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少年ジャンプ+で読み切りが次々バズる理由を編集長に聞いてみた

SPY×FAMILY』や『怪獣8号』を筆頭に、すごい勢いでヒット作を生んでいる「少年ジャンプ+」(以下、ジャンプ+)。

最近、Twitterやはてなブックマークといったサイトを見ていると、上述した連載作品だけでなく、読み切り作品のバズりっぷりが目に付きます。

参考までに今年、はてなブックマークでたくさんブックマークされた読み切りをまとめると、「ジャンプ+」の作品が本当に多いです。これらの作品は、Twitterでも数千回から数万回リツイートされているものばかりです。

新人作家の登竜門的な存在である読み切りが、これほど人気を集めているのはなぜなのか?ジャンプ+編集部は背景でどのような取り組みを行なってきたのか?

それを確かめるため、アルはジャンプ+編集長の細野修平さんにインタビューを実施。

すると、「ジャンプ+」が創設から6年間にわたって追い続けてきた、ある一つの指針が浮かび上がりました。

編集者さんのプロフィール

細野修平
少年ジャンプ+編集長。月刊少年ジャンプ、ジャンプSQ.、週刊少年ジャンプを経て、アプリ・マンガ誌「少年ジャンプ+」の立ち上げに関わり、2017年から同誌の編集長を務める。主な立ち上げ担当作品は『テガミバチ』『終わりのセラフ』『DRAGON BALL外伝 転生したらヤムチャだった件』など。管轄サービスは他に「ジャンプBOOKストア!」「MANGA Plus」「ジャンプの漫画学校」など。

「作家の趣味に走った読み切り」が伸びている

ーー最近、『SPY×FAMILY』や『怪獣8号』などの連載作品がすごく勢いづいていると思うんですけど、読み切りもものすごくバズっている印象を受けます。数自体もすごく出されていますよね。

ここ1、2年の話ですが、読み切りは1年間にざっくり150本~170本くらい公開しています。「月間ルーキー賞」というマンガ賞や「週刊少年ジャンプ」でマンガ賞を取った作品も載るんですけど、それらを除いたオリジナル作品の数がそれくらいです。

ーーものすごい数ですね!その中でどういった作品が特に伸びているんでしょうか?

それについて話すと、まず僕たちは読み切りでPVを取ることをそもそも期待していないんですよね。


もちろん取れるに越したことはないですが、読み切りがバズればいいなとか、それによって「ジャンプ+」のアクティブユーザー数が増えればいいなとかは、あまり考えていないです。

ーーおお、そうなんですね。

読み切りは作家さんが何かを試すのに役立ったり、既存の読者の方たちが連載とは違う面白さを持ったコンテンツに触れる体験を提供できたりすればそれでいいんです。


もちろん、「ジャンプ+」として読み切りが持つ役割として、ふらっと訪れた読者がその場で読める作品があるのはすごくいいと思います。

ーーなるほど。

「ジャンプ+」は1話から最新話まで無料で読めますが、そうはいっても連載途中の作品を読むより、その場で読める読み切りのほうが気軽さでは上かなと考えています。


ただ読み切りはあくまでおまけのような、ついでに楽しんでもらえればいいものではあるんです。

ーー読み切りはおまけで、連載こそがメイン。

そういった前提の上で、先ほどご質問された伸びる読み切りの特徴について話しますと…私が見ていて思うのは、世間で話題になったり閲覧数が伸びたりするものは、ある意味で作家さんが趣味に走ったというか、とにかく描きたいものを描いた作品が伸びるんじゃないかと思っています。

ーー趣味に走った作品ですか。

多分そういう作品って、掲載媒体のことを意識すると描けないと思うんです。個人的な趣味に走った熱量が出てくると、面白いものになるんじゃないでしょうか。


この前、読み切りを描いている作家さんにアンケートをとったんですよ。

ーーおお、どんなアンケートを?

ここ1年くらいに描いてもらった作家さんで、かつ閲覧数の多かった作家さんに対して実施しました。


聞いたことはすごくシンプルで、「誰に向けて描いているんですか」ということ。例えばジャンプ+読者なのか、Webに向けてなのか、みたいな。


すると、1番目は「ジャンプ+読者」だったんですが、2番目が「誰も意識していない」だったんです。要は、自分の好きなことを描いたという回答が多かったんですよね。

ーー面白い。今年によく読まれた作品だと『歯医者さん、あタってます!』や『ドクターマーメイド』がまず思い浮かびますが、どれも独特な設定でフェチズムを感じるような作品が多いですよね。

作品に自分の想いをぶつける作家さんが多いんだなと思いました。もちろん物語の上手さという巧拙の話もあるんですけど、熱量が強いほうが読者には伝わるんだなと。あまりにも情熱が溢れすぎて空回りするケースもあるんですけどね。


あと、読み切りは連載につながらなくていいから好きなものを描いてくださいと話したりするんですけど、結果として連載や作家さんの成長につながることが多いと思っていて。

ーーまさに『歯医者さん、あタってます!』は読み切りがヒットした後に連載がスタートしましたね。

全力で好きなものを描いた結果、見えてくるものってあると思うんですよ。「自分にとって好きなものは何なのか」とか「自分の好きなものでも通じるんだ」とか、もっと言うと、それが外れたとしても「自分が好きなものをそのまま描くと通じないんだな」みたいな気付きを得られるんです。

ーー好きを全力で作品にぶつけたことが、作家さんの糧になる。

その作家さんにとって成長につながるし、良い連載にもつながっていってるなと感じます。読み切りって後から振り返ると、その作家さんにとって創作意欲の原点になっていることもあるので。


具体的な例でいうと、「週刊少年ジャンプ」ですが、『僕のヒーローアカデミア』って堀越耕平先生の『僕のヒーロー』という読み切りが下敷きになっているんですね。作家さんと打合せをしていて詰まったりすると、最初に描いたものに戻ってみようと話すことってよくあるんですよね。

ーー『鬼滅の刃』もそうですよね。新人賞に投稿した『過狩り狩り』という読み切りが前身になったとか。

そうですね。みんな読み切りに立ち戻って自分の好きなものはなんだっけとか、ここを今だったらこう描けるんじゃないかとか考えられるので、役に立つんですよね。

SNSでバズっているのは、アプリでしっかり読まれる作品

ーーそれにしても最近、連載と比べても読み切りがすごくバズっていますよね。

それはすごくシンプルで、読み切りは名前通り、一話読み切ったら終わりだからシェアしやすいですよね。


Twitterマンガに通じるものがありますが、オチがあるほうがシェアしやすいんだと思います。


「最後まで読み切ったらこんな面白さがあるよ」と誰もが伝えやすく、読むほうも「40〜50ページくらいでしょ」と分かった上で読むと思うので、そのほうがバズりやすいのはすごく納得のいく結果ですね。

ーー確かにそうですね。

作品ページの閲覧数を見ていただけると分かるんですが、『怪獣8号』とかは1話あたり100万回以上閲覧されている一方で、読み切りでバズって100万閲覧を超えるものはそこまでないんです。

ーーおお、そうなんですか。

それはどれだけバズっても、「ジャンプ+」のアプリ内で読まれないと閲覧数が大きく伸びないからです。


「ジャンプ+」ではWeb読者率という数字を取っていて、アプリに対してブラウザで読まれた比率がどれくらいなのかを見ているんですけど、バズった作品はシェアを経由してブラウザで読まれるので、Web読者率が高くなります。

例えば100万閲覧を超えた読み切り版『歯医者さんあたタってます!』は他の作品と比べてWeb読者率が非常に高かった。


それでも、アプリ読者率のほうがWeb読者率より高いんです。

ーーつまり、インターネットで話題になるよりも、アプリ内で読まれることのほうが大事だと。

そういうことです。アプリでしっかり読まれないと100万を超えるような閲覧数にはならないし、アプリの中で読まれることでネットでも話題になるんです。


『怪獣8号』とかはまさにそうですが、アプリの中でしっかり読まれて、その読者の方たちが今回は面白かったぞ、すごかったぞと外に発信してくださる。そこでまた読みにきてくれる人たちがいるっていう。

ーーアプリが全ての起点なんですね。

まずアプリの中で読まれないと、外でもっと読まれることはないんですよ。アプリ外でだけ読まれているようなことってあまりないですね。


例えばブラウザでめちゃくちゃ読まれて、アプリの中で読まれない作品があったとしても、閲覧数としてはそもそも読まれていない作品だったりします。だから作家さんにはまずアプリの中で人気を取ろうと伝えています。

ーーそうなんですね。とはいえ2020年の読み切りはアプリ外ですごく話題になっていたと思うんですが、何らかの施策を実施されたりしたんでしょうか?

以前から「ジャンプ+」の読み切りはバズるものが一定数ありましたし、感覚としてはこの1年でバズっているとは思っていないんです。なのでまぁ、施策として変えたことは特にありません。

ただ、一つ言えるとすれば「ジャンプ+」のユーザー数自体が去年より80~100万は増えているので、中が強くなったから外に拡散しやすくなっているという言い方はできるかなと。

ーーユーザー数、ものすごい伸び方ですね…!

あと、これは感覚の話で裏付ける数字はないんですが、「ジャンプ+」ってそういう読み切りが載っている場所だよね、という共通認識が少しづつ生まれてきている気はします。


SNSでマンガが流れてきたとき、「ジャンプ+」の作品なら読もうかな、シェアしようかなという人が増えてきているんじゃないかと。

ーーああ、その感覚はいち読者としてすごくよく分かります。

例えば「月刊アフタヌーン」の四季賞って、マンガ編集者も「四季賞っぽい読み切り」と話すくらい、イメージができているんですよね。


マンガ読者の人たちも四季賞に対してはとにかく上質で面白い読み切りが読めるという共通認識を持たれているんじゃないでしょうか。

ーーそれもめちゃくちゃ分かります。

ですよね。そういうイメージが、「ジャンプ+」の読み切りにも少しずつ付いてきた感覚があって、それが追い風になっているという勝手な憶測です。


もしそうだったとすれば、読み切りをやり続けてきてよかったなという気はしますね。

読み切りだけで年間4,000万円のコスト!それでもやる理由

ーー年間150〜170本の読み切りを出してこられたとのことでしたが、ここまで読み切りに力を入れられているのはなぜでしょうか。

「ジャンプ+」は最初からずっと読み切りを大切にしているんですが、それはマンガ家さんにとって連載のための試金石であり、成長できる場所だと捉えているからです。


そのための機会としてずっと取り組んでいます。

ーー読み切りだからこそ試せることがあったり、読み切りを描くことで伸ばせる能力があったりする。

さらに言えば、読み切りの捉え方は作家さんのレベルによって違うと考えています。


例えばまだ賞をとったばかりの新人さんにとってはまず描いてみて、それがどう受け取られるかを試す場所。

一方、連載を控えているような作家さんにとっては連載の試金石として掲載し、上手くいった読み切りは連載に発展させられる場所。

ーー新人さんだけが描く場所ではない。

マンガ家さんって、ストレートに新人作家さんから連載作家さんに駆け上がるわけではなく、踊り場を迎える作家さんがいる。


良いものが描けなくて行き詰まった時期や、連載を終えて次はどうしようというとき、現状打破のために、何か好きなものを描くという機会になっています。

ーーなるほど。

かなりぶっちゃけた話、マンガアプリや雑誌からすれば、読み切りって儲からないんですよ。


まだ名前の売れていない作家さんの読み切りを単体で出しても、基本的には読んでもらえない。コミックスとして売ったり、連載のように話単位で販売できない。


そうなると、「儲からないならやるべきじゃない」という意見が自然に出てくると思うし、出版社系のマンガアプリでも以前はそういう風に言っているような人たちを見かけました。


マンガアプリなら連載をやればいいじゃん、連載ならお金が稼げるしって。

ーーけれど、「ジャンプ+」はそうしなかったんですね。

僕はそういう意見に対して、ずっと違うなと思っていたんです。すぐにはお金にならなくても、読み切りをやるべきだと。


それは、さっき話したような作家さんがトライアルをする場所が必要だと考えていたからです。

とは言っても、一般のマンガアプリが簡単にできることではないだろうし、やったとしても後追いになってしまうとは思っています。

ーー「ジャンプ+」の強みですね。

そうですね、これは「ジャンプ+」の自慢です(笑)。


今話しながら計算していたんですが、お金の話でいうと、読み切りを150本載せるとして、それらが平均30ページだとすると、読み切りの原稿料は新人作家さんの場合1ページあたり9,000円だから、それだけで4050万円かかっちゃうんですよね。

ーーひい、ものすごい金額!

それはまったく回収できないんですけど、やっているという。

ーーそして原稿料は想像していたより高い印象を受けました。

基本的に新人作家さんの場合の料金で、経験のある作家さんは要相談になっています。業界としては高いほうではないかなと。

ーーそうですよね。

あとWebだから何作でも載せられることも我々の強みですね。


もちろん紙も増刊号とかで枠を増やせるとは思うんですけど、「ジャンプ+」は制限がないので、良いものは全部載せていて。

ーー紙だとどうしても載せられる数に制限がかかりますよね。ちなみに載せている読み切りの基準って何かあったりしますか?

「中途半端なものは載せない」ということですね。何が中途半端なのかを具体的に言うと、いかにも「週刊少年ジャンプ」っぽい読み切りです。

ーージャンプっぽい読み切りは載せない…!

いわゆるジャンプの1話目の、いかにもジャンプらしい王道のテンプレ展開の読み切りはやめておこうと。もちろんそれで面白かったらいいんですけど。


中途半端な作品って読者が一番つまらないと感じるものだと思うので、そういう作品は載せないようにしていました。

ーーよくある感じにまとまろうとしている作品というか。それはある意味、先ほどお話しいただいた、自分の好きが前面に出ているわけではないという捉え方もできるのかなと。雑誌の色を汲み取って、合わせているというかなんというか。

まさにそういうことですね。実際、そういった作品は「週刊少年ジャンプ」に載っても人気が出ませんし、「ジャンプ+」で載せるともっと人気がないんですよね。


その判断基準は今も大切にしています。

他誌の編集部から集まった作家と、「ジャンプルーキー!」発の新人作家

ーーもう一つお聞きしたいのは、「ジャンプ+」で描いている作家さんって、どういうルートで「ジャンプ+」での執筆をスタートされるのでしょう?

当然、「ジャンプ+」の編集者が担当している作家さんの作品もあるんですが、「ジャンプ+」って元々色んな媒体の編集者が作品を持ち寄ってくるんですよね。


「週刊少年ジャンプ」の編集者もいれば、「ジャンプSQ.」の編集者もいたり。あとは「ウルトラジャンプ」、「週刊ヤングジャンプ」、「Vジャンプ」、「マーガレット」とかも。

ーーてっきり「ジャンプ+」の編集者さんが担当されている作家さんの作品ばかりが載っているものだと思っていたんですが、違うんですね…!

集英社の全マンガ編集部から作品が集まっているし、それは読み切りも同じなんです。他誌から回ってくる読み切りって、余計にそう思うんですけど、「その雑誌では受け入れられなかったんだな」って作品が多いんですよ。

編集者からすれば、作家さんと打ち合わせをしてできたものが自分が所属している雑誌のカラーに合わないことってよくあるんです。


今までだったら「うちじゃないよね」となっていた作品が、「ジャンプ+」があるから載せてみるか、ということになる。

ーー面白い。

他誌のカラーに合わないからと持ち込まれた作品が、「ジャンプ+」に載ってバズったこともあります。


もしバズらなかったとしても、その作家さんにとって好きなものを描いたことが、後々良い経験になるはずですしね。

ーー元々別の編集部で漫画を描かれていて、「ジャンプ+」にきて、すごい花開いたような作家さんの具体名ってあげられますか?

例えば「週刊少年ジャンプ」で『SAKAMOTO DAYS』という新連載が始まりましたが、作者の鈴木先生がその前に描いた『骸区』と『ロッカールーム』という作品が「ジャンプ+」に載って、それがバズったんですよ。


2作品とも見てもらえれば分かるんですけど、「少年誌じゃないな」って感じはすると思うんです。


でも「ジャンプ+」で反応が良かったのが糧になったのか、まあ分からないんですけど、ジャンプの増刊の「ジャンプGIGA」で原型になった『SAKAMOTO-サカモト-』を描き、今の連載にもつながっていったんじゃないかなと。

ーーおお、そんな経緯があったんですね。

他にも「ジャンプ+」を経てから「ジャンプ」にっていう作家さんは何人かいるんですよ。


約束のネバーランド』のコンビは最初の読み切りを「ジャンプ+」で載せていたり(『ポピィの願い』)、『AGRAVITY BOYS』も最初の読み切りが載っているのは「ジャンプ+」なんですね(『ジェナダイバージョン3to1』)。

ーーそうなんですね。他の編集部から作家さんが集まってくるというお話しがありましたが、最初からジャンプ+編集部の担当になる新人さんはどういうルートで?

「ジャンプ+」の通常ルートとしては、「ジャンプルーキー!」というマンガ投稿・公開サイトに投稿してくださった方へ編集部から声掛けをしています。


「ジャンプルーキー!賞」や「連載グランプリ」から上がってくる人もいますが、「ジャンプルーキー!」が一番大きい持ち込み場所です。


大体その後に編集者と読み切りをつくっていくパターンが多いですね。

ーー「ジャンプルーキー!」に投稿される作品って1年にどれくらいの数なんですか?

まず、投稿するユーザー数はずっと右肩上がりで、ここ半年で2,000人くらいが投稿しています。


投稿話数に関しては半年で18,000話くらいですね。だから月間3,000話くらいで、作品数で言えば月間700作くらい。

ーー1作品あたり4〜5話くらいが投稿されているということですね。それにしてもものすごい数ですね…。それだけの数の作品から、どうやって作家さんを探されているのでしょうか?

基本的に全ての作品に目を通しますよ。現場の編集者はそこがスカウトする場所だと思っているので。


一応、1週間ごとに担当する編集者を1名決めていて、その期間は担当者が全話を読み、声を掛けるかどうか決めてますね。

ーーやばい。担当作家さんの作品も見ながら、それだけの新しい作品をさばいているんですね…。

新人さんの作品が全ての源泉ですし、そこが枯れちゃったら僕らは仕事にならないので、たくさんの作品が投稿されることは本当にありがたい限りです。


また、現場の編集者同士でもライバル関係があるので、その週の担当じゃなくても、すでにチェックされた作品で声掛けをしていない作家さんに別の編集者が声かけをしたりと、活発にやっています。

ーー今、編集部には何名くらいが在籍されているんですか?

編集部は外部スタッフを入れて17人ですが、マンガ家さんとの編集業務をやる人間はそのうち12人ですね。年齢的なボリュームゾーンは20代後半から30前半が一番多いのかな。

ーーじゃあ、現在は12人で全ての作品をチェックされているんですね。読み切りはどのようにチェックされているのでしょう?

読み切りを通すかどうかは、二人の副編集長が見ています。以前は僕と副編2人で見ていたんですけど、去年くらいに体制を変更したんですよ。


読み切りは作家がチャレンジをする枠なので、その判断は僕よりも若い人間が判断したほうがいいし、副編2人にとっても読み切りのチェックをするのは訓練になると思っているので。

ーーなるほど。ここまで話をお伺いしてきて、編集部としてやることの方針がしっかり固まっていて、それに沿って突き進んでいるような印象を受けます。

そもそも最初に「ジャンプ+」創刊の告知を出したときから、「ジャンプを超えて一番になる」ことを目標にしていました。


なのでそのためのヒットを生むにはどうすればいいのかを突き詰めていった形になるのかなと。

ーーじゃあ、方針としては最初に決めたものからずっとブレていない。

あとは、社内で「お金儲けをするアプリにしなくていい」というコンセンサスが取れていたのも良かったのかなと。

ーーお金儲けをしなくていい!

ある意味ではマンガアプリってお金儲けのために突き進むのは簡単じゃないですか。でもそうではなく、ヒットを狙うために頑張ることだけを考え、それを純粋に突き詰められたのが良かった気がしますね。

全曜日に看板マンガをつくる。そのためのマジックナンバー

ーー「ジャンプ+」というアプリを伸ばす上で大切にされていることって何かありますか?

そうですね、やっぱりトライの数を増やすこと。だから総連載数や新しく連載を始める数に関しては特に制限を作っていません。


だから新連載が始まる数も多いんです。もちろん終わるものも多いんですけど、どんどんやっていこうと。

そこから目指しているのは、ずっと言っているんですけど、1週間の全ての曜日の看板になる作品をつくろうとしていて。

ーー全ての曜日の看板ですか。

去年、月曜日に『SPY×FAMILY』という100万閲覧を超える大看板ができました。そして今年は金曜日に『怪獣8号』ができて。


そうすると、あと5つの曜日に看板をつくるにはあと5年くらいかかるのかってなっちゃうんですけど(笑)。流石にもうちょっと早めに達成したいです。

ーー全ての曜日に読みたい作品があると、毎日「ジャンプ+を見にいかなきゃ!」と読みに行っちゃう習慣ができそうですよね。

あとはアプリが作って6年経つので古くなっちゃっていて、1月にはアプリのリニューアルも実施します。


なので、1月からはより細かな数字を取れるようになるんじゃないかと思っています。

ーーなるほど。具体的に、これからやっていこうとしていることって何かありますか?

アプリで言うと、やらなければならないことが2つあると思っているんですよね。

ーーおお、なんでしょう。

一つはマジックナンバーを探すことです。「週刊少年ジャンプ」の優れている点として、アンケートがあるじゃないですか。


あれってなんとなく順位があるから良さそうくらいに思われているんですが、あれの何が良いかって一番優れたフィードバックシステムなんですね。

ーーどういった点で優れているんでしょう?

毎週、一話ごとにどんどん作品を良くしていけるんですよ。順位の細かな変動によって、作家さんに「今回はここが悪かったから、次はこういうしよう」と伝えることができる。

ーーじゃあ、ジャンプの場合はアンケートの順位がマジックナンバーということですか。それがジャンプ+ではまだ見つかっていない…?

そうなんです、いろいろ試しているんですけど…。例えば閲覧数や読了率、面白かった率というのも取っていて。

ーー面白かった率ですか。

「ジャンプ+」では、読み終わったときにランダムで3択のアンケートが出るんですよ。そこで「面白い」を選択してくれた人の比率です。


他にもいろんな数字を取って、どれがマンガを良くするためのフィードバックとして一番優れているのかをずっと探っているところです。

ーーそれはジャンプみたいにアンケートでは測れないんですね。

そうですね、アンケートでは測れないと思っています。「週刊少年ジャンプ」の場合は20作品しか掲載されてないので、数が限られている上にまとめて一気に読むものなのでアンケートに回答しやすいんですよ。


でも「ジャンプ+」の場合、60~70本くらい連載していて、週刊のものもあれば隔週刊のもの、月刊のもの、日刊のものまであるので、それを読者に一律に見てもらうのは難しいなと。もしかしたらそこに、アプリならではの取り方があるのかもしれません。

ーー閲覧数も違うんですね。

閲覧数はすごくシンプルに言うと、「見ようと思った人数」だと思うんですよ。つまりその回を見終わったときに満足したかは関係ないんですね。


「前話の面白さを反映している」という考え方もできなくはないですが…。


閲覧数は回ごとに変動するので参考になる部分はあるかもしれないですが、僕らが求めている数字とはちょっと違うかなと考えています。

ーー毎話ごとに作家さんへ正確にフィードバックできる数値…難しそうです。

「週刊少年ジャンプ」のアンケートは毎話生きた数字がすぐに出て、それを元に作家さんと編集がその数字をさらに良くするための打合せができる。


それが「ジャンプ」の仕組みとして優れている点だと思っています。

ーーあと、アプリでやらなければいけないことのもう一つは?

もう一つは、アプリの仕組みとして、閲覧数上位作品に加えて、中位下位の作品を読まれやすくすることです。


それはアプリ内レコメンドだったり、回遊率を上げるためにどうするのかという話だったりするんですが、それがアプリ改修によって、もうちょっと簡単にできるようになるといいなと思っています。

ーーなるほど。

そういったアプリ側の仕組みが、「ジャンプ+」としてはあまりできていないという反省があります。良い連載、良いマンガ家さんたちに助けられてばかりなので、お返ししたいですね。

連載作家の層が厚くなってきた3つの理由

ーー読み切りのお話をたくさん伺いましたが、連載作品の層が厚くなってきている背景もお聞きしたいなと。

そうですね…現時点で層が厚いと言い切れるかは分かりませんが、3つ理由を話そうと思います。


まず1つ目は、さっきと同じ話になってしまうんですけど、「ジャンプ+」の注目度が上がった気はしているんですね。


アプリの読者が増えてきて、その人たちから面白いものを読むことができる媒体と認識されてきているんじゃないかと。

ーー媒体にしっかり読者が付いていることが、ヒット作の誕生にもつながっている。

もしかすると、去年からユーザー数が80〜100万も増えて、何らかの閾値を突破しているかもしれませんね。


あくまで仮説なので分からないですが、それが良い効果を生んでいるのかと。面白いものがアプリの読者の目に止まれば、世の中に認知される状態になっているということですね。

ーーなるほど。

次に2つ目になりますが、マンガ家さんが作品づくりを柔軟にしやすい環境も一つの要因だと思っています。


デジタルの良いところとして、3週載せて1週休んでも構わないし、週に2回でも構わないし、もっと言うと体調不良で休載するときも代原が必要なわけでもない。

ーーつまり、どんな事情を抱えた作家さんでも描きやすいということでしょうか。

『SPY×FAMILY』は隔週更新だし、『怪獣8号』は4週に1回がイラスト回で3勤1休みたいな感じなんです。


そういった形式でもヒットを目指せる、ヒットに至るまでの柔軟性があるのかなと。

ーーなるほど。

それに、遠藤先生は『SPY×FAMILY』が連載3作目で2作目から7年くらい間が空いているし、『怪獣8号』の松本先生も前回の連載から結構な期間が空いているんですね。

ーー『怪獣8号』が話題になったときは、『ねこわっぱ! 』を描かれていたマンガ家さんか!と驚いた覚えがあります。

僕らはマンガ家さんのキャリアを問わないし、どんなことがあってもヒットを狙って頑張ってくれればそれでいいという明確なスタンスがある。


そういう柔軟な部分によって、作家さんや編集にとってチャレンジしやすい場所になっていたのかもしれないです。

ーーすごく素敵ですね。

そして3つ目ですが、「アプリも紙と変わらず、真っ当な土俵である」と伝わったことがあると思います。


『SPY×FAMILY』が始まったとき、とある別のマンガアプリの編集をやられている方に言われて印象的だったことがあって。


「『SPY×FAMILY』が人気が出る世の中で良かった」と言われたんですけど。

ーーおお。

Web発だけど、面白いものがちゃんと人気が出て、受け入れられて良かったと。そう言われたとき、「ああ、目指してきたことは間違ってなかったんだ」と思ったんです。


やっぱり『SPY×FAMILY』や『怪獣8号』を見て思うのは、マンガアプリも紙の雑誌と変わらず、奇をてらったものではなく、単純に総合力が高いマンガが評価される土俵だということです。

ーー紙の雑誌が本場だという風潮は、最近はなくなってきたように感じますね。

紙の雑誌と比べて、デジタルだし、Webだし、アプリだしという思いが、あの2作品の人気で変わったと思うんですよ。


ここは真っ当な土俵だと、自分の持てるマンガ力の全てを使わないと戦えない場所だと伝わったと思うんで、そういう意味で言えばこれからのほうが大きなヒットが出そうだなと感じますね。

ーーそれは、「ジャンプ+」で作品をつくる作家さんや編集者さんの意気込みが変わるから、ということでしょうか?

そうです。紙の雑誌こそ王道であり、そこで描くことがヒットにつながると考えている作家さんや編集はまだまだ多いと思います。


それは間違っているわけではないと思いますが、「ジャンプ+」からたくさんヒットを生まれていたら、「ジャンプ+」にマンガを持っていこうという流れは自然じゃないですか。その流れが加速すると思うんです。

これからも「週刊少年ジャンプを超える」を目指し続ける

ーー人気のある媒体だから、そこに行けばもっと読まれるかもと考える人が増える。だから、外からもますます新しい才能が集まってくる予感がすると。

私の感覚ですが、看板マンガが3本くらいあるとその流れが一気に加速すると思うんですよね。

ーー3本、ですか。

なぜかというと、昔って雑誌は読みたいマンガが3本載っていたら買うと言われていたんです。スパイ、怪獣、もう一作みたいな。


もちろん他の作品もあるんですけど、挙げた2作みたいに外から見てもすごく分かりやすいヒット作がもう一本あると加速するんじゃないかと。

ーー紙の雑誌では、ヒット作が3本あると購読される。Webやアプリでも同じように、ヒット作が3本あればたくさん読まれるという仮説がある。そういうことですね。

そうです。来年、再来年に期待ですね。

ーーちなみに新人作家さんを集めたり育成したりに関して、力を入れられていることは?

とにかく色々やっていますね。「ジャンプルーキー!」の「連載グランプリ」など漫画賞も沢山あります。12月からは「インディーズ連載」というのも始めます。

ーーインディーズ連載ですか。

「ジャンプルーキー!」において月間で一番読まれた作品が、「ジャンプ+」での連載権を獲得できるようにするんです。


かつ、編集を付けずマンガ家さんがやりたいように描いてよくて、閲覧数によって原稿料を変えるという仕組みです。

ーーそれってかなり異例なやり方ですよね。なぜそんな仕組みを?

僕らの考えとして、「ジャンプルーキー!」に投稿する人たちの中には、「マンガをたくさん読まれたいけど編集者には付いてほしくない」という人もいるんじゃないかと。


そういう人たちが作品を描ける場所をつくってみようとしているんです。

詳細はこちらの記事をご覧ください。

ーー実験的な取り組みというか。

もし上手くいって、作家さんが「ここからはちゃんと連載としてやりたい」と思ってくれたら僕たちが付いて普通の連載にすることもあるでしょうし、「やっぱり一人のほうがいいし、人気が取れているからこのままやりたい」という人がいてもいいでしょう。


もしくは編集が付かないとやっぱり人気が出ないという結論に落ち着くパターンもありますし。


逆に、編集が付かずにものすごい閲覧数をバーンとたたき出して、編集不要論が勢いづくかもしれませんが(笑)。

ーーそれは結果が気になりますね。さて、最後になりますが、「ジャンプ+」のこれからの展望をお聞きしたいです。

これまでと変わらず、シンプルに面白いマンガを送り出すことを目指してやっていきたいなと。


面白いマンガというのを具体化すると、『ONE PIECE』と『鬼滅の刃』を超えるようなマンガを「ジャンプ+」から出したいと思っています。

ーー社会現象になるレベルのヒット、ということですね。

そういうマンガを出すことが、媒体の読者数の伸びに一番効きます。そしてその読者を目掛け、新人マンガ家が集まってくる。


「ジャンプ+」をそういう場所にしていきたいですね。

ーーものすごいヒット作が生まれることで、作り手と読み手の良い生態系というか、循環が作られる。

「週刊少年ジャンプ」がそれを一番できていたと思うので、「ジャンプ+」はそれをデジタルで達成するということですね。


12月28日(月)より、「少年ジャンプ+」にて「年末年始十三“恋”弾読切祭」が開催!

1月9日(土)まで、13日連続で「恋愛」をテーマにした読み切りが公開されます。企画ページには「最終日には、あの特別ゲストも参戦!?」の文字も。一体誰が現れるのでしょうか?

ぜひ「少年ジャンプ+」のアプリをダウンロードして、毎日チェックしてください!

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イラスト:さいお なお