地球シミュレータの「1社入札」
道路財源をめぐるドタバタは、再可決で一応、決着したが、公共事業の中身やゼネコンの談合がいかにひどいものであるかは、もはや国民の常識だろう。ところが情報産業にも、ITゼネコンがはびこっていることは意外に知られていない。
先週、独立行政法人 海洋科学研究開発機構は、同研究所が運用中のスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」の更新にあたって一般競争入札を行ない、NECが約190億円で落札したと公表した(関連リンク1)。しかし、この入札にはNEC1社しか応札していない。入札条件が「既存のアプリケーションが平均2倍以上の速さで作動する」など、NECのマシンでしか実現できない仕様になっていたからだ。
関係者の話によれば、この仕様書を書いたのは、地球シミュレータを運用しているNECの社員だという。入札の仕様を応札業者に書かせたら、自社が落札しやすい仕様にするのは当然だ。政府のIT調達には、このように最初から落札者が決まっている「偽装入札」が多い。それは役所の担当者にITの知識がなく、仕様を業者に書かせているのが原因だ。
もう使命は終わったはずなのに……
地球シミュレータの主要な目的だった気候変動のシミュレーションは終わり、政府の独立行政法人整理合理化計画でも「地球シミュレータの今後の更新に当たっては、主として海洋地球科学分野における研究ニーズに必要な性能を維持するのみにとどめる」と、その使命は終わったことが明言されている(関連リンク2の17ページ目)。
そのため、地球シミュレータの次世代機として、汎用京速計算機と呼ばれる新しいスパコンを兵庫県に建設することになった。これは2010年に完成し、計画では10ペタフロップス(毎秒10京回の演算性能)という世界最高速の性能を実現する予定だ。したがって常識的には、海洋研のチームも京速計算機を使えば、研究の能率も上がるはずだ。
それなのに、海洋研でわざわざ京速計算機より2桁も遅い130テラフロップス(毎秒130兆回の演算性能)のマシンを調達するものだから、京速計算機は何に使うのか分からなくなった。これについては政府の総合科学技術会議も「期待される成果目標や、実現のために計算機システムに要求される機能、性能等が明瞭でない」と指摘している。
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