1. まえがき 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関するニュース等において,ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法の名称がしばしば取り上げられたこともあり,最近では,「PCR」という用語は世間一般にも広く知られる様になった.PCR法は,キャリー・マリス博士が,ベンチャー企業に在籍時に発明した核酸の増幅法であり,1993年度ノーベル化学賞を受賞するに至った技術である.DNAやRNAを扱う基礎研究のみならず,臨床検査や環境衛生,犯罪捜査といった幅広い領域にも,現在PCR法は利用されている1). PCR法の基本原理を図1に示す.試料DNA(鋳型DNA)と,その中の標的配列を認識して挟む様に結合する2種類の20塩基程度の短い1本鎖オリゴDNA(プライマー)と,DNAの材料となる核酸モノマー(dNTP)に,それらを重合する耐熱性DNAポリメラーゼ酵素を混合してPCR溶液を調製する.そのPCR溶