プログラマでいうところの "神が降りてきた" 時に訳したのかしらと思わせます. (翻訳家にそんなのがあるとしての話ね.)