なぜ、いま、石原慎太郎 栗原 なぜ今さら石原慎太郎をやろうと思ったかというと、第一に、ともかく作家・石原慎太郎が語られていないから、ということですよね。日本文学における慎太郎の立ち位置ってかなり特異で、日本近現代文学史全体を見渡すとちょうどヘソのあたりにいるし、彼の作家人生って戦後の日本文学全体の歩みとほぼリンクしているんですよね。 豊崎 芥川賞作家のうち、現役でやってる中では最古といっていいお方。 栗原 はい。芥川賞というと今でこそ文学界を超える国民的一大イベントとして認識されていますが、戦後しばらくまではそれほど派手な賞ではなくて。芥川賞受賞にこれほどのステイタスを与えたのって、実は慎太郎なんですよね。石原慎太郎というスターの登場が、崩壊しかかっていた文壇を、芥川賞を軸にする形でジャーナリスティックに再編してしまった。だから「石原以前・以後」という区分けすらできてしまうのに、でも語られ