「こういう場所では、普通、新しいカフェをこんなイスやテーブルでは作らないよ」。私は執筆家デーヴィッド・マークス(W. David Marx)と向かい合って座っている。多くの観光客にとって東京の喧騒に満ちた未来性を象徴する、渋谷の有名なスクランブル交差点。そこから歩いて10分の静かなレストランだ。彼と会うにあたり、私が自分では決して行かないような場所を選んで欲しいと依頼してあった。そして選ばれた青山壱番館は、条件に適った場所だった。焦げ茶色の木とそれに調和する革を使った内装は、どことなくアールヌーヴォー。マークスによれば、この手のカフェは、タバコをくゆらしながらゆっくり新聞に目をとおす年輩の男性が主たる顧客とのこと。「2003年に東京に引っ越して来た当時は、いちばん新しくてブームのものばっかり躍起になって探したけど、今は、まだ残ってることが信じられないような、いちばん古いものを探すようになっ