「及川さん、福島ではもう誰もマスクはしていません」 昨年の5月ごろだったと思うのだが、彼はそう言った。 福島市内に居を構える彼は福島では日常が戻りつつあることを私に訴えた。放射線量の話題で首都圏でももちきりだったころだ。福島のホテルで見た地元のテレビは、まるでデータ放送を表示しているときのように、番組の内容とは無関係に、各地の放射線量を上部で横スクロールさせ表示させていた。 その彼の横にいた、ほか都市から赴任してきていたもう一人の福島市民は複雑そうな顔をしている。後で知ったのだが、彼は実家から福島を離れ帰ってくるように言われていた。 現時点でも放射線量が人体に与える影響についての結論は出ていない。おそらく、数年後もしくは数十年後にならないとわからないだろう。しかし、放射線が降り注いだことは事実であり、その事実に向き合って、どう判断するかを迫られたのが福島県民だ。 ある人は人体への影響は無い