トレジャーデータの発表会をレポートした昨日の「クックパッドや博報堂も愛用中!トレジャーデータ日本進出」がやたら読まれている。SNSのレスポンスだけ見れば、最大手のITproや@ITと比べてもひけをとらない数だ。しかし、書いた本人としては手放しで喜べない理由がいくつかあった。
スタートアップの外資系企業だった発表会
「日本のOSSやビッグデータを代表する技術者が米国で企業したベンチャー」「元ヤフー共同創業者であるジェリー・ヤン氏からの投資」「グローバルで実績を上げつつある中での日本進出」など。20日のトレジャーデータの発表会は、確かに注目を集めるものだった。実際、発表会に来たメディアの数も多かった。勝手な想像だが、30~40名程度は来ていたのではないだろうか? 参加者3~5名なんて発表会があることを考えれば、ベンチャーとしては異例といえる。
私自身も、日経コンピュータ 中田さんが書いた「日本を代表するビッグデータ技術者集団が米国で起業、米トレジャーデータがDWHクラウド開始」のような目利き記事を読んでいたので、楽しみにしていた。なにしろ日本を代表するエンジニアが作った企業だ。他のビッグデータソリューションに比べた技術的な優位点やトレジャーデータならではのビッグデータ活用事例が聞けるかも。日本人の米国ベンチャーとなった背景や苦労話が少しでもあったら面白そうと期待して参加した。
しかし、残念ながら発表会はかなり物足りなかった。会社概要の説明がメインで、サービス説明も収集、保存、可視化までフルスタックで提供されるといった特徴が説明された程度。導入メリットに関しても、分散処理による高速化や企業で眠っているデータの活用といったビッグデータ自体の一般論が語られたくらいだ。手厳しいようだが、まるでスタートアップ外資系企業の日本進出発表会。正直、こういうところは外資系企業に似ないでほしいなあと思う。
国内ユーザーとしてすでにクックパッドや博報堂がいるという点はやや驚きだったので、それを記事タイトルにしたが、プレゼンは総論的な内容に終始した感があった。開始もほぼ10分遅く、終了時刻の前にもかかわらず、質疑応答は打ち切り。初めての国内発表会であることを割り引いても、正直消化不良と言わざるを得ない。
記者の立場としては歯がゆいが、行ったからには記事は必要。ということで、書いたのが、実は冒頭のトレジャーデータ日本進出の記事だ。正直、内容的には五味さんの書いたgihyo.jpのレポート記事「ターゲットは国内製造業のビッグデータ!? Treasure Dataがトレジャーデータとなって日本市場で本格展開」のほうがはるかに充実している。こう書くと、「オオタニは手抜き記事書いたんか~!」と突っ込まれそうだが、決してそういう訳ではなく、手持ちの時間で発表会の内容をそれなりに咀嚼してできた記事があれなのだ。その記事が過去にないくらいSNSレスポンスがよいというのは、書いた立場としてかなり複雑な心境だ。
まだ故郷に錦は飾っていない
そして、手放しで喜べないもう1つの理由は、日本人の米国ベンチャーというだけで、これだけ注目を集めてしまう現状だ。
記事内容やツイートの中身から考えて、SNSの反応は日本人の米国ベンチャーであることの賞賛、あるいは羨望が多いと思われる。確かに、彼らはグローバル進出を前提に大物から投資を受け、きちんとサービスを開始し、早々に顧客もつかんだ。そこは手放しで素晴らしいが、まだスタートラインについたばかりであることも事実。「故郷に錦を飾った」とまでは言えないと思うのだ。
しかも半年前ならいざ知らず、Google BigQueryやAmazon RedShiftなどが登場した現在、BigData as a Serviceだけではもはや売りにはならない。今後、知名度に欠けるベンチャーのトレジャーデータがそれなりに苦戦を強いられるのも事実だ。だからこそ、日本のメディアに対して、自身の優位性や存在意義をきちんとアピールすべきだったのではないか。そして、メディアも彼らを世界中にライバルを持つグローバルプレイヤーとしてきちんと扱うべきだと思う。
トレジャーデータはなぜ日本でなく、米国で起業したのかも大きなテーマだ。CEOの芳川氏は、日本のものづくりのすばらしさやエンジニアの優秀さを強調したが、「だったら日本で起業しなかったのか?」と素直に思う。つまり、「グローバル進出を目指すから」「投資が得られそうだから」だけではない、「日本ではダメだった」理由が必ずあったはずなのだ。日本を代表する技術者たちが海を渡って起業した理由を、日本のIT業界は考えなければならない。
筆者紹介:大谷イビサ
ASCII.jpのTECH・ビジネス担当。「インターネットASCII」や「アスキーNT」「NETWORK magazine」などの編集を担当し、2011年から現職。「ITだってエンタテインメント」をキーワードに、日々新しい技術や製品の情報を追う。読んで楽しい記事、それなりの広告収入、クライアント満足度の3つを満たすIT媒体の在り方について、頭を悩ませている。
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