今回のベトナム旅行で、私が一番はっとしたのは、ベトナムにおける韓国ブランドの影響力だ。
サイゴンの街中だけでなく、どんなに田舎道を走っていても韓国ブランドのオンパレードだった。
例えば携帯電話。
多くの発展途上国の例に漏れず、ベトナムも固定電話より携帯電話のほうが普及しており、
どんな田舎に行っても、携帯電話が売られている。
そこにはNOKIAとSAMSUNGの字が大々的に出ている。
途上国では当たり前の現実だが、NOKIAとSAMSUNGが携帯電話の代名詞になっているわけだ。
ベトナムのような新興国に売る携帯電話を出してる日本のメーカーが無いのだから仕方が無いが、
何故出してないのかは一考に値する。
一方日本の反撃といえば・・・
というのは冗談ですが(写真は本物)、日本のハイエンド幻想を象徴しているような・・・。
サイゴンの街中にいれば、キヤノンやシャープの大きな看板があり、大きなソニーショップもある。
しかし、ブランドの知名度とは新興国の多くの人々が使う携帯電話や白物家電で広まるのであって、
ブルーレイや大型薄型テレビ、デジタルカメラのようなハイエンド商品で広がるのではないはずだ。
日本の得意分野、自動車はどうだろう。
前の記事「新興国で日本の存在感を考える」に書いたように、ベトナムではまだ乗用車は余り普及していない。
多くの人がバイクを使っており、そこではホンダブランドが大活躍だ。
乗用車セグメントでは、トヨタとヒュンダイ(現代)が競って攻勢をかけているようだが、なんせ市場がまだとても小さいので、決着がつくところではない。
こういう新興国では商用車(バスやトラック)市場を見るのが重要だ。
なぜなら、乗用車はぜいたく品であり、バイクなどの代用がいくらでもあるが、
貨物を運んだり、建設に必要な商用車は必須なので、新興国でも市場がある程度大きい。
実際、ベトナムにいて道を走っている車は殆どがトラックやコンテナ輸送車などの商用車だ。
国立公園からの帰り道、ずっと外を見ていると、驚くほど「HYUNDAI」の文字が多い。
ヒュンダイ、ヒュンダイ、ヒュンダイ、日野、KIA、ヒュンダイ、いすゞ・・・
こんな感じでトラックがひっきりなしに通っていく。
余りにヒュンダイが多いので、車の中で暇をもてあましていた私はとりあえず目視でシェアを図ってみることにした。
時は9月27日、15:50-16:05 の15分間。
国道?20号線上で、ホーチミンシティから来る対向車を計測。
(ヒュンダイ(現代) 64、KIA 20、日野 16、三菱ふそう 10、いすゞ 9、その他 23。その他は数が6台以下だったもの。)
サンプル数142台なのでいい加減だが、商用車では韓国がシェア6割、日本勢が2-3割というのは、
わりと正しい値じゃないかとおもう。
実際車の種類を見ていると、ヒュンダイはありとあらゆる車種のトラックやバスがある。
大型トラックも数種類、中型、小型は本当に色んな形の車種があり、バスの種類も多い。
KIAは中型・小型のトラックの種類が多い。
一方日本のメーカーはどうかというと、日野は大型車とバスに関しては複数車種ずつあったが、
三菱やいすゞは中型の1,2車種しかない。
単純にベトナム市場にどれだけの車種を投入しているかが、単純にシェアに反映されているように見えた。
そうすると、日本メーカーは単にシェアが取れないのではなく、取りに行っていないのでは、と思った。
何度も言うが、新興国における商用車の位置づけは大切だ。
ベトナムはまだ小さい市場なので、日本メーカーは力を入れていないのかもしれないが、こういう市場の積み重ねがチリツモになる。
全ての新興国で日本が弱いか、というとそうではない。
例えばタイに行くと、日本のメーカーのシェアはいろんなところで高い。
バンコクは暑いので、どんな小さなビルにもエアコンがついているが、室外機はほぼ全て三菱マーク。
商用車も三菱やいすゞをよく見るし、あらゆるところで日本のブランド名が目に入る。
タイとベトナムのこの圧倒的な違いは何か?
私の仮説は、日本企業が元気だった80年代~90年代初頭に大きく成長をはじめた新興国では、
比較的日本の製品のシェアが高く、ブランド力が強いのではないか、ということ。
当時大きくなった国や分野には、日本は頑張って人を出して、営業をかけて、売っていったのだと思う。
韓国、中国だけでなく、タイやフィリピン、マレーシアがこれに当たるだろう。
一方、日本が失われた10年に突入して、すっかり元気がなくなってから発展した国や分野では、韓国のブランドが強いんじゃないか。
インドやベトナムの家電や車の市場がそれにあたると思う。
いったい日本企業はどうしちゃったのか?
製品ラインナップがハイエンドを狙いすぎて、新興国に攻めていく玉が無いってことなのだろうか。
その根底にあるのは、日本企業の多くがハイエンド幻想-付加価値の高いハイエンドな商品を売って利益率を稼ぐべきという方向に行き過ぎたことではないか、と感じる。
このブログでも「イノベーションのジレンマ」や「ガラパゴス問題」について何度も論じてきたが、
実際に東南アジアに旅行に行って、目の当たりにすると言葉が詰まる。
参考記事
My Life in MIT Sloan-ガラパゴス問題をガラパゴスに閉じるのはやめよう
My Life in MIT Sloan - ガラパゴス問題の論点まとめ
ロンリープラネットの自由旅行ガイド ベトナム ニック・レイ メディアファクトリー このアイテムの詳細を見る |
去年、トルコに旅行に行った時もLilacさんと同じことを思いました。
走っている車はどこを見てもヒュンダイ。
街中には大々的なサムスンの広告。
しまいには、トルコの中古車屋さんの看板の
「Japanese Car」の一覧の中にTOYOTAやHONDAに混じってHyundaiの文字…。
現地のトルコ人に話を聞くと
「ヒュンダイは日本車の中でも一番安いから、皆ヒュンダイに乗っているんだよ」とのこと。
彼らはヒュンダイが韓国ブランドだとは知らなかったようです。
上手く日本ブランドに化け、新興国に売り込みに行く韓国の貪欲さと商売魂には本当に驚かされました。
あと、やはり日本ブランドは新興国の方々には『高級』過ぎるようで…。
日本ブランドというものはやはり世界的には認められているようですが、名前一人歩き状態なことも否めません。
なるほどトルコも2000年代に入ってから大きく拡大した市場ですものね・・。
更にヒュンダイは日本ブランドをうまく活用と。
これはアメリカとかでもそうで、アメリカ人の半数以上はサムスンが日本のブランドだと思っているそうですよ。
(ちなみにソニーはアメリカのブランドだと思ってるそうです)
それがメーカーの狙ったことなのかはわかりませんが、結果として品質に対するイメージを上げてるのは確かでしょうね。
近所のプライベートスクールに子供を迎えに来る親の車を見てみるとベンツ、BMW、レクサスとかが多いです。
自分の大学の生徒ではヒュンダイ、キアの割合が若干増えます。
新興国の場合は多分この学生たちに近いセグメントなんだと思います。世界的にみたらここが一番大きいので韓国の通貨安とFTA戦略は日本勢にとって脅威だと思われます。
日本はかって朝鮮戦争の特需であの国の不幸が戦後経済復興の手がかりとなったこともあり、韓国の経済成長や繁栄を同慶します。
兄貴分の日本もしっかりしないと。
先日、初めてホーチミンに行ってみましたが、韓国系企業は目立っている感じでしたね。ただ街を走るバイクは、スズキやホンダが多かったような気がしましたが。
これから日本企業が積極的に進出するという感じなんですかねぇ。
オーストラリアはそういう状況ですか。参考になります。
ところでPorqueってスペイン語で「何で?」という意味ですよね。
スペイン人がよく「ぽるけ?」とか言っててかわいいなと思っていました。
@韓国ラーメンさん
たぶん単純に日本企業が新興国の人が買える価格帯の製品を出してないということだと思います。
そういう意味で「ハイエンド幻想」と呼んでみました。
でもいまは日本人が豊かなので普通に日本人にあわせて作っていたらそれは当たり前なんですよね。
@Yumemakuraさん
私は今まで日本が韓国の兄貴分と思ったことは無かったんですが、なるほどそういう発想もあるわけですね。
確かに1980年代から始まる勧告の経済成長を大きく助けたのは日本でしたね。
「兄貴分の日本も頑張らなくては」ちょっとほのぼのしました。
@TianXingさん
なるほど、そういう見方もあるんですね。
前向きですね、そう考えればいいんですよね。
そう、これから積極的に進出すればいいんです。
韓国系企業のたくましさを感じています。
ベトナムに関して言えば、ベトナム戦争時に、たしか韓国の軍が参加して、ベトナムの地にさきに入っていたことも、影響があるのではないかな~と思ったりします。
ちなみに私はハノイにいるのですが、
公共バスは韓国のお下がりらしきバスだし、いろんなところで見かけます。
韓国からの留学生も・・・
http://gazoo.com/NEWS/NewsDetail.aspx?NewsId=31395849-6bc1-4731-bd1e-96e5257206ac
中古車といえども、高級な日本車は、アジアの新興国には流通しにくいのかもしれません。それが原因となって、アジアでの日本車のポーションが低下しているのであれば、中古車輸出をコントロールする仕組みが必要なのかなと思います。
むしろ東南アジアで一番厳しい市場が「タイ」。市場規模が比較的大きく、ひとびとの所得も高くなく、しかも本来購買力の高い都市部でも外資系スーパーなどの低価格販売チャネルが優勢なため、低価格ゾーンでのボリューム勝負になります。こういった市場は、韓国ブランドの一番得意とするところですので、サムスン・LGとも、東南アジアの橋頭保として、まずタイ市場を攻略してきました。
ベトナムについては、日本メーカーが本格的に動く前に市場に入り込もうということで、80年代後半から韓国ブランドが活動していたのですが、なかなか成功してはいませんでした。ベトナムは、タイにくらべるとはるかに付加価値志向の強いマーケットですので(ベトナムの人々の嗜好は、東南アジアというより東アジア=中国・韓国・日本のグループに入ると感じています)、ブランド品や付加価値品が好まれた、という背景もあります。
私が担当していた商品でも、当時(90年代後半~03年まで)は、ベトナムでの販売シェアは一位でした。商品ラインアップも毎年のようにリニューアル・拡充し、販売チャネルの安定に務め、さらに当時珍しかった保証制度やキャンペーンも連打し、トレーダー経由で乱暴な商売を行う韓国ブランドとは違うやり方で、NO.1ブランドの座をキープしていたのです。
しかし、最近聞くところでは、ここ数年ですっかり販売シェアも落としてしまったそうで、その理由はやはり価格攻勢のようです。90年代には生産拠点を中国に移管し、もとから優位性のあった技術力に加え価格競争力も強くなった時期があったのですが、今では韓国ブランドや中国メーカーの圧倒的コスト力には太刀打ちできなくなったようです。折角付加価値を評価してくれていたベトナム市場でも、圧倒的な価格力の攻勢には耐えきれないのでしょう。もちろん、韓国ブランドの攻勢は価格力だけではありません。携帯やTVへの集中宣伝によるブランド力アップ、というファクターも強くあります。
日本メーカーも、当然一銭単位でのコストダウンを突き詰めています。しかし、今まで積み上げてきた品質基準やノウハウなどのベースがあるがため、むしろ根本的なC/Rができていないようです。そんな基準ならやめてしまえといわれるかも知れませんが、今までは、それが他社にない強みとなり成功してきたわけで、それを捨ててしまうと、価値観が混乱し、事業はバラバラになってしまうのです。
これも「イノベーションのジレンマ」の事例でしょう。このあたりの話をするとあまりに長くなりますし、私の仕事の話に立ち入ってくるので、ここまでにしておきます。
失礼いたしました。