全部乗っけかよ、ロビンスン! 『2312』には、テラフォーミングの進んだ太陽系、チューリングテストを突破する量子AI、自由に性転換をする人類など、絢爛たるアイデアがどっさりだ。大盤ぶるまい。それでいながら、シンギュラリティとかポストヒューマンとかトンガった方向へはいかない。カッティングエッジのネタをどっさり乗せつつ、物語は昔ながらのストレート/ストロングなSFだ。 題名が示すとおり時代は西暦2312年。高度に発達したエンジニアリングを駆使して、人類は水星から土星衛星群にまたがる太陽系諸天体へと居住域を広げていた。皮肉なことに当の地球にだけは大胆なテラフォーミングが施せず(広く人が住んでいるせいで)、環境破壊がじわじわ進むばかりの後進地域に成りさがっていた。資源も枯渇し、文化的にも停滞している。それが宇宙で新天地を切り拓いた者たちとの軋轢を生む。また、諸天体間にもさまざまな利害関係があり、そ