就職を機に一人暮らしを始めた兄は、「便りがないのは良い便り」とでも言うように、めったに連絡を寄こさなかった。 けれども、趣味にしているフリーソフト(無料かつ無償で利用できるソフトウェア)制作のおかげで、どうやら元気に暮らしているらしいとわかるのだ。 私は、フリーソフトの紹介サイトで、お気に入りの制作者として、兄のことを登録している。すると、新作のお知らせや、発表済みソフトの更新情報などの通知が届くので、結果的に生存確認ができるというわけである。 兄が制作した最初のソフトウェアは、『逆引き花ことば事典』だった。 当時、花屋でアルバイトしていた私の頼みに応じて作ってくれたものだ。 「愛」「友情」「感謝」などの単語だけでなく、 「遠くへ旅立っていく片想いの相手を笑顔で見送る」とか、 「ケンカしてSNSをブロックされてしまった恋人に許しを請う」というような、特定の状況に即した花の候補を、ファジー検