[go: up one dir, main page]
More Web Proxy on the site http://driver.im/
八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

マスコミ報道の誤り―I.八ッ場ダムを中止した方が高くつくという話の誤り

マスコミ・行政の問題

マスコミ報道の誤り

(2009年9月17日)

I.八ッ場ダムを中止した方が高くつくという話の誤り

1.八ッ場ダムを中止した方がはるかに安上がり

(1) 事業費の再増額は必至

八ッ場ダム事業を継続した場合と中止した場合の建設事業費(水源地域整備事業と基金事業を除く)

八ッ場ダム事業を継続した場合と
中止した場合の建設事業費
(水源地域整備事業と基金事業を除く)

八ッ場ダム建設事業の事業費は4600億円(水源地域対策特別措置法事業と水源地域対策基金事業も含めると、約5900億円)とされているが、ダム事業を継続すれば、ダム完成までに事業費の大幅増額は必至である。増額要因としては、東京電力への多額の減電補償(吾妻川の大半を取水している5つの発電所への発電減少分の補償)が残されていること、貯水池予定地の周辺で地すべりの危険性がある場所が22箇所もあるため、大滝ダムや滝沢ダムの例に見るように、新たな地すべり対策費が膨れ上がる可能性がきわめて高いこと、関連事業の工事進捗率がまだ非常に低く、完成までにかなりの追加予算が必要となる可能性が高いことなどがある。

東電への巨額の減電補償

八ッ場ダムに水を貯めるためには、吾妻川にある東京電力(株)の水力発電所への送水量を大幅に減らす必要がある。
→ 巨額の減電補償(数百億円)が必要(減電量の試算結果 年間22,400万kWH)

吾妻川の水力発電所

吾妻川の水力発電所

八ッ場ダム予定地より下流にある吾妻川の発電量の合計最大出力 97,400kWH

八ッ場ダムの県営発電所の計画
発電力:最大11,400kW
年間発電量:4,099万kWH
八ッ場ダムによって吾妻川の全発電量は大幅に減少する。

(2) 継続した場合と中止した場合の今後の事業費の比較

八ッ場ダム事業を継続した場合は上述の要因によって1000億円程度の事業費増額が必要となると予想される。仮に1000億円とすれば、八ッ場ダム建設事業の今後の公金支出額は残事業費1390億円+1000億円=2390億円となる。

一方、中止した場合の必要事業費は国交省が示す生活関連の残事業費770億円程度である。
したがって、中止した方が差引き1620億円も公金支出を減らすことができる。

2.利水負担金の返還について

(1)利水負担金についての正しい話

八ッ場ダム事業の支出済み額の内訳

八ッ場ダム事業の支出済み額の内訳

国交省は、ダムを中止すれば、利水予定者が今までに負担した約1460億円を返還しなければならないとし、都県知事もそれに呼応して返還を要求すると主張しているが、二つの点でこの話は間違っている。

第一はこの約1460億円の中には水道事業および工業用水道事業への国庫補助金(厚生労働省と経済産業省からの補助金)が含まれており、それを除くと、6割の約890億円である。利水負担金の問題は国庫補助金も含めた数字が罷り通って話が一層大きくなっている。

第二に、特定多目的ダム法および施行令ではダム事業者が自らダムを中止した場合は想定されておらず、利水予定者への全額返還は明記されていないことであるから、利水負担金をどのように取り扱うかは今後の検討課題である。不要なダム建設を推進してきた責任は利水予定者側にもあり、さらに、今回の総選挙で多数の有権者が八ッ場ダムの中止を求めたのに、あえて返還を求めることは民意に反することでもある。

(2)利水負担金を仮に返還した場合は?

中止して利水負担金を返還した場合の今後の国家支出額

中止して利水負担金を返還した場合の今後の国家支出額

ダムを中止して利水負担金を仮に利水予定者に返還した場合、今後の国費支出額は次のようになる。

国交省は今後の国費支出額を利水負担金返還額約1460億円+生活関連の残事業費約770億円=約2230億円としているが、1460億円には上述の国庫補助金が含まれているから、国交省の数字は誤りである。

正しくは、利水負担金返還額約890億円+生活関連の残事業費約770億円=約1660億円が今後の国費支出額である。

利水負担金を返還しても、事業を継続した場合の公金支出額約2390億円より約730億円小さい金額になる。

(3)利水者負担金の返還は公会計内の話

しかし、利水者負担金の返還は公会計内での国と地方の負担割合のことであって、公金支出額の総額、すなわち、国民の負担額が変わるわけではないから、本質的な問題ではない。

1で述べたとおり、ダムを中止した方が、公金支出額がはるかに小さくなるのであって、広い視点から見て無駄な公費の支出をなくすため、ダムの中止が必要である。

貯水域周辺での地すべりの危険性

貯水域周辺での地すべりの危険性

大滝ダム(奈良県・吉野川、国交省)

  • 2002年8月にダム堤体が完成
  • 試験湛水で白屋地区で地割れが発生し、38戸が全戸移転
  • その後も大滝地区と迫地区でも地すべりの危険性が判明
  • 現在、対策工事中
  • 地すべり対策の工事費308億円
  • 現段階での完成予定 2013年3月
治水分の直轄負担金について

関係都県は利水負担金の他に八ッ場ダム事業の治水分として平成20年度までに526億円負担してきているが、これは河川法に基づく直轄事業負担金であって(ダムの場合は3割負担)、返還するような法的な根拠は何もないから、返還を求められるものではない。これは橋下徹大阪府知事が問題視した直轄事業負担金である。今まで道路等などの直轄公共事業が中止されても返還されたことはなく、八ッ場ダムの中止についてもしこの返還の話が出れば、今までに中止した直轄公共事業の全部に波及することになるから、国交省はこのことには触れることはできない。


» II.八ッ場ダムはすでに7割もできているという話の誤りについて