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 生成AI(人工知能)の利用は、システム開発プロセスの上流から下流まで広がっている。しかし依然としてハルシネーション(幻覚)に悩まされることは少なくない。そんな中、ハルシネーションを劇的に軽減する技術が登場しつつある。例えば2024年9月に米OpenAI(オープンAI)が公開した「OpenAI o1」だ。生成AIの専門家である博報堂DYホールディングスの森正弥執行役員CAIO(最高AI責任者)は、o1がシステム開発における「ゲームチェンジャー」になると予想する。

(聞き手は貴島 逸斗=日経クロステック/日経NETWORK)


システム開発における生成AIの利用状況をどう見ていますか。

 システム開発の上流工程から下流工程まで、既に幅広く生成AIが使われています。Pythonなど(主要なプログラミング言語)のコードを出力させるという使い方では、生成AIが学習したデータ量も多く、ハルシネーションが起こるリスクは低いようです。加えて、提案書や企画書を書くプランニングや、システム開発の工程全体のマネジメントでも生成AIが使われています。

 ただし現状では、それぞれの開発工程に閉じて生成AIを使うのにとどまっています。要件定義からリリースまで一貫して生成AIで自動化する「フルオートメーション」を実現した事例はまだないと考えていいでしょう。

博報堂DYホールディングスの森正弥執行役員CAIO(最高AI責任者)
博報堂DYホールディングスの森正弥執行役員CAIO(最高AI責任者)
(写真:陶山勉)
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システム開発における生成AI利用の課題を教えてください。

 ハルシネーションが起こるリスクがあることです。コーディング作業ではハルシネーションリスクが低いと言いましたが、環境設定などの作業ではまだそのリスクが高いのが現状です。フルオートメーションを実現するには、設計工程で必要な環境設定などの作業も生成AIで自動化する必要があるでしょう。

 とりわけハルシネーションへの注意が必要なのが設定ファイルです。学習データが豊富にそろっている一般的なコーディングと異なり、独SAPや米Oracle(オラクル)の製品などの設定ファイルは、学習データが少ないといえます。加えて、アプリケーションのバージョンが少し違うだけでも、設定ファイルの中身が変わることが多いです。

 こうした要因で環境設定を生成AIで自動化しようとするとハルシネーションリスクが高くなってしまいます。基本設計や詳細設計など環境設定が関係し得る工程では特にハルシネーションリスクに注意しなければならないことが、現状の課題といえるでしょう。