「夏の家」では、先生がいちばんの早起きだった。 夜が明けてまもなく目が覚めたぼくは、狭いベッドに身を横たえたまま、階下の先生の気配にじっと耳を澄ませていた。枕元においた腕時計を手に取り、薄暗がりのなかで文字盤を見る。五時五分過ぎだった。 玄関の真上にあるベッドつきの書庫で、ぼくは寝起きしていた。明け方、ベッドの下の床から、古い木造の柱と壁をはいあがるようにして、ごとごとと控えめなくぐもった音が伝わってくる。 それは、玄関の内側にかけてある心張り棒を外して、壁に立てかけている音だ。大きな引き戸を左側の戸袋へと収めたあとは、その向こうにあるドアを家の壁にあたるまで一八〇度押し開き、真鍮のドアノブに麻縄のフックをかけておく。こうすれば風でドアが閉まることはない。それから内側の網戸を引く。先生は散歩に出ていったようだ。夜の森で冷やされた空気が、網戸ごしにゆっくり入りこんでくる。「夏の家」はま
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