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 2023年3月末、マイナンバーカードの申請件数は約9614万枚と人口の約76.3%に達した。政府は3月末までに「ほぼ全ての国民」への普及を目指すとしてきたが、松本剛明総務相は2023年4月4日の記者会見で「ほぼ全ての国民に行き渡らせる水準までは到達したと考えている」と表明した。

 「持っていても使わない」と言われることが多かったマイナンバーカード。「ほぼ全ての国民」に行き渡ることで、「便利なカード」に進化することがますます求められるようになった。そのための鍵がマイナンバーカードの機能である「公的個人認証サービス(JPKI)」を使ったデジタル本人確認の民間サービスでの利用である。ただ、現状では多くの人が日常で使う機会はほとんどない。民間利用を後押しするためのルールが未整備なことが壁となっている。

民間サービスでのデジタル本人確認の普及に期待

 「マイナンバーカードを使った本人確認を行政だけでなく民間でも使い、利便性が向上することを期待している」――。河野太郎デジタル相は2023年3月24日の記者会見でこう述べ、マイナンバーカードを使ったデジタル本人確認の民間利用拡大を呼びかけた。デジタル庁では同日から、民間サービスでの活用アイデアの公募を始めた。

 河野デジタル相はこれまでもたびたび、マイナンバーカードのデジタル本人確認の利便性をアピールし、民間サービスでの利用を呼びかけてきた。デジタル庁では、ライブなどのイベント会場における酒類販売での年齢確認やチケットの転売防止などといった目的の利用を想定し、関連の業界団体と協議中という。

 政府はマイナンバーカードを使った本人確認のレベルを、運転免許証などの公的身分証を基にした対面の身元確認と同じレベルと位置付けている。政府がマイナンバーカードを「デジタル社会のパスポート」とアピールするゆえんである。

 実は、マイナンバーカードを使った民間サービスでのデジタル本人確認について、これまでも政府はイベント会場での本人確認の実証実験を行うなどして利用を推進してきた。金融機関などがオンラインでの本人確認に一部利用しているが、これまではカードの普及率の低さもあり、それほど進んでいないのが現状である。

 デジタル本人確認には、マイナンバーカードの内蔵ICチップが含む「電子証明書」の情報を基にしたJPKIを活用する。オンラインサービスなどで、ユーザーが間違いなく本人であるという身元確認や本人認証に使える。

なりすましや改ざんを防ぐ公的個人認証サービス(JPKI)の概要
なりすましや改ざんを防ぐ公的個人認証サービス(JPKI)の概要
(出所:総務省の資料を基に日経クロステック作成、マイナンバーカードの画像提供:総務省)
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 JPKIはもともとオンラインで安全で確実な行政手続きなどを行うために、国が運用し低コストで利用できるサービスとして行政機関などが利用してきたが、公的個人認証法の改正で2016年から民間事業者にも開放された。JPKI自体はマイナンバーを使わないため、法律で定められた行政手続きなどにしか利用できないマイナンバーとは無関係に、行政機関のほか民間事業者でもオンラインでの本人確認に利用できるというわけだ。