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ChatGPTからロボットへ AIに新たな“爆発的進化”が訪れる可能性

2024年09月18日 14時15分更新

文● 田口和裕

 OpenAIも出資するノルウェーのロボット開発企業「1X(ワンエックス)」は8月30日(現地時間)、家庭向けに設計された二足歩行ヒューマノイドの試作機「NEO Beta」を発表した。

人間のような動きの試作機

 1Xはノルウェーを拠点とするヒューマノイドロボット開発企業。2014年の設立以来、安全で知的な人型ロボットの開発に取り組んでいる。2023年3月にはOpenAI主導のシリーズA2ラウンドで2350万ドル(およそ33億2800万円)を調達し、業界の注目を集めている。

 今回発表されたNEO Betaは従来の機械的なロボットとは一線を画す、人間と安全に共存できる生物にヒントを得たヒューマノイドロボット。公開されたデモ動画では、NEO Betaが自然な動きで人間の女性と肩を組み、安全に共存する未来をアピールしている。

 「私たちの最優先事項は安全性です」と1XのCEO、Bernt Børnich氏は述べている。今後1Xは少数のNEO Betaを研究開発目的で厳選された家庭に配備し、将来的にはノルウェーのモスにある同社の工場で大量生産を目指している。

 NEO Betaは、これまでのロボット開発における重要な課題を解決する新しい取り組みを導入している。特に注目すべきは、ロボットの性能評価という長年の課題に対する革新的なアプローチだ。

ロボティクスの評価問題

 性能評価の方法は汎用ロボットの開発における大きな課題だ。たとえば1000種類のタスクをこなせるロボットを開発したとして、それが従来のロボットと比べ、全てのタスクで優れているかテストをするのは非常に困難だ。

 さらに厄介なのは、環境の微妙な変化による性能低下だ。例えば、背景や照明のわずかな違いで、Tシャツを折るロボットの性能が数日で急激に低下するという現象が見られた。家庭やオフィスのような変化の激しい環境では、この問題はより顕著になるという。

Tシャツ折りたたみロボットの性能評価

 こうした評価の難しさは、ロボット工学の進歩を妨げる要因となっている。性能を正確に測定し予測できなければ、開発の方向性を定めるのも難しくなるからだ。

 これらの課題に対し、1XはNEO Betaの開発に際し、ワールドモデルと呼ばれる先進的な技術を活用している。

ワールドモデルとOpenAIの家事ロボットへの取り組み

 ワールドモデルとは、ロボットが現実世界をシミュレートし理解するための高度なAI技術だ。環境の変化を学習し適応できるため、多様な状況下でのロボットの性能を正確に予測できる。

 また、何百万ものシナリオを高速でシミュレートできるため、実世界での試行錯誤なしに、ロボットの能力を包括的に評価することが可能になる。これにより、前述のロボティクスの評価問題を解決する可能性を秘めている。

リビングを探索するロボット

洗濯物を整理するロボット

 1Xは、実際の家庭環境での大量のデータ収集と、それに基づく精密なシミュレーション能力の向上によって、このワールドモデルをNEO Betaに実装することを目指している。

 さらに、ワールドモデルはロボット工学における「スケーリング則」の確立につながる可能性がある。スケーリング則とは、AIシステムの規模を大きくすると性能がどれだけ向上するかを予測する法則のことだ。OpenAIが開発したChatGPTは、この法則を大規模言語モデル(LLM)で実証し、AIの能力を飛躍的に向上させている。

 実は、OpenAIは2016年6月に発表した「OpenAI technical goals(OpenAIの技術目標)」という記事で、すでに家事ロボットの開発に言及している。文中で「基本的な家事をこなす物理的なロボット(既製品:OpenAIが製造するものではない)の実現に取り組んでいる」「学習アルゴリズムは最終的に、汎用ロボットを作成するのに十分な信頼性を持つようになると信じている」と家事ロボットについて言及しているのだ。

 この目標設定から7年以上が経過した今、OpenAIが1Xに出資したことは、家事ロボット実現への具体的な一歩と見ることができる。1XのNEO BetaとワールドモデルのアプローチはまさにOpenAIが描いていたビジョンと合致している。

 ワールドモデルのスケーリング則が確立されれば、ロボットの能力は急速に進化する可能性がある。このビジョンは、OpenAIが1Xに出資した理由の一つと考えられ、ワールドモデルを通じてロボット工学がLLMのような技術的ブレークスルーを迎えることへの期待が高まっている。

 また、OpenAIも指摘しているように、ロボット工学はAIの多くの課題にとってよい実験の場(テストベッド)となる。1XのNEO Betaとワールドモデルの開発は、まさにその実証の場となりそうだ。家事ロボットの実現は、単なる便利さの追求ではなく、AI技術全体の進歩を加速させる可能性を秘めているのである。

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