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2020-06-06

WHOゥ!

なぜ 君が機会を得られたにもかかわらずPHEICの宣言を一度見送ったのか!

なぜ 渡航制限を推奨しなかったのか!

なぜ 中国露骨に媚びるのか!

その答えは

なぜPHEICの宣言を一度見送ったのか?

IHR緊急委員会(15名 from 13ヶ国 [1])が国際的懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)宣言に足るだけのエビデンスを見出せなかったから。

1月21、22日時点では中国外の感染者数が4~6人だけであり[2]、ヒト‐ヒト感染の強さも不明で、暫定的にR0は1.4〜2.5(季節性インフルエンザ新型インフルエンザくらい)と推定されていた。(後の研究で、R0は4.7~6.6(天然痘風疹レベル)くらいだと推定されている[3]。)

また、ちょうどWHO専門家武漢入りして調査を開始したところであり、その結果を待つ意味もあった。

そういうわけで「今はデータが足りないから保留。10日以内にもっかい検討するからその時にまた呼んで」との結論に至ったわけだ。

この見送り中国への忖度と呼ぶ向きもあるが、過去のPHEIC宣言比較してもそこに特別な違いは見られない。

また、「PHEIC宣言は時期尚早」というのは当時の緊急委員会が至った結論であり、それに同意たからといってテドロス局長を責めるのもお門違いであろう。

また個人的感想だが、PHEIC見送りに関する非難には、人々のPHEICに対する認識もかかわっているのではないか

「PHEIC宣言がなされなければ各国は対策の取りようがない」等々、PHEICを疫病対策の“起点”としてとらえるような認識だ。

一方のWHO、PHEICは“最後の切り札”と考えている模様[4]

データ提供する、ガイドラインも制定する、ガイダンスだって発布するから、あとは各国で適切な対応をしてくれ。もし怠るようならPHEIC宣言でケツ蹴っ飛ばしたる」と、そんな感じ。

エビデンスは無いけど念のため」程度で宣言できるほどPHEICは軽くないのだ。

ただし、そういう時に使える“軽い警告”を制定するべきだとの議論は以前からあったため、それはそれでWHOの怠慢と言えなくもない。

なぜ渡航制限を推奨しなかったのか?

長年のWHO方針である2009年に初めてPHEICを宣言した際も渡航制限を推奨していない[5]

その理由は、渡航制限パンデミックの防止に寄与するというエビデンスが乏しく、むしろ条件によっては有害ですらあるからだ(※)。

複数研究[6][7][8][9][10]――2014年にはWHO自身23研究を用いたレビュー論文を出している[11]――によれば、厳しい渡航制限(全渡航の90~99%をシャットダウン)は感染拡大を数週間ほど遅らせる可能性があるが、最終的な感染者数と規模は据え置きである

※ PHEICが宣言されるような状況に限れば。感染発生の最初期であれば話は別。例えば昨年11月末に全世界渡航制限が行われていれば新型コロナ流行はなかっただろう。

研究をまとめると、

渡航制限メリット

患者の総数が変わらないとしても、時間当たりの患者数は減るため、対応能力の低い国においてキャパシティオバーを緩和できる。

予防接種治療薬が存在している場合、それらの準備を整えるまでの時間稼ぎになる。(今回のコロナ禍には当てはまらない)

渡航制限デメリット

流行期間が延びるため、社会的対応(ロックダウン等)の継続時間も延びる。

サプライチェーン(特に医療品)の深刻な寸断、専門家交流の途絶、国際支援の遅延または減少。

・↑2つと部分的に被るが、経済コストが非常に高くなる。

感染の発生を隠ぺいするインセンティブが働く。

WHO的に、渡航制限は高い経済コスト、低い効果、そしていくつかのデメリット存在から推奨されない。

全く無意味というわけではないが、より有効政策――手洗い等の徹底、適切なスクリーニング及び隔離ソーシャルディスタンシング(社会的距離をもたせるような政策ロックダウンも含む)――にその分のリソースを振り分けるのが好ましい。

これらはあくま過去エビデンスに基づいており、将来の研究にて今回の新型コロナについては渡航制限有効であったとのエビデンスが出るかもしれない。

しかし、“エビデンスに基づき結果的に間違った”対処を貶め、“エビデンスに基づかないが結果的に正しかった”対処を褒めることには同意できない。


なぜ中国露骨に媚びるのか?

諸君は↑の2項目について「中国への媚」と思っていたのだろうが(あとは台湾への対応か)、実際のところエビデンスベース判断であり、発生国中国以外でもWHO対応は同じだった可能性が高い。

しかし、中国への批判を控えたり、台湾冷遇、ちょくちょくあるリップサービス等、WHO医学とは別の領域において中国へ甘い対応をしているのは事実

なぜか?

テドロス局長場合簡単だ。政治的支持基盤が主にアフリカ系とアジア系であり中国存在が非常にでかい。なので中国批判はあまりしないし、リップサービスもする。 中国を称賛した回数はトランプのがテドロスより多いのだが[12]

WHO全体でみるとどうか。金に媚びてることはない。チャイナマネーとは比べ物にならないほどのアメリカマネーゲイツマジェスティWHOに注ぎ込まれている。

では何がWHO中国寄りにしているのか?

データである中国から提供される疫病情報である

WHOの宿痾として、情報提供加盟国善意に頼るしかないという問題がある。専門家/調査員を送り込むにも当該国の許可がいるため、独自情報収集もできない。

中国批判してデータが出てくる――「中国さん。あなた隠ぺいしてますね」「はい申し訳ありません。これが隠ぺい前のデータです」――なんてことはない。

ゆえに政治義理人情感情に惑わされず医学的なベストを尽くすなら、中国を刺激せずに気持ちよくデータを渡してもらうことが最適解になる。(本当のベスト中国が正直に全データ差し出してくれることだが、実現不可能な案に拘泥するのはワーストである)

これはWHOの根幹に関わる極めて深い問題だ。

「(WHOは)何のための組織なんだ」「政治より医学を優先しろ」という感じのブコメも見かけたが、医学を最優先とし、組織の使命を突き詰めて、そうして達する結論が“中国のご機嫌とり”にならざるを得ないこの地獄よ。

オーストラリアなんかはこの問題を正確に認識していて、「(拠出金削減よりも)WHO権限をより強化し、強制的査察権の付与等をすべきだ」という提言をしている[13]

ちなみに「中国抜きで新組織作れよ」的な冗談も目にしたが、それまた現実的ではない。

中国世界最大の人口、広大な国土に加え多数の国と国境を接している。国際的な人の出入りは膨大な数に上り貿易も盛んだ。民間レベル医療水準は高くなく、貧富の差が激しく、人々は頻繁に生きた動物接触する。そのうえ、国家は隠ぺい体質だ。

疫病、特に人獣共通感染症の発生源として絶対無視し得ない国、それが中国

今回のコロナ禍で中国から情報が一切なければどうなっていたかを考えれば答えは明らかだろう。まさに大地獄

故に切れない。切ってはいけない。

参考URL

[1] ttps://www.who.int/ihr/procedures/novel-coronavirus-2019/ec-22012020-members/en/

[2] ttps://www.who.int/emergencies/diseases/novel-coronavirus-2019/situation-reports

[3] ttps://doi.org/10.1101/2020.02.07.20021154

[4] ttps://doi.org/10.4000%2Fpoldev.2178

[5] ttps://www.who.int/csr/disease/swineflu/guidance/public_health/travel_advice/en/

[6] ttps://doi.org/10.1038/nm0506-497

[7] ttps://dx.doi.org/10.1371%2Fjournal.pmed.0030212

[8] ttps://dx.doi.org/10.1371%2Fjournal.pone.0000401

[9] ttps://doi.org/10.1371/journal.pone.0016591

[10] ttps://doi.org/10.2807/1560-7917.ES2014.19.42.20936

[11] ttps://www.who.int/bulletin/volumes/92/12/14-135590/en/

[12] ttps://www.politico.com/news/2020/04/15/trump-china-coronavirus-188736

[13] ttps://www.smh.com.au/politics/federal/australia-wants-who-to-have-same-powers-of-weapons-inspectors-20200422-p54m7i.html

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