こんにちは、らくからちゃです。
確定申告の季節がやってまいりました。ありったけの領収書をかき集め、申告するのさ医療費控除!!という感じで、今年も数字と格闘しております。そういや最近、Amazonがやっとこさ日本国内で税金を払うつもりになったという記事を読みました。
タックスヘイブン対策も強化されてきましたし「年貢の納め時」とでも思ったのでしょうか。同社については、薄利主義で利益を出すつもりが無いのも税務当局にとっては頭痛の種でしょうけど、払う気を持ってくれたのは歓迎せねばなりませんな。
企業の税制は、個人よりも更に複雑怪奇です。あんなに儲かっているのに、これっぽっちかよ!という会社が無いか、週刊朝日がまとめてくれていました。
(出典:法人税逃れ大国ニッポン 消費増税で内部留保463兆円のカラクリ (1/3) 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット))
税金等調整前当期純利益(≒税引前利益)から当期純利益(≒税引後利益)を差し引いた金額で比較してみた資料ですが、俄然目を引くのがソフトバンクグループの-8,236億円ですね。
直近3カ年で、税引前利益より税引後利益が上回っとる。これ、どういうこと?
税効果会計ダイジェスト
会計上の当期純利益は、いわゆる税効果会計を適用後のものです。ごく簡単に復習しておきましょう。
法人税は、利益に税率をかけて計算します。普通に考えれば、税引前の当期純利益に、法人税率をかければ納めるべき法人税の金額が計算できます。でも「何が収益で、何が費用なのか」の認識は、株主にむけて報告する財務会計の決算書と、税務署に向けて報告する税務会計の決算書では定義が異なります。
ちなみに
- 財務会計上の収益=税務会計上「益金」
- 財務会計上の費用=税務会計上「損金」
- 財務会計上の利益=税務会計上「所得」
と呼びます。
多いのが減価償却費の償却期間に関するズレですね。一口に機械といっても使用期間は長いものから短いものまで、色んなタイプのものがありますよね。株主には3年間使うことが前提で買ってきた機械は、3年間で減価償却するよう計算して報告します。しかし税法上5年で償却せよと書いてあれば、税金の計算は5年を基準に償却費を計算しなければならない。
償却年数が長くなったことで、1年あたり100万円償却費が減った(②)としましょう。そうすると利益は100万円増え(④)ます。税率を30%として法人税を計算してみましょう。会計上の利益から求めた90万円よりも30万円ほど増えます(⑥)
収益・益金 | 費用・損金 | 利益・所得 | 法人税等 | |
---|---|---|---|---|
財務会計 (収益・費用) |
1000万円 | 700万円(①) | 300万円(③) | 90万円(⑤) |
税務会計 (益金・損金) |
1000万円 | 600万円(②) | 400万円(④) | 120万円(⑥) |
さてここでひとつ問題が発生します。
この年は100万円分損金を少なく=所得を大きく計上したので、納税額は30万円増えます。でも損金を計上する年がズレただけなので、翌年以降の納税額は(税率が変わらなければ)どこかで30万円減りますよね。
こうして生じたズレを「一時差異」と呼び、発生したズレは「繰延税金資産」「繰延税金負債」として資産・負債として貸借対照表に計上されます。
この例ですと、将来の税金を減らす割引チケットをゲットしたようなイメージですね。その金額は、当期の利益にカウントすべきでしょう。30万円の「繰延税金資産」が発生するので、30万円分一時差異を⑥から引いて、会計上の税引後利益を計算します。
これがいわゆる「税効果会計」です。
謎の繰越欠損金と永久差異
ソフトバンクグループの8000億円の利益のズレは、この期間で「将来の税金割引チケット(繰延税金資産)」を手に入れた分が計上されたものなんでしょうか。だとすると、それってどんなものなんでしょうか?
ソフトバンクグループの2019年度決算報告書(p263)に気になる項目があります。
こんな大企業にも関わらず「繰越欠損金」があるそうです。
法人税は、所得がゼロ以下(赤字)の場合にマイナス(戻ってくる)にはなりません。その代わり赤字は一定年数まで繰り越して、将来の所得と相殺できます。この「積み上げた赤字分」が、税務会計上の「繰越欠損金」と呼ばれるものですね。
つまり税務会計上、赤字になると税金割引チケット(有効期限付きですけど)が貰えるので、企業会計上は利益になります。
さてそれをどうやってゲットしたのか。差異の原因を見てみると「受取配当金等永久差異」という項目で、法人税等の負担率を36.51%引き下げたと記載があります。
先程の「一時差異」とは異なり「永久差異」は、将来の税金が増える・減ることなく、増えっぱなし・減りっぱなしになるズレです。例えば接待交際費は、企業会計上は費用になりますが、税務会計上は一定範囲内までしか損金にできません。これ、別に翌年以降に取り戻せるわけじゃないですよね?
益金(利益)が永久に減る分があるので、その分所得がガツンと減ってマイナスになりました(④)。その分に相当する税金の金額(⑥)が税金割引チケットになる。という感じです。
収益・益金 | 費用・損金 | 利益・所得 | 法人税等 | |
---|---|---|---|---|
財務会計 (収益・費用) |
1000万円(①) | 700万円 | 300万円(③) | 90万円(⑤) |
税務会計 (益金・損金) |
500万円(②) | 700万円 | ▲200万円(④) | ▲60万円(⑥) |
じゃあこの「受取配当金等永久差異」ってなんなんでしょうね。
買収を使った節税ロジック
本件は複数の人が検証をされていますが、どうやら以前買収したARM社をめぐる資本移動にその答えがありそうです。
2016年、ソフトバンクグループは3.3兆円で半導体メーカー(という言い方が適切かは議論の余地がありそうですが)のARMを買収しました。買収したのは持株会社で、実際に事業を行う事業会社の100%親会社です。
2018年、ARMは保有している事業会社の株式75%分をソフトバンクグループに現物配当の形で渡しました。ここが1つ目のミソで、日本の税法上100%子会社からの配当金は、95%なかったこと(益金不算入)になります。
この金額が、「受取配当金等永久差異」の正体のようですね。
配当金の益金不算入自体は、何もおかしの話ではありません。子会社は子会社で税金を払っていますし、100%子会社なんて殆ど同じ企業みたいなもんなんだから、資金移動しただけで利益にカウントされると苦しい。同一名義人同士での別銀行からの資金移動による入金を「利益」って呼ばれたら困っちゃいますよね。
この段階では、ソフトバンクグループ内部での資本の組み換えにしか過ぎず、同社に利益は有りません(むしろちょびっと損してます)。
いかがわしいのが、その次です。
事業会社を保有することだけが存在価値の持株会社が、75%も株式を放出しちゃったら、当然企業価値はその分だけ減少します。その後ソフトバンクグループは、その大幅に価値の毀損したARM(持株会社)の株式を、立ち上げたSVFに売却(それとも現物出資かな?)します。
売却価格は定かではありませんが、もぬけの殻の会社を買ったときと同額で売るわけにはいかないので、ざっくり75%の価値減少とすれば0.8兆円でしょうか。そうすると2.5兆円の売却損を作り出すことが出来るってわけです。
損をする=税金が減るなので、2.5兆円に法人税の実効税率約30%をかけると、だいたい8000億円くらいになります。例の誤差が、全てこの金額ではないでしょうけども、かなり近い数値ですね。
整理すると
- 有名画家の絵画を展示している美術館を購入
- 絵画を自分の家に移動する
- 自分の持ち物を移動しただけだから税金は取られない
- 当然美術館の価値は大幅に下がる
- つるんでた仲間に「公正価値」で売却し大損こいたと主張する
みたいなイメージ?これってもう節税というかだつz...
それぞれの処理自体は、おかしなことはないはずなのですが、組み合わせるととんでもないコンボ技になってしまう。どう考えてもバグをつくようなやり方にしか思えないが、租税法律主義に基づけばズルいからダメー!とは言いづらい。
政府もさすがにアカンと思ったらしく、直近の税制改正大綱で、禁止の方向性を打ち出しました。丁寧な解説まで書いています。
(出典:「令和2年度税制改正(案)のポイント」(令和2年1月) : 財務省)
とはいえ遡って適用するわけにもいかず、数千億円規模の税収は、さよならバイバイすることになりそうです。このお金があれば保育園、何個つくれたんでしょうね?
今回の例は比較的話題にもなりましたが、ここまでの規模だったということは、案外知られていないような気がします。広く知られれば、流石にみんなイートイン脱税がどうのなんて馬鹿げたことに時間を割いてる場合じゃないことに気が付き、もっと大きな騒ぎになっているはずでしょう。
経営者の皆様には、真面目に確定申告をしている人たちの前でも、きちんと胸を張れるように申告をしていただきたい。そう思う次第であります。
ではでは、今日はこのへんで。