メンター制度は組織の成長に欠かせない存在だ。しかし、組織改編や異動などでメンターが変わる時期は、チームの真価が問われる重要な転換点となる。ベイジでは10月、組織改編に合わせてメンターの一斉入れ替えを行い、本記事で紹介する施策を全て取り入れた。その結果、大きな混乱もなく、スムーズな移行を実現できている。この経験から得られた知見をもとに、変更時の対応ポイントをまとめてみた。
メンター変更から1か月は、新しい関係性への期待感が強く表れる時期だ。メンティーは新しいメンターとの出会いに前向きな気持ちを抱き、お互いを知るための対話も活発に行われる。そのため、「今回のメンターは、自分のことを考えてくれる人だ」という充実感を得られやすい、ポジティブな時期である。
しかし、1か月を過ぎた頃から状況が変わってくる。メンティーの中に様々な不安が芽生えることがよくある。例えば、以下のようなものだ。
メンターには細やかな観察と適切な介入が求められる。この時期をどう一緒に乗り越えるかが、その後の関係性構築の鍵を握っており、メンター・メンティー両者の成長を左右する重要なポイントとなる。
具体的には、1on1の頻度を一時的に増やしたり、カジュアルな対話の機会を意識的に作ったりすることが効果的である。まだ関係性が浅い段階では、業務の話題だけでなく、世の中の出来事やメンティーの趣味など、パーソナルな会話を織り交ぜることで、自然な関係性を築いていくことを心がけたい。また、必要に応じ、チームメンバーの協力体制を構築したり、前任メンターからアドバイスをもらうことも検討したい。
メンター変更を成功させるためには、個人レベルの対応だけでなく、組織として計画的にサポートする体制が重要となる。ベイジで効果的だった取り組みを紹介する。
移行期間は最低でも1か月は確保することをお勧めする。この期間に、旧メンター・新メンター・メンティーが同席する「3者面談」を実施する。メンティーの特徴や、これまでの成長過程、今後の期待値や課題点などを具体的に共有する。
このあとに、新メンターからメンティーに対して、具体的な期待値を明確に伝え、メンティーが目指すべき方向性を示すことも重要だ。
メンターを担当するマネジメントレイヤーのみでの情報共有の場を設定する。メンター同士が各メンティーの成長状況や課題を共有し、指導方針の擦り合わせを行う。メンバーへの接し方の悩みや、効果があったアプローチなど具体的な知見の共有が、メンター全体の指導力向上につながる。
メンター、メンティーどちらに対しても、なぜその相手を選んだのか、どんな成長機会があると考えているのかなど、選定理由を丁寧に説明することが重要だ。
ベイジでは取り入れていない施策としては、定期的なメンター変更の制度化がある。定期的にメンター変更することが決まっていれば、組織全体でメンター変更を日常的な出来事として捉えられるようになり、心理的なハードルを下げることができる。
さらに、引継ぎの標準プロセスを確立することも効果的だ。「いつまでに」「どんな項目を」「どのように」引き継ぐのかといったプロセスを明確にすることで、誰が担当しても一定の品質を保ったメンター変更が可能となる。
メンター制度は単なる知識やスキルの伝達の場ではない。メンティーの成長を支援し、組織全体の発展につなげていく重要な仕組みだ。メンター変更という転換期を、ポジティブな成長機会として活用できるかどうかが、組織の真価を問う重要な場面となる。
育成に絶対の正解はないが、変化には必ず時間と細やかな配慮が必要だ。組織としての支援体制と個々のメンターの細やかな対応があってこそ、真に効果的なメンター制度の運用が可能となる。