2018年の税制改正で変わる「事業承継」。法人保険を活用した対策はどうなる?
日本には「ものづくり」の力があります。それを支えているのは東京の下町や大阪・泉南地域の町工場など、特化した技術力を有する中小企業です。
「世界を席巻するスマートフォンも、宇宙へ向かうスペースシャトルも、細かい部品は日本製」という話は有名であり、日本のさまざまなところで高い技術を誇る産業が今日も稼働しているのです。
しかし、これらの企業は現在大きな問題を抱えています。それは「跡継ぎ」です。創業者がオーナーであり大株主である現在の状態から、どのようにして次世代へと繋げていくか。技術の承継はもちろんのこと、会社の命である自社株を誰が引き継いでいくのかという点が、大きな問題になっているのです。そこで2018年、この課題に向き合った「事業承継税制」が施行されました。
目次
2018年税制改正の目玉「事業承継税制」とは
事業承継税制とは、会社の後継者が現在の代表者から相続や贈与、遺贈によって非上場株式を取得した場合、「後継者の死亡」までの間、税金を免除する制度のことです。法人は申請が必要であり、その申請によって認定された法人の場合、代表者以外からの株式譲渡も対象となります。この税制特例は、2018年1月からの10年間の有限立法となっており、この期間内に発生した相続や贈与が対象となります。
実は、これまでも「事業承継税制」は存在していました。ただ、承継株式の一部のみが非課税の対象であり、代表者からの相続も「一人からの相続のみが対象」と限定されていたため、配偶者や親族の複数人から子どもに承継する場合は一部課税対象となるなど、使い勝手の悪さが指摘されていたのです。そのため、今回の改正によって「入口」が抜本的に修正されたと言えるでしょう。
法人保険を活用した事業承継対策はどうなる?
事業承継の対策として長く活用されてきたもののひとつに「法人保険」があります。今でも、事業承継時に法人保険が活用される局面は少なくありません。
しかし、「事業承継税制により相続税の納税額が減少すると、法人保険は必要ないのではないか」という考えを持つ人もいるでしょう。また、「新たな事業承継税制が浸透すると、法人保険の位置づけが変わるのではないか」とも言われています。
確かに法人保険の保険金は相続財産に該当するため、相続税の原資として認識されていました。たとえば、被相続人である代表者が亡くなったときのために、承継人以外の人を受取人としておき、自社株に対する代替資産とするケースがあるでしょう。
この場合の相続は、事業承継税制によって相続税が非課税になっても、なんの影響もありません。相続税の負担が減るからといって、法人保険のニーズとはまったく別ということです。
事業承継における「M&A」
とはいえ、事業承継税制のおかげで「急に」事業承継が円滑化し、次世代の後任が見つかるわけではありません。後継者が見つからない場合には、「M&A」という選択肢もあります。
M&Aとは、ほかの大企業や競合となる企業に株式を売却するなどで経営権の譲渡をすることです。ひと昔前までM&Aは「買収」という言葉で訳されることも多く、プラスの印象とは言い難かったのですが、最近は大きく風潮が異なってきました。
事業承継税制を活用しても後継者そのものがいない場合、それまで会社を必死に守ってきた創業者の想いをもっとも継承できる方法はM&A、というケースもあるでしょう。特に、M&Aでの事業引受の経営者が同じ専門性を持っている場合、業界に精通した会社への承継が「最善策」となる場合が多いです。
これらの選択肢は、それぞれの特徴を組み合わせて考える必要があります。また、事業承継は創業者である被相続人の立場、事業を承継する相続人の立場など、あらゆる立場の当事者の意見をうまくまとめることが大切です。そのために法人保険の特徴を活かし、上手に活用していくようにしましょう。
事業承継自体も「代替わり」するタイミング
1964年の東京オリンピックから56年後の2020年、再び東京でオリンピックが開催されます。その2020年も、いよいよ目前まで迫ってきました。高度経済成長期だった一度目の東京オリンピックではさまざまな産業が生まれ、現在にも繋がる「技術」となっているものが数多くあります。再びこの日本でオリンピックが行われるタイミングで、事業承継もまた「代変わり」を迎えていることは、とても印象的なことのように思えます。
事業承継税制では相続人が「肉親」である必要はないため、この先50年、100年と続いていくために、会社が代変わりを経るよい機会と言えるのかもしれません。非課税で維持した余力を事業投資の費用に充て、新しい時代に即した企業になっていく。その「変化」を楽しみにしたいものですね。
もっと記事を読みたい方はこちら
無料会員登録でメルマガをお届け!