原稿を送ると、大抵の編集者が、「手書きなんですね」と驚く。「久しぶりに接します」と言うから、私のように原稿用紙をペンで埋めるような小説家は、当今よほど珍しいのだろう。 私の場合、文字を書くのが大好きなので、原稿は手で書く。ワープロ以外は受けつけない、と言われたら、私は文章を売るのをやめ、それでも、こつこつと文字だけはつづっているだろう。 文字を記すのが好きなくらいだから、他人(ひと)さまの文字を見るのも、大好きである。作家の肉筆を見ると、胸がときめく。 いくつになっても、自分は文学青年なんだな、と苦笑が出るのである。 ワープロで育った人たちは、ペンで記された文字を見ても、おそらく何の感慨も無いのではあるまいか。 ところで作家の原稿に限って言えば、近頃私は、この人の生原稿が見てみたい、とやみくもに駆り立てられるような文章に出会わない。思わず身ぶるいするような名文に、である。 作家がワープロを