家内労働者等の必要経費の特例で55万円控除OK!申告書の書き方など詳しく解説
在宅ワークや内職をしている方の中には、「経費にできるものが少ない」「売上金額と所得金額がほとんど同じ」という方もいらっしゃるかと思います。そういった不満を抱えている方にとって、もしかしたらこの記事は朗報になるかもしれません。
この記事で紹介するのは、「家内労働者等の必要経費の特例」というもので、条件を満たせば最高55万円まで必要経費として扱えるという内容です。
この特例は、青色申告者でも白色申告者でも適用することができます。そこで、適用要件や具体的な計算例、申告手続きのポイントを解説していきます。
目次
家内労働者等の必要経費の特例とは
事業所得や雑所得は「総収入金額から必要経費を差し引いたもの」が所得金額になります。
しかし、仕事や職種によってはあまり経費が発生しないものもあります。その結果、仕事の内容がほとんど同じにもかかわらず、働き方によって会社員やパートよりも「所得金額が大きくなる」という不公平が起きてしまう可能性があります。
そこで、給与所得で認められている「給与所得控除」との公平を図るため、租税特別措置法にて「家内労働者等の必要経費の特例」という制度を定めています。
一定の条件を満たすと「実際に支出した経費が55万円未満であっても、必要経費の金額を最高55万円(※)まで計上できる」という特例を設けています。(※2019年以前はこの金額が65万円となっています)
条件は以下のとおりです。
- 対象者が「家内労働者等」であること
- 所得の種類が「事業所得」または「雑所得」であること
- 「1年間の給与収入金額が55万円未満」であること
このうち、「家内労働者等」という言葉は普段あまり耳にしないかもしれません。そこで、この家内労働者等にはどういった人が当てはまるのかを確認してみます。
ヤクルトレディや保険外交員などが対象
家内労働者等とは、「家内労働法で規定されている家内労働者」や、「特定の人に対して継続的にサービスを提供する人」、「外交員や集金人」などをいいます。
具体的には、内職者、ヤクルト販売員、保険外交員、新聞やNHKの集金員、電力量計の検針人などが、この特例の対象者です。
また、家内労働者としての収入以外に給与所得があったとしても、55万円未満であれば特例の対象となります。ただし、収入金額から差し引けるのは事業所得または雑所得に対してのみです。
自分が当てはまるのか判断に迷った際は、所轄の税務署か税理士に相談してみてください。
自宅開業の場合などは対象外
事務所や店舗を構えている人や商品を販売している人、他人に雇用されている人は家内労働者等には当てはまりません。
これらの人は「不特定多数の相手にサービスを提供している」「サービスではなく商品を販売している」「給与を受け取っている」といった理由から、家内労働者等には含まれないことになっています。
事務所を構えている場合は「不特定多数のお客さんにサービスを提供している」「広くお客さんを集めている」と考えられます。また、同じ保険を扱っている方の中でも、保険会社で正社員やアルバイトとして働いている場合は「他人に雇用されている」状態にあるので対象外となります。
家内労働者等の必要経費の特例の手続き方法
本特例は、確定申告によって適用することができます。直接税務署に確定申告書等を提出するだけでなく、郵送やe-Taxによる方法でも可能です。
まず、確定申告書第二表の「特例適用条文等」欄に「措法27」と記します。それ以外は、所得、申告の種類ごとに以下のように異なります。
事業所得のみ
青色申告者の場合は、青色申告決算書の「青色申告特別控除前の所得金額」欄に、総収入金額から特例による必要経費を差し引いた金額を記載し、金額の頭に「特」と書きます(※◯の中に特を書きます。以下、同様)。また、第一表の「所得金額」欄の金額にも、その頭に「特」と書きます。
白色申告者の場合は、収支内訳書の「所得金額」欄に、総収入金額から特例による必要経費を差し引いた金額を記載し、金額の頭に「特」と書きます。また、第一表の「所得金額」欄の金額にも、金額とその頭に「特」を書きます。
雑所得のみ
申告書第一表の「所得金額」の欄に、雑所得の収入金額から特例による必要経費を差し引いた金額を記載し、金額の頭に「特」を書きます。
事業所得と雑所得の両方ある
上記に加えて、「家内労働者等の事業所得等の所得計算の特例の適用を受ける場合の必要経費の額の計算書」を作成、添付する必要があります。
こちらは国税庁のホームページからダウンロードすることができます。
給与所得も受け取っている
事業所得や雑所得以外に給与所得があるという場合も、「家内労働者等の事業所得等の所得計算の特例の適用を受ける場合の必要経費の額の計算書」を作成、添付する必要があります。
特例を使った所得金額の計算方法
家内労働者等に当てはまる方は、内職等のみ行っている方もいれば、会社員として働きつつ副業を行っている方など、さまざまなケースがあるかと思います。
それぞれで必要経費や所得金額の計算方法が異なるため、具体例を挙げて解説します(※2019年以前の計算をする場合、「55万円」の部分を「65万円」に変換して計算してください)。
事業所得または雑所得のみ
収入が家内労働者等としての収入のみであれば、特例をそのまま適用できます。
そのため、実際に支出した経費の金額が55万円以下であっても、最高55万円まで必要経費として申告できます。なお、収入金額が55万円以下の場合は、必要経費の上限は収入金額までです。
- 特例適用の判断:実際に支出した経費の金額<55万円
- 特例を適用する場合の所得金額の計算:家内労働者等の収入 − 必要経費(最高55万円)
事業所得と雑所得の両方ある
ポイントは、家内労働者等としての収入が「事業所得と雑所得の実際に支出した経費の合計額が55万円未満である」ことです。経費の合計額が55万円より多ければ、本特例を使うことはできません。
また、本特例が使える場合には「実際に支出した経費との差額部分」が必要経費として申告できます。計算した差額分の金額は、雑所得の必要経費として計算することになります。
- 特例適用の判断:事業所得の経費 + 雑所得の経費<55万円
- 特例を適用する場合の所得金額の計算:55万円 − (事業所得の経費 + 雑所得の経費)= A
雑所得 = 家内労働者等の収入(雑所得) − (雑所得の経費 + A)
事業所得 = 家内労働者等の収入(事業所得) − 事業所得の経費
※Aを雑所得の経費に加算できるのは雑所得がゼロになるまでです。残額がある場合には事業所得の経費に加算できます。
給与所得も受け取っている
給与を受け取りつつ、家内労働者等としての収入もある場合は、給与収入の金額に応じて申告できる必要経費が変わります。
加算できるのは、55万円から給与収入を差し引いた金額です。
- 特例適用の判断:給与収入の金額<55万円
- 特例を適用する場合の所得金額の計算:55万円 − 給与収入の金額 − (事業所得の経費 + 雑所得の経費)= A
雑所得 = 家内労働者等の収入(雑所得) − (雑所得の経費 + A)
事業所得 = 家内労働者等の収入(事業所得) − 事業所得の経費
※Aを雑所得の経費に加算できるのは雑所得がゼロになるまでです。残額がある場合には事業所得の経費に加算できます。
複数所得がある場合の計算例
複数所得がある場合の特例の適用については、計算過程が若干複雑のため、計算例を元により詳しく解説していきます。
計算の設定
- 給与収入金額:20万円
- 事業所得の総収入金額:30万円
- 事業所得の実際の経費:15万円
- 公的年金等以外の雑所得の総収入金額:10万円
- 公的年金等以外の雑所得の実際の経費:5万円
(1)特例適用の判断:20万円(給与所得の収入金額)<55万円
給与所得の収入金額が55万円未満なので、特例を適用することができます。
(2)特例を適用する場合の所得金額の計算:55万円 − 20万円(給与収入金額) − {15万円(事業所得の実際の経費) + 5万円(雑所得の実際の経費)}= 15万円
雑所得 = 10万円(雑所得の総収入金額) − {5万円(雑所得の実際の経費) + 5万円} = 0円
事業所得 = 30万円(事業所得の総収入金額) − {15万円(事業所得の実際の経費) + 10万円} = 5万円
55万円から給与収入金額と実際の経費を引いた15万円が、加算できる必要経費です。
まずは、雑所得から計算しますが加算できる必要経費は収入金額が上限となるため、このケースでは5万円です。事業所得の計算では、残額の10万円が必要経費に加算できます。
このケースでは、雑所得が0円、事業所得が5万円となります。
青色申告の特別控除と併用できる
青色申告者には、「青色申告特別控除」と呼ばれる最高65万円まで控除できる制度があります。実は、この制度と「家内労働者等の必要経費の特例」は併用することができます。
もちろん、それぞれに定められている条件を満たしていることが前提条件です。
たとえば、青色申告特別控除の場合は、「青色申告の承認申請」、「事業所得に関する記帳」、「決算書類の作成」などが必要です。
必要経費として申告できる金額は、先述のケースと同じ計算方法を用います。
おわりに
家庭内労働者等の必要経費の特例を使えば、支出が少ない方であっても、最高55万円を必要経費として申告することができます。そのため、もしご自身が家庭内労働者等の対象者に当てはまり、特例を使っていないのであれば、ぜひ活用することをおすすめします。
なお、実際に支出した経費が55万円よりも多い場合には、本特例を使う必要がありませんので、「実際に支出した経費」を申告しましょう。
「自分が対象者なのかどうか分からない」「計算方法がわからない」といった悩みがあれば、税理士や所轄の税務署などに相談してみるのがよいでしょう。また、無料で税理士に相談できる「みんなの税務相談」も活用してみてください。
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