「Mobile World Congress 2013」の基調講演は、数人のスピーカーと司会者が登場、それぞれがスピーチを行ったあと、ちょっとした対談を行なうという形式を取る。
世界中から多くの携帯電話関係者の集まるイベントなので、基調講演参加の希望者も多いらしく、このような形式を採用しているという。加藤社長の参加した基調講演のタイトルは「Vertical Disruption」。Vertical Disruption(垂直崩壊)とは、これまでの携帯電話業界の事業者を頂点とした端末メーカーなどの垂直型の業界構造が壊れ、水平型へと移行しつつあるという意味で、トカマク型の核融合炉で起こる現象とはたぶん無関係だと思われる。
これはつまり、ハードウェアやソフトウェアなどの専門メーカーか登場し、事業者にとらわれずに携帯電話市場でビジネスすることが増えてきたということだ。この基調講演に参加したのは、NTTドコモ社長の加藤薫氏、米GM社のSteve Girsky副会長、米国心臓協会CEOのNancy Brown氏、QualcommのPaul Jacobs会長兼CEO(登場順)である。実際には、自分たちの話がほとんど。また、1月のCESで発表されたことの繰り返しも多かった。
ドコモの加藤社長は、日本の状況を含め、ドコモの現状と方針を説明、すでにLTEサービスを開始していること、サービスを積極的に提供し、そこから収益を上げることで通信機能のみを提供する事業者とは差別化を行うなど、すでに国内でも主張していることを述べた。ただ、翻訳やモバイルコンシェルジュのデモなどもなく、残念ながら具体的にどのようなことをやっているのかは、現地の慣習にはあまり伝わっていなかったようだ。
GMは、LTE機能を搭載した車内情報システムをいくつかの車種に搭載する。これには、Wi-Fiホットスポット機能が含まれており、車内でスマートフォンやPCの利用が可能になるという。米国では、AT&Tのインフラを使うとのこと。また、GMのOn*(オン・スター)サービスが、telfonica社が採用することも決まったという。On*は、携帯電話を使った自動車むけのサービスでナビゲーションなどのほか、音声対応によるサポートなどが可能になるものだ。
米国心臓協会は、医療やヘルスケアなど心臓や病気などに関わる団体で、心臓病減らすためのキャンペーンを行っている。心臓病は、現在でも世界中で死亡原因の第1位であり、その対策にモバイル関連の技術が利用できるという。
最後に登場したQualcommは、MWCでの同社のテーマでもある「Digital 6th Sence」(デジタル第六感)をテーマに、主にP2PシステムのAlljoynについての話を行った。Alljoynは、近接したデバイス同士がアドホックに接続して無線LANやBluetoothでP2P通信するためのオープンソース・フレームワークで、Qualcommが開発した技術。WindowsやAndroid、iOS、OSXの上で動作する。
バスと呼ばれるオブジェクトを介して、近隣のデバイス同士が通信を行う。これを使えば、たとえば、鞄や身につけている機器同士、あるいは車内の機器、1つの部屋の中にある機器でネットワークが構築でき、相互に情報をやりとりできる。
話を聞いた感じでは、これまで端末メーカーの影にあった半導体企業や直接は関係していない自動車メーカーなどがモバイル技術に取り組み、過去のように携帯事業者内で閉じた環境は失われつつある。ただ、逆にAppleやAndroidの独自サービスのように事業者の枠はなくなったもののプラットフォームの壁ができてしまうという状況もある。そういう意味では、過去の「垂直統合」はたしかに崩壊したが、こんどはプラットフォームによるクラスタ化が起こっただけだといえるかもしれない。
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