深刻化する失業問題
厚生労働省が発表した9月の有効求人倍率は、0.84倍と4年ぶりの低さになった(下記の図参照)。これは求職者100人に対して84人しか求人がないことを示しており、同時に発表された完全失業率4.0%という数字は過小評価だろう。日本の労働力調査は求職活動をしている人だけを対象にするので、あきらめて就職活動をしない主婦などはカウントされないからだ。
特に円高の直撃を受けた自動車・電機で業績が大幅に悪化し、雇用の削減が相次いでいる。なかでも雇用削減の対象になるのは、非正規労働者だ。このコラムの以前の記事でも紹介したように、日本の非正規雇用は労働者全体の34%に達し、特に15~24歳では46%に上る。中高年の雇用を守るために若者が不安定な雇用形態を強いられているのだ。
こうした問題の対策として厚生労働省は、いわゆる偽装請負の取締りを強化し、派遣労働を規制する方針を打ち出した。今月、国会に提出された労働者派遣法の改正案では、30日以内の日雇い派遣を禁止する。派遣最大手のグッドウィルが今年1月に廃業したのに続いて、フルキャストが来年9月までに日雇い派遣から撤退することを決めた。この2社で派遣労働市場のほぼ半分を占めるといわれ、これで短期派遣労働市場は消滅する可能性が強い。
労働者派遣法の改正が「プア」を増やす
短期雇用の需要は、運送・外食など繁閑の差の激しい業界では不可欠だ。IT産業でも、ソフトウェアはほとんど派遣で行なわれている。中核的な仕事は長期の派遣だが、データ入力などの短期の仕事は日雇い型も多い。そういう雇用形態を禁止したら、企業は同じ労働者を長期雇用するだろうか。
企業は慈善事業で労働者を雇っているわけではない。今のように経営環境が厳しいときは、コストの高い長期雇用に切り替えるより、規制強化を口実にしてクビを切るか、アルバイトに切り替えるだろう。労働需要の変動には正規労働者の残業で対応するので「ワークライフバランス」も悪化する。
要するに「ワーキングプア」が失業して「プア」になるだけだ。建築基準法、個人情報保護法、貸金業法は「官製不況」をもたらした3Kといわれるが、今度の労働者派遣法の改正は大量の官製失業を生み出すだろう。
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