「詐欺師の天国」だったキエフ ニューヨークの排他的な「ロシアンヘア」業界の大物プレーヤーになるなんて……。それは夢見たことなど一度もないキャリアだった。 その世界では、年若いロシア人女性の頭皮から調達したシルクのようなブロンドヘアで作ったウィッグやエクステが、上流階級の一部で「ヘアの中のゴールド」として珍重されていた。この私がそんなエクスクルーシブな業界の大物になるなんて……。 自分はもっと高尚な仕事をする運命にある。ずっとそう思っていた。 私はコロンビア大学を卒業し、東欧でジャーナリストの道を歩み始めた。一時期はロシア版「プレイボーイ」誌の編集長を務めたこともある。その後、人気ファッション誌「B.East」の編集者兼発行人として10年近くを過ごした。 ところが、2010年の金融危機で雑誌がつぶれ、私はウクライナの崩れかけた首都キエフで無一文の行き詰まりに陥った。 そもそもキエフに移住した