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濱口秀司氏が語る「社内説得」のジレンマと解

monogoto 濱口 秀司 氏インタビュー:第2回

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 USBメモリの発明をはじめ、幅広い業種のイノベーションに携わってきた濱口秀司氏。誰も見聞きしたことがないイノベーティブなアイデアは不確実性が高いため議論を呼びやすい。そのため、イノベーションを実現するには、通常のマーケティング(エクスターナルマーケティング)の前にまずは、仲間や社内を説得すること(インターナルマーケティング)が不可欠だという。クリエイティブ層を悩ませる、マネジメント層とのコミュニケーションギャップを埋める「社内説得」に関して、濱口氏が豊富な経験から導き出した方法論を解説いただいた。前回の記事はこちら。

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アイデアは構造に載せ「コンセプト」として伝える

発想、説得(社内マーケティング)、認知(社外マーケティング)図1:発想、説得(社内マーケティング)、認知(社外マーケティング)
© Hideshi Hamaguchi

——組織内イノベーターが心得ておくべきコミュニケーションのポイントを教えてください。

 組織内のマネジメント層とクリエイティブ層の間のコミュニケーションギャップは世界中の企業が抱えている問題だと感じています。クリエイティブ層に対してマネジメント層は、「売り上げ見込みや利益はいくらなのか、計算したまえ」といったことをせっかちに求めがちです。マネジメント層はえてして数字でロジカルに考えがちですが、僕たちが提案する新しい発想・イノベーションは不確実性のレベルを押し上げる作業なので、彼らが求める数字を用いた議論法は基本的に使えません。たとえばiPhoneの販売数などは、発売前には絶対わからなかったはずですよね。それでも製品リリースの意思決定をしなくてはいけないわけです。

 一般的にマネジメント層は実務に追われているので、せっかちで迅速な答えを期待している。また、具体論・本質論を好みます。そういう彼らに対して数字なしでコミュニケートするのは実に難しいのですが、そのギャップの埋め方を紹介しましょう。ポイントは以下の3つです。

タイトル図2:組織内の人材分布は、構造的で論理的な思考様式のマネジメント層(左)とケイオティックで直感的な思考様式のクリエイティブ層(右)に大別され、使用言語が異なるため(たとえば、数字vsイメージ、論理vs感覚など)、両者をつなぐコミュニケーションができる人は少ない。
© Hideshi Hamaguchi

1.アイデアを構造に載せて「コンセプト」として伝える

 まずアイデアについては、クリエイティブ層からよく「うちの経営層は、不確実性やイノベーションに対する理解がないから、僕たちのすごいアイデアを理解してくれない。どうしたらいいですか」と聞かれます。こういうとき僕は「それはそのアイデアそのものがよくないのです」と答えることにしています(笑)。経営者も人の子ですから、背筋も凍るようなおもしろいアイデアであれば、なにか引っかかるはずですよ。プロジェクトが先に進まないケースの99%は実はアイデアそのものが弱いということです。

 「モデルを組んで壊す」→「アイデアを作る」→「また壊す」という僕のアイデア創出プロセスでは、論理的な切り口をふんだんに作ってゆくので、「ふつうはこう考えるけれども、これはここが違うからおもしろい」、「業界はこちらを向いているが、ユーザーは逆にこちらの方向をベネフィットと感じるはずだ」など、アイデアの強さを証明するためのいわば論理の残骸がたくさん残ります。だからアイデアに必ず理由がつけられる。数字はなくても、アイデアを論理的な構造の中に入れて示すことができます

 なおアイデアとコンセプトを同義で使う人がいますが、ここで「コンセプト」と「アイデア」の違いを定義しておきます。コンセプトとは、「アイデア」と「切り口」を合わせたものです。すなわち具体と抽象のセットで、ダイアグラムなどの構造化された切り口(モデル)の上にアイデアを位置付けたものをコンセプトとして取り扱います。

 最初のステップとして、経営陣にはアイデアをある構造に入れて「コンセプト」として伝えることが重要です。彼らは具体論が好きなので、これを短時間で彼らに投げかければ、効率的に議論の土台に載せることができます。僕はどんなに難しいコンセプトでも3分間で説明する準備をします。彼らにはそれくらいのタイムスケールが合うのです。

 今までにない新しい企画に対しては不確実性の高い数字の議論をするよりも、そのアイデアがいかに業界のバイアスを破壊しているかという、数字で語れない議論をすることにむしろ力を注ぐべきです。

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