なんとボカロは日本の芸能の王道だった、というのが今回の話。
「なんか初音ミクってのが流行ってるんだって。よく分からないけどアニメみたいなキャラクターが歌う、バーチャルアイドルみたいなものらしいぜ」
というのが世間一般のイメージなのだろう。もちろんイラストとして良くできている、可愛い、といったあたりは見た通りだが、ボーカロイド文化を支える普遍的装置(もう4年も人気が衰えないのだから、そう言って差し支えないだろう)としてこのキャラクターが機能し続けている理由が、正直言って私にも良く分かっていなかった。
それはアイドルに入れ込んだ経験がないこと、宇宙戦艦ヤマトを経験しているはずのオタク第一世代であるのに、そうしたものを通過してこなかったこと。それが理由ではないかと思い、初音ミク登場以降は、日本のアニメやアイドルをマメにチェックするようになった。が、自分の実感値として何一つとして理解できないことに、大げさに言えばいらだちのようなものすら感じていたのである。
そこに現れたひとつの回答が「初音ミクは人形浄瑠璃である」という、週刊アスキー総編集長の福岡俊弘さんの説である。
現在では文楽とも呼ばれる人形浄瑠璃は、300年も前に誕生した日本の芸能で、人形を操る「人形遣い」、音楽を奏でる「三味線」、物語の語り手「大夫」の3パートで構成される。今でこそ人間国宝もいる大変な伝統芸能だが、当時は完全な大衆文化であった。
初音ミクは、そうした日本の伝統芸能の要素を持っているのではないか。たまに福岡さんがTwitterで書いているのを見かけるものの、まとまった原稿としては著していないらしい。そこでインタビューへと及んだのである。
ボカロは生きていないものに魂を吹きこむ芸能
―― 今日はTシャツまで合わせていただいてありがとうございます。
福岡 あ、今日は「ミクパ」帰りなんですよ。
―― そんな福岡さんを「ミク厨」とか「ミク廃」と呼びたいのですが、よろしいでしょうか?
福岡 ええ、全然構いません。でも、おっさんがミク厨とか言うとね、聞こえが悪いですよね。若い人に迷惑をかけるから、あんまり言わないようにしているんですけど。
―― なぜミク厨になったんですか?
福岡 4年前に初音ミクが発売された頃は、当然気にはなっていたわけです、パソコンソフトなので。なんとなく盛り上がっているという話は聞いていたんですが、何か立ち入っちゃいけない邪悪な罠みたいな、そういうものに違いないぞ、くらいのイメージでした。
―― あの、なんだか良く分かりませんが。
福岡 よく分からないですけど、なんかそうなんだね、ああ音声合成かな、くらいの感じでいたんです。
―― かな、くらいの感じがどうしてこうなりましたか。
福岡 去年の感謝祭(関連記事)※をひょっと観に行ったんですよ。発売からたった3年じゃないですか。あれっ、こんなことになってるんだと。衝撃が大きかったですね。生きていないものを生きているように見せたい、ここまで魂を吹き込むことをやるんだと。
※ 2010年3月9日、「ミクの日感謝祭 39's Giving Day」(Zepp Tokyo)。3Dの初音ミクが歌って踊るライブイベントだった
―― それまでニコニコ動画で見たりとかは?
福岡 現象として流行っているのは知っていました。そうやって距離を置いて見るのが自分の立場だと思っていたので。ところが感謝祭を見たときに、ちゃんと物語になっているなあと。楽曲もそうだし。一曲一曲聴くと語りになっている。「悪ノ娘」なんか、正真正銘の物語じゃないですか。後からノベライズされたり。これは面白い芸能だなと思って。
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