Windows 7対応の裏側に見た国内ISVの秘めた実力 第13回
工画堂スタジオ「ソルフェージュ~La finale~」
老舗PCゲームメーカーの矜恃――Windows 7ロゴ取得の裏話
2010年03月30日 09時00分更新
今回は、PC用ゲームソフトメーカーの老舗と言える工画堂スタジオを取材した。同社は、もともと書籍の装丁などのデザイン会社として創業し、1980年代にPC用ソフトウェアに参入した。現在もデザイン制作部とソフトウェア開発部が同社の両輪となっている。
工画堂スタジオと言えば「月刊アスキー」世代のASCII.jp読者なら、かつてASCIIブランドで販売した人工無脳ゲーム「Emmy(エミー)」シリーズなど、懐かしいタイトルを数多く開発したメーカーとしても記憶にあることだろう。
振り返ってみれば、PC用ゲームソフトはPC以前のマイコン時代からあるカテゴリーだが、8bitマシン時代に大きく成長する。しかし、ゲーム専用機の相次ぐ登場に押されてPCゲームの市場は縮小し、多くのPCゲームメーカーがゲーム専用機へと軸足を移していった。その中で工画堂スタジオは、今もPC用ゲームソフトウェアにこだわり続けている数少ない硬派な会社のひとつだ。
お話を伺ったのは、同社代表取締役社長の谷 逸平氏、ソフトウェア開発部くろねこさんちーむの斎藤 勝氏、ソフトウェア開発部統括室長の北川貴規氏のお三方である(以下敬称略)。
工画堂スタジオがPCゲームという
軸を外さない理由とは?
―― 御社は大正時代の創業だそうですね?
谷 工画堂スタジオは、私の祖父が大正5年に創業しました。当初はデザイナーの前身にあたる、手描き製版職人の集まりでした。昭和35年の会社設立後も、書籍の装丁や社史編纂、大手玩具メーカーの商品企画やパッケージデザインを中心としたデザイン事業のみの会社でした。ボードゲームの企画・開発を礎に、PCゲームソフト開発に参入したのはマイコンブームの到来とほぼ同時期でしたので、もう四半世紀が経過しました。
今現在、当社はゲーム専用機をやっていません。PCゲームというと一部では「アダルト系タイトル」というイメージを持たれる方もいらっしゃるのですが、当社は一般ゲームにこだわり、「非アダルト」を看板に掲げています。PCゲーム黎明期からの老舗メーカーでアダルト系をまったくやっていないメーカーは、当社と日本ファルコムさんのほか、数社程度じゃないでしょうか。
同様にPCゲームにこだわってきた会社は、その多くが転業したり、会社自体を閉じてしまうなど、とても厳しい経済状況になっています。それでも頑なに18禁のアダルト系をやらないのは、当社の理念なのです。
実は、当社のデザイン部門には教育コンテンツ部門やエディトリアル部門があり、過去には昭和天皇のご著書の装丁を行ないました。また、代表的な純玩具である「リカちゃん」や「人生ゲーム」に長く関わり、子どもたちの「夢」を創出してきました。そういう歴史がありますので、アダルト系のビジネスを行なうわけにはいかないわけです。
Unicode拡張が意外な落とし穴に?
―― Windows 7に対応したのはどのソフトですか?
北川 2009年11月に発売した「ソルフェージュ~La finale~」と「ウソツキと犬神憑き」の2タイトルです。ほかにも3月に発売した「POWER DoLLS 1」が対応予定です。
これら以外にも動くものはあるのですが、Windows 7対応のロゴを付けるのはこの3タイトルになります。そのほか、以前に発売したものでもちゃんと動作が確認できたものについては、順次対応させていこうと考えています。
乱暴な言い方になりますが、Windows Vista登場時の対応で、当社のソフトはたいていのものが動いちゃうんです。“対応”と明記していなくても新しいパソコンにインストールするお客さまもいらっしゃるので、新しいWindowsが登場すれば、過去の製品も検証は行なっています。ただ、ロゴを取得するまではやらずに、“やんわり”対応ということにしています(笑)。
―― Windows 7対応に当たって、特に苦労されたところはありますか?
斎藤 そうですね、やはりUAC(User Account Control)関連でしょうか。それまでは、とりあえず問題なく動いていたというものでも、(ロゴ取得のために)正式に対応させようとすると、それなりの作業が必要になりました。
―― Windows Vista対応の際にも、UACの影響はあったのでは?
斎藤 実のところ、きちんとした形でのWindows Vista対応(のためのプログラム改変)というのは行なっていなくて、Windows XPまでの対応で、Windows Vistaでも動いていたのです。Windows Vistaが持つ互換機能に頼っていたわけです。しかし今回は、Windows 7動作確認ロゴを取得して正式対応するということになったのです。
―― 具体的に、どのあたりが問題でしたか?
斎藤 ひとつは、ユーザーデータをどこに保存するか、です。これまではプログラムフォルダに置いていたのですが、それができなくなったので、置く場所を変える必要があました。Windows VistaやWindows 7では、こうしたユーザーデータをユーザーフォルダの下の“見えないフォルダ”へ格納してしまいます(関連記事1)。これまで、ユーザーには、ユーザーデータの場所を公開していたので、見えない場所に置く仕様に変えてもいいかどうかは、開発チーム内でも大きな検討項目でした。
―― 結局どうしたのですか?
斎藤 ユーザーデータの置き場所は、Windows 7の標準に従うことにしました。ただ、ユーザーサポートに問い合わせがあったら、ユーザーデータの場所をお教えするようにしています。わざわざユーザーデータの場所を聞いてくるのは、おそらく(当社のゲームにもPCの操作にも)慣れたユーザーなので、不可視フォルダへのアクセスも問題ないだろうと判断しました。
―― ゲームアプリケーションでは、DirectXを使っているかと思います。DirectXは、Windows Vistaで大きく様変わりし、Windows 7でも更新されました。このあたりは問題にならなかったのですか?
斎藤 製品としてはDirectX 9対応なのですが、利用している機能(API)は、DirectX 7~8までのものなので、問題は起こっていません。すんなりと動いています。
―― ほかに何か問題がありましたか?
斎藤 Unicode対応ですね。Windows 7から、サポートするUnicodeが拡張されて、1文字を4バイトで表わす“サロゲートペア”とよばれる文字群を扱えるようになりました(関連記事2)。これに伴って日本語のフォルダ名にも、1文字4バイトのものが使えるようになりました。しかし、ゲームアプリケーション自体は、4バイトの文字を想定していないので、こうした文字が含まれるフォルダ名をインストール先に使うと問題が生じる可能性が指摘されました。
―― どのように対応されたのですか?
斎藤 問題はインストール先のフォルダ名なので、インストーラーで弾くようにしました。つまり、ユーザーがサロゲートペアを含む文字を使ったフォルダを指定しても、インストーラーが判定してこうしたフォルダにはインストールを行わないようにしたのです。
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