ミャンマーの潜在能力にいち早く目を付けた日系IT企業が第一コンピュータリソース(DCR)である。実は同社は、この10年間でミャンマーに全額出資子会社を設立した唯一の日系企業だ。そのため2011年秋以降、日系企業の視察者がDCRのミャンマー拠点をひっきりなしに訪れている。
毎朝8時。ミャンマーDCR(MDCR)で、全社員が集まる名物の朝礼が始まる。
「体調を崩しやすい雨季はもうすぐ。健康管理も仕事の一部であることを忘れずに」。冒頭でミャンマー人のマネジャーが、業務報告や仕事の心得などを伝える。その後に始まるのは、社員のプレゼンテーションだ。自己紹介や趣味の話など、自由にスピーチする。この日は入社2年目の女性社員が登場。「私の趣味は読書です。初めて読んだ本は『窓際のトットちゃん』でした」などと話した。
社内公用語は日本語
MDCRでは社内公用語を日本語にしており、朝礼も全て日本語で行う(写真2)。驚くのは、マネジャーを含め、現地採用社員の日本語学習歴が長くても4年であること。最古参の社員でも、MDCRが設立された2008年の入社だからだ。にもかかわらず、日本の大学受験が可能なレベルとされる日本語検定試験1級と、高校1年生レベルとされる同2級の保持者の合計が、全社員の34%に上る。
多くの日系企業がMDCRの視察に訪れるが、みな朝礼に度肝を抜かれる。「わずか数年で、ミャンマーの人はここまで日本語を話せるようになるのか」。朝礼を見学した、ある日系IT企業の幹部は驚きの表情を見せていた。
DCRは中国にオフショア開発拠点を設けていたが、徐々に人件費が上がったことを受け、中国以外での拠点開設を検討した。そこで着目したのが、2006年ごろにはまだ手付かずだったミャンマーだ。
競合が少なく、IT系のトップ大学であるヤンゴン・コンピュータ大学などIT関連大学の成績優秀者を雇えることが魅力だった。ミャンマーで最も人気のある職種は医師で、その次がITエンジニア。優秀な人材が集まりやすい。
現在は、DCRのオフショア開発の9割はミャンマーで実施し、残りを中国で手掛ける。「技術者はほぼ100%の稼働率が続いている」とMDCRの小林政彦ゼネラルマネジャーは明かす。日本語の仕様書を理解し、顧客との連絡も日本語で対応する。サービス業向けの業務システムや金融機関の基幹業務用パッケージソフトなど、幅広い仕事を手掛けてきた。現在も13社の開発プロジェクトを同時並行でこなしている。「日本での開発に比べて1.5倍くらいの時間はかかるが、品質は遜色ないレベルになってきた」(MDCRの赤畑俊一社長)。
電力や通信インフラが課題
もちろん課題もある。電力や通信インフラの弱さだ。電力供給は不安定で、頻繁な停電対策のため自家発電装置を自社で用意しておくことが必須だ。ネットは通信速度が遅く、接続がよく切れる。光ファイバーでも実測は400キロ~500キロビット/秒(bps)程度の速度だという。このため、納期に余裕がある仕事しか請け負えない。日本との打ち合わせでは、Skypeを使い音声だけでやり取りしている。
だが、こうした課題を考慮しても「コスト面や将来性を含め、ミャンマーでオフショア開発に臨むメリットは大きい」とMDCRの赤畑社長は話す。現在は総勢160人体制だが、2012年度は最低50人を採用する予定だ。「仕事は増える一方なので、優秀な応募者が多ければ、50人を超えてもできるだけ多く採用する」と小林ゼネラルマネジャーは意気込む。