米国生まれの個人向けクラウドサービス「Evernote」が今、日本で急速に経済圏を形成しつつある。
Evernoteは文書、写真、音声、動画など種別を問わず様々なファイルを保存でき、後から検索しやすいように整理してくれるサービス。スマートフォンをはじめ、様々な端末から参照できる個人向けのクラウドサービスだ。
単純に保管するだけではない。例えば、名刺や書類を撮影して保存しておけば、サーバー上で文字を認識し、後からキーワードで検索可能になる。有償版と無償版があり、保存できるファイル形式や検索機能、保存可能な容量が異なる。有償版は月額5ドル、もしくは年間45ドルだ。
米エバーノートの設立は2006年8月。「Evernote」のベータ版を開始したのは2008年6月だ。約2年で約450万人の会員を獲得するその成長力には凄まじいものがある。米国に次いで利用者の多い国が日本ということもあり、NTT東西、NECビッグローブ、リコー、ソースネクスト、ぺんてる、ぐるなびなど様々な企業がエバーノートとの連携を表明。ソフトウエア、ハードウエア、サービスを問わず、幅広い企業が相次いで提携を発表している。
こうした日本企業の動きに対して、仕掛けの張本人である米エバーノートのフィル・リービンCEO(最高経営責任者)は驚きを隠さない。「こんなに物事が素早く進むなんて事前に聞いていた日本企業の話とずいぶん違う」。事業提携の話が実現に向かうスピードは米国をはるかに上回るという。
もちろんトップダウンで決断して提携に踏み切った企業もあるが、背景にある根本的な要因は市場停滞感だ。ハードウエアにしろ、ソフトウエアにしろ、既に成熟市場となり、なかなか画期的な機能は生み出せないでいる。クラウドサービスという付加価値を製品やサービスにアドオンできるEvernoteは、こうした市場からもろ手を挙げて歓迎されたわけだ。
パソコン無しでEvernoteにデータ転送を可能にした端末「N-TRANSFER」を開発したNTT東日本のある幹部はこう漏らした。「この端末はあらゆる意味で従来のNTTらしくない。とにかくスピード重視で製品開発に当たった」。Evernoteを取り巻く企業はとにかくフットワークが軽い。
一方、エバーノートにとっては情報のインプット元が増えることで、ユーザーが保存するデータ量の増大が期待でき、その分、有償版への移行率は高まる。まさに、Win-Winの関係を構築しつつある。
こうした状況はエバーノートにとって嬉しい誤算。ただ、ここから導き出される解は停滞している市場でも、ネットの力を借りればもう一度活性化できるということでもある。モノづくり、モノの売り方を根底からもう一度作り替えていく力がネットにはある。
日経ビジネスではフィル・リービンCEO来日に合わせ、2010年10月21日に「NET.イノベーションフォーラム」を開催する。ここでは、フィル・リービンCEOに加え、NTT西日本、ぺんてる、リコー、Cerevoといったハードウエアをネットによって作り替える企業も登場する。興味のある方は、ぜひ足を運んでみてほしい。
また、フィル・リービンCEOはその前日の10月20日、「ITpro EXPO 2010」の基調講演にも登壇する。こちらにも、ぜひ注目していただきたい。