[go: up one dir, main page]
More Web Proxy on the site http://driver.im/

メルマガはこちらから

PAGE
TOP

記憶することの負荷ゼロ目指す 成績アップ最短距離を走るeラーニングシステムMonoxer

AIや独自アルゴリズムで教師の負担を軽減し、生徒の成績向上を実現する

連載
このスタートアップに聞きたい

 コロナ禍以降、人と人が会することに制約がかかるようになった。これは仕事の現場だけでなく、子供たちへの教育においても大きな変化が起きようとしている。政府が推進するGIGAスクール構想のように、子供たちが学校や自宅で勉強する際、ICTの力を活用して教育効果を高めようという動きもそのひとつだ。

 モノグサ株式会社は、そのようないわゆるEdTech(エドテック)と呼ばれる分野のスタートアップだ。生徒の「覚える」を支援することに注力したサービス「Monoxer」を提供している。モノグサ創業者CEOである竹内 孝太朗氏から同社のサービスの特徴や新機能について興味深い話を伺ったので紹介する。

記憶・定着のためのeラーニングシステム「Monoxer」とは

 Monoxerは生徒の習熟度に合わせた問題を生成し、その結果に応じてタイミングを見計らいつつ、再学習のカリキュラムを組成するアプリだ。

 習得させたい問題と正解を登録するだけで、誤答を含めた四択や自由入力など難易度に応じた形式での設問をAIが自動的に生成。それらはシステムが算出するユーザーとなる生徒の記憶度や忘却速度に応じた「順序×頻度×問題形式」が掛け合わさった課題として個別で送付される。

 生徒は出された課題を解くことによって最適な効率で記憶定着が進み、テストの点数アップを達成できる。教師にとっては可視化された生徒の進捗をリアルタイムで把握できるため、生徒指導における負担軽減に効果があるシステムとなっている。

 一般的に大人に比べて子供の記憶力は高いが、実際の子供たちが何でも物事を覚えているかというとそうでもない。学校や塾の教師は、教科書やテストなどを通じて、覚えるべきことを定着させようと日々努力をしている。

 単なる丸暗記ではなく「理解」も当然大事だが、たとえば分数とはどのようなもので、その足し算や割り算をどうやって計算するかを理解したとしても、それだけでは成績は上がらない。なぜならテストではスピードも要求され、早く解くためには無意識に手が動くくらいまでに脳に記憶として定着していなくてはならない。Monoxerが目指しているのはそのような記憶の定着だという。竹内氏はこのような過程を「理解」「定着」「活用」の3段階に分けて重視している。

 注目すべきは、実際の教育現場でのこれらの過程の扱いだ。「理解」は授業などで生徒に指導することができる一方で、記憶として「定着」させるための過程は宿題など生徒の自学自習に任されている。実際に定着しているかどうかを教師が知る機会がテストだが、これも頻度は多くない。

 また生徒にとって、「記憶した」という状態も個人ごとで異なる。単語を1度見ただけで「覚えた」と主張する生徒もいれば、練習帳に3回書いて「覚えた」という生徒もいる。同じ「覚えた」でも定着度が異なり、結果はテストの点数となって現れてくる。

 教師が生徒を記憶の定着へと導くためには、それぞれの生徒が今どのくらいの習熟度に達しているか、次はどういったタイミングでどういった問題をやるよう指導するか、あるいは生徒が自宅での予習復習の状況を把握しなくてはならない。さらに結果確認のためにテストを実施し、その採点も行なわなくてはならない。個別指導でもなければ、生徒のことを考えるほど、教師の負担は重くなってしまう。

 Monoxerをサービスとして利用することで、「定着」のための学習を個人にフィットさせた形で支援できるため、教師側は「理解」と「活用」により時間を割けるため、教育関連法人での採用が進んでいるという。

多様な機能で学習者と教師を支援するMonoxer

 Monoxerでは登録された問題と正解から、設問形式によって難易度の異なる問題を生成する自動問題生成機能が実装されている。竹内氏いわく、記憶する時には『読む』や『写す』といった行為に比べ、目の前に提示された問題を『解く』活動を繰り返す中で覚えた方が長期記憶化されやすい研究発表があり、それを実際のアプリの形で記憶定着に役立てているという。ここで重要なのは、どのような問題を解かせるかという点だ。

 「問題が難しすぎると放棄されがちで、『わからないから、答えを見よう』とすぐになってしまう。そうならないように、その人にとってギリギリ解答ができる難易度で問題が続いていくのが望ましい。そこで、覚えさせたい情報を登録すると、ヒントの量を調整するようなイメージで、AIが難易度を変えて問題を生成するようにした。そうすることによって、最後はノーヒントで覚えたというところまでスムーズに持ち上げていくことができるサービスを提供している」(竹内氏)

 さらに、やさしい問題から手ごわい問題までを順番に生徒にぶつけていくのではなく、Monoxerは2つの値をAIによって算出し、それに基づいて生徒に与える課題の最適化を実現している。

 1つ目の値が生徒の憶え方を表す値「記憶度」だ。生徒が正しく記憶を定着させたかどうかは、設問を2度連続して正しく回答したからOKというものではない。Monoxerでは自動生成した問題の正誤予測と、その問題に対する回答の正誤から記憶度を算出している。

 2つ目の値は記憶した情報の忘れ方を表す「忘却速度」だ。人間は得意なことは忘れずに、苦手なことはすぐ忘れてしまう傾向がある。そこで、これまでのサービス実績から、個人別&情報別に過去の回答傾向から記憶を失うまでの時間を算出した。

 Monoxerはこれら2つの値をベースに、各生徒が最も効率的に記憶の定着を実現できるよう、出題形式や出題順序などを修正していく。

 繰り返し問題を解くことによって定着した記憶も、そのままでは忘れてしまう。生徒の能力はテストの点数によって評価されるので、英単語を100個覚えることができたとしても、2ヵ月後のテスト当日にそれらを忘れていたのでは意味がない。

 そこでテストの日などの設定した期日に合わせて記憶の定着・更新を行なうスケジュール(日次の学習目標)を自動設定する学習計画機能が実装されている。もちろんそのスケジュールはそれぞれの生徒ごとの進捗や記憶状況に応じて個別に設定される。

 「覚えること以上に忘れないことをどうケアするかというところが重要。この日に覚えていたい、という日を指定するだけで、その日までの毎日の計画を反復の計画を含めてAIが決めてくれる。予定通り毎日過ごしていくと長期記憶化された状態でその日を迎えることができる。これは弊社でも今一番大事な機能だと思っている」(竹内氏)

 また、従来は自宅での自学自習の進捗をリアルタイムで確認する手段がなく、教師から生徒へのタイムリーなフォローアップができなかった。後からテストの成績で記憶の定着が不足していることがわかっても、その時にはすでに別の学習項目が進んでおり、積み残しは生徒の負担増やモチベーション減退を招きかねない。

 Monoxerでは、生徒による「覚える」の進捗具合をダッシュボードとなる管理画面を通じてリアルタイムで把握できるようにした。遅れ気味の生徒に対して即座にチャットやメッセージでフォローアップを行なうことは、教師の負担を抑えながら生徒の学習意欲の維持・向上に効果的だ。

 2021年4月には「小テスト機能」をリリース。紙ベースで実施していた理解度を確認するための小テストをMonoxer上で実施・採点できるようになった。小テストではすべての問題の難易度や出題順序が固定されるなど、紙ベースのものと変わらないテストを実施可能だ。もちろん採点は自動で行なわれるため、ここでも教師の負担軽減に効果が期待できる。

 技術面で注目すべきは、Monoxerに手書き文字認識や音声認識などの機能が実装されている点だ。筆順も含めた漢字テストをオンラインで実施できるようになり、教室でのテストでは難しかった英語のスピーキング問題などにも対応できる。「小テスト」と言いながら、実は非常に多様なテストに対応できる機能に仕上がっている。瞬時の丸付け対応ができるようエッジでの処理にも気を使い、手書き文字認識もディープラーニングではない独自のアルゴリズムを開発しているという。

 「教育の現場ではもちろん生徒の成績を上げたいが、先生の働き方改革みたいなところも大事になってきている。自由記述で人間が採点すべき領域もまだまだあるが、英単語テストの丸付けは誰がやっても同じだし、漢字のテストは機械だったら書き順だってわかる。先生方が担当するクラス全員分の丸付けを、機械に任せませんかとお伝えしている」(竹内氏)

Monoxerは生徒の成績アップのためにある

 冒頭で述べた「理解」「定着」「活用」の3段階において、多くのEdTechベンチャーは「理解」にチャレンジしているが、生徒の成績アップのためには記憶にフォーカスを当てるべきと竹内氏は語る。

 「理解の領域では人をシステムやAIといった機械に置き換えると基本的に生産性が下がる。人がわかるためには、わからないことを自分が知ってる概念に置き換える『たとえ話』が必要になる。しかしAIからすると、個人に合わせた理解レベルの判断や、たとえ話といった部分はまだまだできていない。コスト削減の効果はあるかもしれないが成績向上の効果は小さいと思う」(竹内氏)

 Monoxerはイーロン・マスク氏が語るような脳とコンピュータ/ネットを接続して学習を超越することを目指してはいない。

 「Googleの検索が実現したおかげで『(何かを)知る』ということに誰もが確信的になっている。つまり絶対自分でできるぞと思っている。その一方で『覚える』ということに関しては、じつはまだまだ自助努力に委ねられている。たとえばフランス語を学びたいと思ったら、検索だけでは足りず、書籍や講座で理解をして、それをがんばって記憶させるはず。でも、目の前に1日1回押したら3ヵ月後にフランス語が覚えられるボタンがあったらそちらを押し続けてくれると思う。我々が目指してるのはそういう世界。”取るに足りない絶対に自分が簡単にできること”を積み上げた先に、記憶状態があるんだ、ということを確信的な世の中にしたい。

 (物事を)忘れるタイミングって自分で気づけないのにそれを機械に任せないってナンセンスだよねって、みなさん10年後くらいに気づくんじゃないかと思う。なんで今まで自力だったんだろうと」(竹内氏)

モノグサ株式会社 代表取締役 CEO 竹内 孝太朗氏

■関連サイト

合わせて読みたい編集者オススメ記事

バックナンバー