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初の「業務ハック勉強会」で披露された現場感あふれる事例

SAP推しだった親会社を説得し、kintoneで業務改善した会社の話

2018年02月14日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/Team Leaders

2017年12月15日、サイボウズの日本橋オフィスにおいて初の「業務ハック勉強会」が行なわれた。ITを用いた業務改善ノウハウを共有し、業務ハックをスキルとして定着させるべく開催された勉強会で聞いた珠玉の業務改善話をお送りする。

ビジネスモデルと違って、業務ハックは勉強会で共有しやすい

 「納品のない受託開発」を展開するソニックガーデンが提唱する「業務ハック」の初の勉強会に登壇したのは、発起人の高木咲希氏。今回業務ハック勉強会を始めた背景として、そもそも自身がソニックガーデンに入社した経緯を説明した。

ソニックガーデン 高木咲希氏

 高木氏がソニックガーデンに行き着いたのは、自営業を営む両親が業務システムに不満を募らせているのを目の当たりにし、「システムを作っている開発者と使っているユーザーの間でやりとりがされていないからこうした不幸が起こる」という考えがあったからだという。両者が幸せになるやり方はないのか考えたところ、「納品のない受託開発」をソニックガーデンが実践しているということを知り、さっそく入社したという経緯だ。

 従来、納品のない受託開発は新規事業案件が多かったが、高木氏は既存の業務改善でこの手法を使うことになった。業務課題を洗い出し、ビジョンを検討し、アナログな手法も視野に入れて解決を図っていくいわゆる「業務ハック」である。こうして実際に業務ハックを進めると、現場からも喜ばれ、開発者もいきいきし、いいことづくめだったが、反面自身の業務ハック力のなさを痛感し、ユーザーの業務の悩みを受け止められなかったという反省もあったという。

 とはいえ、業務ハック能力は自力では簡単に上げられないし、一人で業務の悩みを受け取めるキャパシティにも限界がある。そこで立ち上げたのが今回の業務ハック勉強会。コミュニティを作って、みんなで考えることで、業務改善のノウハウを上げて行こうという目的だ。

業務ハック勉強会の意義

 同じような業務を違うやり方でやっているというパターンは多いため、業務ハックのノウハウは会社ごとに存在するはず。これらは会社を超えて共有しやすいし、社外だからこそむしろ言い出しやすいと高木氏は指摘する。「ビジネスモデルは共有できないが、業務ハックのノウハウは共有しやすいのでないか」(高木氏)という仮説の元、今回の業務ハックの勉強会開催に至った。「勉強会に登壇してもらうことで、自分のやっている仕事はとても意義があるということに気がつくし、業務ハッカー同士がお互いを認め合うきっかけになると思う。ぜひいっしょに盛り上げてください」と挨拶し、セッションの紹介に移った。

多くの会社と同じくExcelに業務のすべてが集まってしまった

 kintone AWARDにも登壇したネオラボの中岡直輝氏の後、業務ハックのストーリーを語ったのが、KFカーバイドジャパンの北本悦子氏。「高校時代の数学はクラス最低、プライベートではスマホも持ってないので、LINEもやっていない」という筋金入りの文系・アナログ人間を謳う北本氏は、kintoneを用いた業務改善に至るまでの道のりを紹介した。

KFカーバイドジャパン 業務管理部 マネージャー 北本悦子氏

 北本氏が所属するKFカーバイドジャパンは、切削工具用超堅素材の輸入販売を行なう外資系企業。ドリルの刃などを作るためのタングステン製の素材をドイツの親会社が作っており、これを輸入し、販売するのが同社の役割だ。2011年に営業を開始し、お客がつくようになると、当然ながら注文、納期、買掛金、売掛金などが発生するようになり、国内に在庫を持つようになると、さらに煩雑な在庫管理まで発生するようになった。

 多くの企業と同じく、これらの業務フローは「管理表」というExcelファイルに集約されるようになったが、これはそのまま業務課題につながった。オリジナルファイルは北本氏が毎日入力しなければならず、作業が属人化。また、前日の報告を入力するため、情報もリアルタイムではなかった。「Excelファイルを見て、在庫があると答えても、実際にはすでにないということもあった」(北本氏)。北本氏のPCに置かれているオリジナルファイルのバックアップもすべて手動で、取引件数のファイルも重くなる一方だったという。とはいえ、創業当初の人数は3名。必要性は感じつつも、システムに大きなコストはかけられず、Excelでの運用を続けてきたという。

Excelに業務のすべてが集約してしまう課題

親会社にkintone導入をどう説得したのか?

 そんな同社だが、2016年の事務所引っ越しをきっかけにシステム導入を決定し、SAP、パッケージのカスタマイズ、スクラッチ開発の大きく3つから選ぶことになった。「ドイツの親会社はSAPを導入しており、日本でもこれを入れるようにという指示が来ていました。でも、ほかの会社を見学したところ、高価で使いにくいということで、これはないなと思いました」(北本氏)とのことだ。

 結局、実現しないと困ること、できたらうれしいことなどを機能要件として掲げ、星取り表で検討してきた。しかし、検討を重ねる中で、北本氏には「お金をかける割には、これしか実現できないのか」といったモヤモヤ感も出てきた。在庫管理やバーコード管理など追加機能はあるものの、おおむねExcelでできたことを多少アップデートされただけで、魅力を感じなかったという。

 そんな中、最終的には選んだのは、雑誌で見た「納品のない受託開発」のソニックガーデンだった。「最低限の機能で使いながら、変更を加えながら、システムを最適な形に組み上げていくという手法に興味を持ちました」(北本氏)。そして、業務改善のツールとしてはExcelのような使い勝手を持ち、コストも抑えられるサイボウズのkintoneを選択。「営業マンが外からリアルタイムに在庫や数字を見る必要がありました。現在は在庫を持つだけだが、今後機械を入れたり、加工を請け負ったり、会社の変化に対応しようと考えたら、クラウドしかないと考えた」と北本氏は語る。

 コストが安くなるという点でパッケージのカスタマイズを推していた社長は説得できたものの、最大の障壁はSAPを推す親会社にkintone導入を通すことだった。これに対して北本氏は受発注や在庫、営業などの管理のほか、さまざまなデバイスを用いたコミュニケーション機能を持っており、将来的にSAPが導入されても、継続して利用できるという点を説明。時間をかけて説得したことで、親会社からの了承も得られ、晴れてkintone導入が可能になったという。「取引先や関連会社と情報共有できれば、できることの可能性が広がります。このわくわく感がkintoneでなければならない理由でした」(北本氏)。

親会社に提示した「なぜkintoneを導入するのか?」

業務改善したらリモートワークできるようになった

 ソニックガーデンとともにチャレンジした業務ハックとシステム導入。仕入れ、在庫、販売という3つのフェーズにおいて、社長の要望が強く、導入効果も見えやすい仕入れからスタートした。もともとあったExcelファイルは、仕入れから出荷までの工程をすべて横方向に並べたもの。今回は、これらを発注や注文管理などの単位で切り分け、アプリ化するという流れで行なった。見た目にはExcelとあまり変わらないビューを持つため、従業員も迷わずに使えているという。

横に並んだExcelファイルの工程を切り分けてアプリ化した

 2016年10月に開発を開始し、12月に初版をリリース。メンバーにログインをお願いしたが、2回目以降にログインしない人も多かったという。そこで、新年の初日にソニックガーデンのプログラマーを呼んで、全員で入力を試してみたという。ユーザーからいくつかの要望が上がり、プログラマーがそれを画面に反映していったことで、実運用に耐えうるものにどんどん成長。2月1日には晴れて、受発注システムの本番利用が開始できたという。「最後はみんなで意見を出して作り上げたので、愛着が沸くようなシステムになったんじゃないかと思っています」とは北本氏の弁だ。

 導入後は入力ミスや報告漏れも激減したが、反省点もあった。1つめは業務システムの項目をきちんと定義づけなかったこと。「たとえば単価は「平均単価」なのか、「原価」なのか、人によって違い、齟齬が生じていたので、ふさわしい名前を付けるべきでした」と北本氏は語る。2つめはスケジュールと優先順位をある程度決めておくこと。「小さく始めて大きく育てるという手法をあえて選んだのですが、要望に振り回されてしまい、ゴールまでに時間がかかってしまった」と北本氏は振り返る。

 一方、副産物として北本氏自身のリモートワークが実現したという。移転とともに北本氏の自宅からはオフィスが離れ、通勤時間が長くなったが、システムをクラウド化したことで在宅の勤務が可能になった。今ではオフィスでなければ難しいという業務以外は出社をしないで済んでいるとのことだ。

 イベントは、その後ソニックガーデン副社長の藤原士朗氏が自身の経験を元に社内での業務ハックについて披露。最後に3人の登壇者が参加者の質疑に答えるという流れで、ノウハウを共有した。まだまだ生まれたばかりの業務ハックという用語や概念だが、参加者の関心も高く、今後につながりそうな勉強会だった。

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