「どうしてこんな新しい発想ができたのか」――。国内自動車メーカーの電気自動車(EV)技術者が脱帽するのは、米Tesla(テスラ)が実用化した「Octovalve(オクトバルブ)」だ。
オクトバルブは、空調やリチウムイオン電池、パワートレーン、ECU(電子制御ユニット)など、冷却・加温が必要な部品の熱マネジメントシステム(Thermal Management System、TMS)の中核を担う部品だ。すべての冷却・加温の回路をオクトバルブとつなげ、熱を運ぶ水(クーラント)が流れる経路を条件に応じて切り替える。
テスラが2020年に実用化して以降、オクトバルブのような“熱の司令塔”によって集中管理するTMSが増えつつある。中国・比亜迪(BYD)も例外ではない。日経BPのプロジェクトチームが分解調査したBYDのEV「SEAL(シール)」からは、9つの電磁弁を備える「ノナバルブ」が見つかった(図1)。「ノナ」はラテン語で9を意味する。テスラの八方弁に便乗し、分解班がノナバルブと名付けた。
統合型のTMSはEVが抱える課題の解決に欠かせない重要技術だ。具体的には、航続距離の確保や充電時間の短縮、電池劣化の抑制などに大きな影響を与える。熱と向き合わなければ、EVの商品価値は高められないと言ってもいいだろう。
では、テスラとBYDはどちらが優れているのか。同領域の専門家であるY4ATECの山本祐司氏に、両社のTMSを比較・分析してもらった注)。同氏の専門的な知見や各社の資料、テスラが公開したオクトバルブの特許を基に優劣を比較した(図2)。
TMS専門家が独自分析
BYDとテスラは対照的なTMSを採用している。今回、両社が実用化したTMSを(1)部品点数、(2)コスト、(3)消費電力――の“三番勝負”で優劣評価を実施した(図3)。両社の技術力を把握し、課題や進化の余地を解説していく。