れいわ新選組は衆院選で国民民主に入れた「新規の客」を取れたはずだ
先日の衆議院選挙で大躍進しキャスティングボートを握った国民民主党は、新規のお客さんをごっそり取った。
だが本当なら国民民主に今回、新しく投票した非正規雇用者や派遣社員などワーキングプア層の経済的欲求を満たすのは、大胆な
積極財政政策を掲げる「れいわ新選組」だったはずだ。
おそらく本来なられいわの山本太郎代表は彼らの支持を得て、今の国民民主の地位を取りたかっただろう。だから今回の選挙に勝ったとはいえ、太郎氏は悔しそうだった。
ではなぜれいわはそれを成し遂げられず、国民民主に次ぐ2番手になり下がったのか?
まず大前提としていえるのは、現状、いきなり政権交代は起きにくい情勢にあるということだ。とすればこの状況で野党が自分たちの政策を実現するには、うまく与党と交渉しなければならない。
その点、国民民主の玉木代表は「我々は与党の延命に協力しますよ」というスタンスを取った。つまりいわゆる「ゆ党」のそぶりをしながら、自民側と上手に交渉した。これが大きかった。
このやり方なら、何も自分たちが政権交代しなくても自党の政策を実現できるからだ。
確かにこれで有権者には、いかにも国民民主の政策が通りそうに見える。一方、国民民主党は、「与党に賛成する代わりに、与党は我々の政策を飲んでくださいね」と言える。
この点で自公政権に反発し、ひたすら声を荒げて突っ張るれいわ・山本代表とは好対照だ。ここはアタマがよくてズル賢い玉木代表はうまくやったといえる。
れいわ新選組は「左」に見えるぶん損だ
第二に大きいのは、れいわの政治的なスタンス、つまり見た目がいかにも「人権を重視する左派の典型」に見える点だ。
一方、衆院選で国民民主党へ大量に雪崩れ込んだ有権者層は、1997年度から2012年度に生まれた18歳以上〜30代の「
Z世代」である。
彼らは生まれたときから、ほぼ世の中に「右派しかなかった世代」だ。だから彼らも自然に右派になった。その意味で生まれついての、意識せざる生粋の右派といえる。
そんな彼らのなかには衆院選で国民民主党の「手取りを増やす」のキャッチフレーズを見て、今回まったく初めて選挙へ行った人も多い。
つまりZ世代は今まで政治になんて興味なかったのだ。だから彼らの多くは、これまで選挙を棄権していた。
だがその彼らが選挙に関心を持つようになったのは、実は先日の都知事選挙で石丸伸二候補が新旋風を巻き起こしたからだ。あのときに石丸氏を支持したのも、Z世代だったからだ。
で、そんな彼らは今回の衆院選でも選挙に参加し、今度は国民民主党に入れた。
とすれば彼らは投票する有権者全体のパイ(比率)を増やし、新たな需要を掘り起こす役目を担ったことになる。これは大きい。
ではなぜ衆院選では、彼らが選挙に参加したぶん投票率が上がらなかったのか?
それはこれまで必ず選挙へ行っていた自民党の支持層の一部が、今回自民が引き起こしたウラ金問題にウンザリし選挙を棄権したのだろう。だからそのぶん差し引きゼロになり、投票率が上がらなかった。
あるいはそんな自民支持層が、部分的に国民民主の支持に回ったのかもしれない。で、差し引きすれば投票率が変わらなかったのかもしれない。
z世代が固着していた票のバランスを破壊する
さて(繰り返しになるが)Z世代の多くはいままで投票を棄権してきた人々だ。ゆえに今後の来るべき政権交代を起こすに当たり、重要な役割を担う層になる。
というのも今までの選挙では、自民・公明が(投票された票のうち)過半数の票を取ってしまい、これだけで政権を握り続けていたからだ。
で、残りの投票された分はといえば、野党がそれぞれ小刻みに四分五裂、分け合うだけ。これらの票は大勢にまったく影響ない。一方、あとに残る多くの有権者たちは、今まで選挙にまったく行かなかった。
すべて棄権者だ。
かくて票の配分はこれで完全に固着してしまい、自公政権がすっかり定着していた。つまりZ世代が、今までずっと選挙を棄権し続けていたのが大きかったわけだ。
となれば裏を返せば、カギを握っているのは彼らZ世代だということになる。
先日の都知事選で初めてZ世代が選挙に参加した
で、その通り長く続いたこのバランスを壊したのが、先日、行われた都知事選に出た石丸伸二候補だった。
彼はSNSを使った巧みなネット戦術で若者に訴え、インターネットを使い慣れたZ世代を動かした。彼らを選挙に誘導し、その票を獲得した。
かくて選挙へ行かなかったZ世代の多くの票が、まったく新たに選挙マーケットに加わることになった。これで日本の選挙における票の配分バランスは、大きく変わる。
こうして日本は新時代を迎え、今後は自公以外の第三勢力にも広く政権奪取の可能性が生まれるだろう。
今まで棄権していた彼らが新しく政治参加すれば、従来の完全に固定化していた各党間の得票バランスがまるで変わる。で、政権交代が起こる可能性も高まるはずだ。
Z世代が生まれた時にはすでに右派しかなかった
ちなみに彼らZ世代が生まれた時には、すでに政治的な「左右の対立」なんてとっくに終わっていた。
世の中には、もうほぼ右派しか存在してなかったのだ。だから彼らZ世代が右派になるのは、水が上から下に流れるように自然だった。
だってそこには、もう右派しかいないのだから。
ゆえにZ世代は自分たちが右派であることにさえ、さほど自覚的じゃない。それだけ自分が右派なのが、ごく自然で当たり前の時代に生まれたわけだ。
だからなんとなく雰囲気が「左派っぽい」れいわ新選組とは噛み合わない。ここが致命的なマイナスポイントになる。
山本太郎代表率いるれいわ新選組は、今後、このギャップをどう解決するか? がカギになるだろう。
実はれいわは「左右対立」でなく「上下の戦い」をにらんでいる
だが実は山本代表は、今後の政治は「左右の対立」ではなく「上下の戦い」、つまり「上流階級 vs 下層階級」の戦いになると読んでいる。
彼は左右の別にはこだわらない。
山本代表が考える上下対立の構図とは、「既得権益層」と「持たざる者たち」という対立軸だ。同時にそれは「抑圧者(支配層) vs 非抑圧者(被支配層)」の対決でもある。
すなわち
この記事でも解説した「1% vs 99%」のせめぎ合いだ。
山本太郎代表がやりたいのは「積極財政」である
そんなれいわの山本代表が政権を取った場合、まずやりたいのは積極財政だ。
具体的には、経済的弱者である下層階級を助けるために消費税の減税(または消費税の廃止)や「10万円の現金給付」などの経済政策を用意している。
また政府の大きな財政政策のひとつは、市場にあるマネーの量を調節することだ。なぜなら唯一、政府だけが国債を発行でき、(実態的には)「お金を新たに作れる」からである。
例えば「ユーロ」という共通通貨を使う欧州連合諸国(EU)などとちがい、日本には「円」という日本国固有の独自通貨がある。
一方、日本の国債は円建てだ。だから国債は必ず償還される。デフォルトするなんてあり得ない。したがって日本は経済破綻しない。
ゆえに市場でお金が欠乏しているときには(今の日本は「この状態」にある)、その際は政府が大胆に財政支出して市場にマネーをマンマンと満たす。
具体的には、政府が前述した消費税減税や現金給付をするほか、公共事業をやったり、必要な失業者対策や企業支援などを行なう。
一方、逆に市場にお金があふれている(多すぎる)ときは、政府が消費増税などを行ない、熱した市場からおカネを間引いて市場の熱を冷ます。おカネを減らす。
こうした「押し引き」する調整こそが正しい景気対策であり、経済財政政策である。
日本の財務省がいうように、予算の支出と収入を一会計年度内で一致させるべきだ、などとする
財政均衡主義は、はるか19世紀の遺物にすぎない。
どんなときにも「
緊縮財政」一辺倒なんて常識はずれな話である。
真の「積極財政」を唱えているのはれいわ新選組だけだ
だがそれならなおのこと、れいわ新選組のヘンに左っぽく見える見た目は改善の余地がある。
これではれいわは誤解されてしまう。
それもあったのか、政治に新規参入してきたZ世代というおいしい右派層にもれいわはリーチできなかった。
しかもあの国民民主党は皮肉なことに、れいわと比較的近い積極財政的な政策を唱えている。
だが実はむしろワープア層が多いZ世代のニーズを本当の意味で満たすのは、経済政策的には(国民民主ではなく)れいわ新選組だ。
なぜなら国民民主が唱える経済政策は、せいぜい「103万円の壁」やガソリン減税ていどでしかない。
ぶっちゃけ、政府に対する要求がしょぼい。
だがれいわ新選組は「103万の壁」よりはるかに国民がトクする本格的な消費税減税や、現金給付、また国債発行を絡めた財政支出を政府に迫っている。
つまり本当の意味での積極財政政策を唱えているのは、日本の政党のなかではれいわ新選組が唯一の存在だ。
小泉改革的な「シングルイシュー戦略」で積極財政だけで行け
ちなみに最近では「右派だからこそ」Z世代にリーチし、彼らの支持を得たケースは、(1)衆院選で躍進した玉木代表の国民民主党、(2)兵庫県知事選挙で斎藤知事を「側面応援」し当選させたN党・立花孝志氏、(3)都知事選で大旋風を巻き起こした石丸伸二氏ーーの3つのケースだった。
一方、れいわ新選組がいまの妙に左っぽいそぶりをやめ、左派と右派を合流させる大きな勢力を作り政権交代を起こすには、あの自民党の小泉純一郎首相がやった「小泉改革」的なシングルイシュー戦略しかない。
つまり政策を徹底的な積極財政オンリーにし、複数の党がよりまとまりやすいよう共通政策をひとつに絞る。
そして異なる複数の政党を糾合し、「大きな塊」を作って多数派を作り選挙に臨むのがベストだろう。
勝負はいかに「1% vs 99%」の戦いに引きずり込むか?
繰り返しになるがれいわ新選組にとって勝負すべき土俵は、旧来から政治的なイデオロギーとして根付いている左右対決のような古い舞台じゃない。
いかに「1% vs 99%」の戦いに持ち込むか?
エリート富裕層など「1%の既得権益層」 vs 貧しく抑圧された「99%を占める庶民の戦い」へどう持って行くか? だ。この構図なら多数が取れる。
それには生まれた時からネットがあった初めての世代である10〜30代のZ世代を、SNS戦略で取り込むいくつかの方策を打つことが必要になる。
まず生まれた時から右寄りの彼らが納得するような、左右の古い価値観にこだわらない政策を取ることが肝心だ。
それにはれいわは現状のように、例えば障害者を3人も立てて話題作りするような戦略を取るのは「左翼か?」などと誤解されて却ってソンだ。
本気で多数を占めて政権奪取を狙うなら、今後はこうした抜本的なイメージ作りから考え直す必要があるかもしれない。
それには山本代表は、「経済以外」の部分でヘンに左派的な色を出すのはやめた方がいい。
あくまでも左右の別にこだらず、上下のみを押し出す姿勢を見せ続けるのがベストだろう。
積極財政のインフルエンサーも揃って右派だ
こうして左派色を払拭できれば、あとは社会的な影響力が大きく選挙で票に結びつきやすいインフルエンサーたちの支持を得ることも重要になる。
というのも日本で積極財政を喧伝するインフルエンサーは、これまた一部を除き、揃って「右」なのだ。その意味でも左派色を抜くことだ。
例えば考えられる「応援団」の候補としては、まず著作家の三橋貴明さん(YouTubeチャンネル「
三橋TV」運営者)、
中野剛志(評論家)さん、
室伏謙一(室伏政策研究室・代表)さん、
藤井聡さん(京大教授)、ジャーナリストの
鮫島浩(元朝日新聞社)さん、元明石市長の
泉房穂さん、あたり。
このほか議員としてなら
小沢一郎さん(立憲民主党)や、
須藤元気さん(元立憲民主党)。
加えて立憲民主党に30〜40人ほどいる積極財政論者の「山本太郎シンパ」が揃って脱党してくれば、勢力としてはかなり有望になる。彼ら積極財政派を経済政策のワンイシューですべて糾合することが大切だ。
「そろそろヘンなこだわりは捨て、ひとつにまとまろう」
こう彼らに呼びかければ、うまくマッチングできる可能性はある。
かつてなら、なりふり構わずこれができたのが(現・立憲民主党の)小沢一郎氏だった。だが今の彼にそれが可能だろうか?
いや、いまならやはりそれをやるのは山本太郎だろう。
そう感じる。