Kazgaddさん昨日の三波春夫についてのエントリ”お客様は神さまです”にコメントありがとうございました。
>あと、個人的には三橋美智也さんにも哀愁を感じる時があります(笑)。
”三橋美智也さんにも”ということは三波春夫にも哀愁を感じているということですよね。実は昨日のエントリをかいた後書き足りないことがあるなぁと思っていたのが三波の”哀愁”についてだったので、タイミングぴったりのコメントでした。まずは三波春夫の代表曲「チャンチキおけさ」をお聴きください。
三波春夫-チャンチキおけさ
月がわびしい 露地裏の 屋台の酒の ほろにがさ
知らぬ同士が 小皿叩いて チャンチキおけさ
おけさ せつなや やるせなや
ひとり残した あの娘 達者で居てか おふくろは
すまぬすまぬと 詫びて今夜も チャンチキおけさ
おけさ おけさで 身を責める
故郷を出る時 もって来た 大きな夢を 盃に
そっと浮かべて もらす溜息 チャンチキおけさ
おけさ 涙で 曇る月
この歌”小皿叩いて チャンチキおけさ”という歌詞や三波の明るく伸びのある歌声から赤提灯で上司の悪口をいいながら小皿叩いて大声で歌いどんちゃん騒ぎをしている、そんな風景が浮かんでくる方も多いのではないでしょうか。実際ボクも高校時代の頃だと思いますが、この歌や紅白で歌う「おまんた囃子」そして”お客様は神さまです”というあの名セリフから三波春夫のことをお客をヨイショして盛り上げるアゲアゲのおっさんやと思うてました。それが大人になって3番までの歌詞をよく聴いて見ると”ええっ、そういう歌やったん。哀しい歌やん”と初めて気づきました。佐渡おけさで盛り上がっているところからおそらくは新潟から集団就職で東京にやってきた青年が、職に就いたものの都会の生活に馴染みきれず出世もままならず、夜独りになると故郷にいる母や恋人のことを思い出して心が沈みがちになっている。そんな気持ちを振り払うために仕事帰りに赤提灯で呑んで酔っ払い同じような境遇の見ず知らずの呑み客とおけさをうたって盛り上がり明日から俺は頑張るぞ、変わるぞといいながら翌日も結局呑んだくれている、そんななんとも切ない内容の歌なのです。
この歌、三波春夫の紹介文などではデビュー曲と書かれていることが多いのですが、実はデビュー曲は「メノコ船頭さん」という曲だったようです。そのデビュー盤がほとんど売れなかったため急遽、臨時発売されたのが「チャンチキおけさ」だったようです。この曲はテイチクの文芸部に投稿されていた門井八郎の歌詞に長津義司が新宿の焼き鳥屋で紙ナプキンにメロディを書いたというちょっと出来すぎの逸話が残っている歌で三波がデビューする前に出来上がっていた作品なのですが、上手く歌える歌手がいないということで関博孝ディレクターが温存していた曲でした。そんなところへ新潟出身(長岡)の三波が現れこの歌を歌うのは三波しかいないとレコードにしたところ大ヒットになり三波はスターへの道を歩み始めることとなります。
三波春夫の素晴らしいのは歌詞の内容は暗い「チャンチキおけさ」を見事明るく歌いきっているところです。それが高度経済成長期といういけいけどんどんの時代の中、社会の歯車となって様々な悩みをかかえつつも前向きに働くしかなかった若者たちの応援歌、否、子守歌として機能していたのではないかと思います。
以前”J-HIPHOPでお勧めの曲ありますか?切ない感じの曲であったらお願いします”というのを書きました。その時に本当は書きたかったもは最近のJ-POPの”切ない歌”への不満は切ない歌詞には切ないメロディー、または”切ない歌詞はあくまで真面目な歌詞でなければいけない”というあまりにも予定調和的な詞/曲が多すぎるのではないかということでした。もっといろんな(自由な)表現があっていいのはないかと思います。
そう三波の「チャンチキおけさ」のように”あくまで明るく歌いながら、でも哀しさが表現されている”そんな切ない歌があってもいいはずです。
PS.
歌詞に関して言うともし今「チャンチキおけさ」の詞の内容をライムにするとしたら、例えば”オイラの生まれたのは日本海に浮かぶ雪の多い島でよ 戦争で死んだと思っていた親父が帰ってきた奇跡に感謝 そしてその翌年には玉のような男の子 つまりはオレのことが生れ感謝 食い物もなくおっぱいもろくにでないのに元気に育ったことに感謝 そういってオフクロは島の最後の夜オレに話してくれた そのオフクロの言葉にオレは感謝・・・”みたいなライムがえんえんと続くことになるのだと思います。そこまで歌われると聞き手として入り込む余地がなくなりとてもじゃないけど感動できなくなる気がしてしまうのは、ボクがもう古い人間になってしまったからなのでしょうか。