欧州委員会(EC)が2022年11月に提案した自動車の新たな環境規制「Euro 7(ユーロ7)」。現行規制「ユーロ6d」まではテールパイプから出る排ガスだけを規制してきたが、今回は新たにタイヤやブレーキから出る摩耗粉じんも対象とする方針だ。これに伴い、電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)といったゼロエミッション車(ZEV)も規制の対象となる。
とりわけ、欧州で販売が伸びているEVでは対策が難しくなりそうだ。EVは大容量のリチウムイオン電池を搭載するため、車両質量が内燃機関(ICE)搭載車より重くなりやすい。例えば、ドイツVolkswagen(フォルクスワーゲン、VW)の小型ハッチバック「ゴルフ」は簡易ハイブリッド車(MHEV)の標準モデルが1306kgである。これに対し、同等サイズのEV「ID.3」(現行車)は45kWhの電池を搭載する標準モデルが1719kgと、ゴルフに比べて400kg以上重い。
さらに、モーターで駆動するEVは発進・加速時の強力なトルクが持ち味でもある。こうしたEVの特徴は、タイヤの摩耗量が増える要因となる。
ただ、タイヤの規制に関しては具体的な規制値や試験法が確定していないのが現状だ(図1)。こうした不透明な状況の中で対策を迫られているのが、タイヤメーカーである。
規制案は欧州理事会と欧州議会で審議される。議決されれば、2025年7月から乗用車に適用されることになる。ECとしては2024年末までに規制値を提案するため、試験法や技術を検討するとしている。規制値の決定が2024年末までもつれ込めば、適用までの猶予は約半年しかない。
規制値を決める前には、試験法を確立したうえで市場のタイヤのデータを収集し、性能を把握する必要がある。タイヤメーカーからは「適用開始までの期間が非常に短い」(ある欧州タイヤ大手のマーケティング担当者)といった懸念の声が聞こえてくる。
まずは、早急な試験法の確立が望まれる。タイヤ業界としては現状、摩耗量を測定する方向にある。すなわち、一定の走行距離でタイヤの質量がどれだけ減少するかを測定する。タイヤに集じん機を装着し、摩耗粉じんを吸引して回収する試験法も検討されているものの「測定精度の面で非常に難しい」(ある国内タイヤ大手の技術者)という。
摩耗量の測定については、タイヤメーカー各社がすでに取り組んでいる。問題は試験法がメーカーによって異なることだ。業界全体で統一した試験法を確立するため、国連欧州経済委員会(UNECE)の下部組織である「自動車基準調和世界フォーラム(WP29)」のタスクフォースで協議中だ。こうした国際的な議論を踏まえ、ECは2024年末までに摩耗量の試験法などを含む報告書を作成する計画である。