1ヵ月で6000万本
── 「成功しているアプリ開発者」の具体例を教えてください。
林 個人のプログラマーが作ったソフトが、これまでないほどの規模で世界的にダウンロードされたというケースはいくつか耳にしています。
iPhoneユーザーは、パソコンのiTunesではなく、iPhoneで「App Store」を開いてアプリを買っている人が多数派だそうです。iPhoneのApp Storeには、「トップ25」というランキングがありますが、ここからチェックして買う人が多いため、一度、「トップ25」入りすると、それなりにすごい数がダウンロードされるという。
ウォールストリートジャーナルは、アップルはApp Store開始から1ヵ月で6000万本、1日あたり200万本のアプリを売ってきたと報じています(関連リンク)。売り上げは3000万ドルで、そのうちアップルの取り分が900万ドル、サードパーティーの取り分が2100万ドルと言われています。
この2100万ドルのうち、900万ドルはトップ10の開発者に集中していて、例えばセガオブアメリカの「Super Monkey Ball」は最初の20日で30万本売れています。Super Monkey Ballは9.99ドルなので売り上げは30万×9.99ドル、約300万ドルですね。そのうち30%はアップルに行くので、セガの取り分は約210万ドル(2億3000万円程度)になります。
App Storeには在庫管理や流通のコストがかからないので、ものすごく効率的に利益を上げられるという。これは実はすごいことですよね。
── 日本での例はありますか?
林 日本だとハドソンの「ボンバーマン TOUCH」が一時期、上位にランクインしていましたし、ユビキタスエンターテイメントの「UEIpong」や「ZeptoPad」も頑張っていました。サン電子の「上海」は、米国ではライバル製品が多いので、日本よりちょっと苦戦していたようです。
App Storeは、アプリを買う前にダウンロードして試せないのが辛いところです。サン電子の上海は、細かく作り込んであるんだけれど、ほとんどのユーザーはApp Storeの説明文だけを読んで判断しているので、そうしたことが伝わりにくい。今後、動画の活用などを積極的に考えて行かないといけないかもしれません。
それ以外だと赤松正行さんのソフトが目立ちますね。無料ソフトですが「Banner Free」などはかなり人気が高そうです。
── 日本勢もなかなか健闘していますね。
林 そうですね。オリンピックにもドラマがあるように、こうしたアプリ開発にもドラマが生まれています。
例えば、皮さんが作った割り勘の計算をする無料アプリ「割勘奉行」のエピソードは面白いです。米国でトップ10入りしているんですが、日本語のままで説明もないにも関わらず、熱心なユーザーの方がレビュー欄を使って英語の解説を書いてくれたおかげで米国でも多くダウンロードされたと言われています。
私が知っているのはごく限られた話ですが、そうしたエピソードはもっと出てくるでしょう。今、日本でも確実に新巨大プラットフォームの誕生という数十年に1度しかない事件の興奮を味わって、エキサイティングな日々を送っているのです。
そういう意味でiPhoneは、出荷台数がどうかは分かりませんが、確実に世界を変えたと思いませんか? そもそも発売前からして、iPhoneに似た機能を備えた携帯電話が発売されたり、タッチパネルを備えた海外制携帯が日本で次々と売られるようになったり、新しいベンチャーが生まれたりと、iPhoneの影響は日本のいたるところで見られました。
台数も重要ですが、それは実際に商売をする人が、売り上げ目標を立てたりする際に気にすればいい数字です。iPhoneが社会に与えた影響の大きさをみれば、これは無視できない歴史的事件だと言っていいんじゃないでしょうか。