米国大統領選でトランプ氏が当選を決めた後、第2次トランプ政権の関税政策に注目が集まっている。しかし、電気自動車(EV)・蓄電池分野では米国大統領選以前に米国、カナダ、欧州連合(EU)がすでに相次いで、圧倒的な価格競争力を持つ中国製EVと蓄電池の関税率を上げ、中国製EV・蓄電池の排除に向かった。中国は現地生産に切り替えられるだろうか。また、中国を排除した後の欧米諸国はどのように電動化を進めるのだろうか。
欧州から排除される中国製EVと蓄電池
今年2024年は、欧米諸国が足並みをそろえて中国製EVと蓄電池の排除に動いた年として記憶されるだろう。
2021年以降、中国はEU諸国に対するEVの輸出を拡大してきた。図1に示す通り、輸出額ベースでは、中国のバッテリー式電気自動車(BEV)の輸出先のうち、EU諸国は3分の1から半分を占める。
この状況を受け、2023年10月、EUは中国政府から補助金を受けて製造された安価なEVが域内市場での競争を阻害し、EUの産業に損害を与えているとの疑いで反補助金調査を開始した。EUによれば、2023年における欧州製BEVの平均販売価格は4万6000ユーロ(約736万円)であるのに対し、中国製BEVは3万ユーロ(約480万円)と大幅に安い価格で販売されていた。
EUは2024年6月、中国製BEVに対する反補助金調査の暫定結果を基に、輸入される中国製BEVに対して追加関税を課すことを発表した。追加関税の適用は2024年7月4日に開始されたが、EUと中国は協議を継続し、最終的な税率は2024年10月に決定した。EUの外国産EVに対する関税は10%だが、中国製BEVに対しては追加関税率を上乗せする。
追加関税率は中国自動車メーカーに対して一律で定めているわけではない。図2の通り、上海汽車(SAIC)グループ、吉利汽車(Geely)グループ、比亜迪(BYD)グループ、Tesla(上海、米テスラの上海現地法人)の4社には個別に追加関税率を設定した。それ以外の企業については、反補助金調査に協力したと欧州委員会が認めた場合は20.7%、その他の企業は35.3%とした(図2は『蓄電池ビジネス戦略レポート』からの再掲)。従って、中国製BEVに対しては関税10%に追加関税率を足し合わせた税率が適用される。最低税率がTeslaの17.8%であり、最高は上海汽車グループなどの45.3%となった。
関連情報: 『蓄電池ビジネス戦略レポート』EUは2023年に「電池規則」を施行した。この規則では、EU圏内に輸入される、またはEU圏内で製造される蓄電池に対して、カーボンフットプリント、責任ある調達、リサイクル率、バッテリーパスポートなどの要件を課している(詳細は「EUで『電池規則』が発効、蓄電池の国際覇権を狙う欧州の戦略とは」参照)。
関連情報: EUで『電池規則』が発効、蓄電池の国際覇権を狙う欧州の戦略とはさらにEUは2024年5月、蓄電池産業を含む重要産業で必須となる「重要原材料」の持続可能な供給確保を目的として「重要原材料法(The Critical Raw Materials Act)」を施行した。同法では、経済的に重要かつ供給リスクの高い34種類の原材料を重要原材料として定義した。そのうち16種類を「戦略的原材料」として位置付けたが、これらは蓄電池に深く関わるコバルト、リチウム(バッテリーグレード)、マンガン(バッテリーグレード)、天然グラファイト(バッテリーグレード)、ニッケル(バッテリーグレード)などを含む。
同法は、戦略的原材料の採掘・処理・リサイクルに関して、2030年のEU域内の能力について以下のように数値目標を定めている。
- EU域内消費の少なくとも10%がEU内採掘
- EU域内消費の少なくとも40%がEU内処理
- EU域内消費の少なくとも25%がEU内リサイクル
- それぞれの原材料の各段階(採掘、処理、リサイクル)の1国への依存が65%を超えない
電池規則および重要原材料法は蓄電池の輸入を直接制限するものではないが、輸入におけるハードルとなり得る。中国製EVの追加関税の設定は、電池規則と重要原材料法に追加された域外製品の制限の動きと言える。