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ネットWatch

自作音源を販売する為の音楽系アグリゲータまとめ(2009.2)

先日お伝えした通り、音極道名義のiTS配信が無事始まった訳ですが、配信の際どのアグリゲータを選択するか、というのが自分にとっても非常に悩みどころだったので、エントリとしてまとめておきます。 “iTunesStoreに曲を配信できる”アグリゲータ、というのを一つの目安にしてピックアップします。

[国内]

  1. BounDEE

    近年台頭著しいアグリゲータらしく、サンレコ2009年2月号の特集記事でもしょっぱなに紹介されてました。WEBサイトを見る限り、アグリゲータというより殆ど『レーベル』化してる印象。スペースシャワーTV系列の資金力をバックに、米国大手アグリゲータであるIODAと業務提携するなど大掛かりなビジネス展開。
    BounDEE取締役である福岡智彦氏のサンレコインタビューを読んでも、意図的に「レーベル」的役割を担っていこうという理念が読み取れます。
    国内アグリゲータとしてはおそらく一番充実した流通ルートを持っていると思われます。特にIODAとの提携によって、海外へのリーチはヘタなメジャーレーベルより強いでしょう。そこが最大の魅力。短所は、良くも悪くも発想が既存の音楽レーベルに近いところ。自分はそれが理由で選択しませんでした。配信時の利益配分率や流通ルート等、ミュージシャンにとっては情報開示が少なすぎるのも気になるところです。でも多くのプロを目指すミュージシャンにとっては超有力な選択肢の一つでしょう。


  2. viBirth

    2007年11月スタートのアグリゲータですが、2008年7月にMySpace公式ストアとしてリニューアルし、俄然注目を浴びるようになりました。
    アーティスト登録すると、月額¥3150で30GBまで曲ファイルをUP可能。viBirthが確保する流通ルートから配信したいサイトを選ぶと審査手続きをviBirthで代行。晴れて審査が通れば販売登録申請や権利処理、支払等すべてviBirthが代行するというシステム。ライツスケールが運営パートナーとなってます。運営会社は(株)ブレイブで、株式の60%を(株)フェイスが持ってますが、タイトーやスクウェアエニックスが資本参加しているあたりが興味深いです。販売サイトはiTunesStoreのほか、Napster、GIGA MUSICフル等。
    やはりなんといってもMySpace公式というのが最大の強みでしょうか。iTSの場合で利益配分56%というのも良心的な部類と思います。月額¥3,150を高いと見るか安いと見るかですが、1年で¥37,800、一方でリリースする楽曲数の制限が無いので、多数の曲を配信する程、1曲あたりのコストは下がります。年間30曲リリースした場合、1曲あたりのコストは年間¥1,260で、CDBabyまでとは言わないまでも、割高感はかなり軽減されます。


  3. Mind Peace

    最終的に音極道の楽曲配信に選んだアグリゲータです。国内アグリゲータでは老舗の部類に入ると思います。料金は一括プランと月額プランがあり、各プランでも内容によってさまざまなメニューになってますが、最安値のプランだと1曲月額¥150、年間¥1800で全提携サイトからの有料配信が可能です。一括だとライトS1というプランが年額¥15,000。このプランだと著作権管理はアーティスト自身となります。私が選択したのは、ライトL1という1年契約¥38,000で、提携先サイトの有料配信に加え、Amazonの陳列・発送までフォローしてくれる内容です。著作権管理も追加料金無しで代行してくれます。提携先販売サイトは、iTunesStore(Yahoo Japan Musicにもインデクスされます)の他、HMV★うたフル、CD販売先としてAmazonとなります。
    年額¥38,000は1年スパンで見るとviBirthとほぼ同額。viBirthでは楽曲数に制限なし(30GBの制限のみ)で、Mind Peaceは上限30曲。利益配分は卸値の90%(販売価格では無い)。こちらも良心的な配分と思います。
    正直viBirthとMind Peaceはかなり悩みました。結局Mind Peaceにした理由は大きく2つ。まず、携帯販売サイトであるHMV Mobileが3キャリア公式サイトであること。売れる売れないは別としても、日本でもっとも市場規模の大きい「着うた」市場でのマーケティングはどうしてもやっておきたかったというのがあって、提携先がDoCoMoに偏っているviBirthよりもMind Peaceの方がその意味で勝っていました。そして2つ目の理由は、自分がBounDEEを候補から外したのと関連するのですが、今後、様々な販売形態を試していこうとした時に、場合によっては無理なお願いをするかもしれない、そういった時に個別に相談できる関係を持ちたい、密なコミュニケーションが期待できるところが良いというのがあって、大資本がバックにない、インディペンデントな感じがCDBabyを彷彿とさせるMind Peaceになんとなく期待させるものがあったというのが決め手でした。そして(今のところ)十分期待どおりの対応をしていただいており、自分の判断は間違ってなかったと感じてます。
    ただ注意したいのは、原盤権を自分とMind Peaceとで共有する契約(ただし比率は99:1)になる点。著作権管理を代行してもらうと著作権も共有(99:1)という形になります。また、代行の場合は管理委託先はeライセンスに限定される点も注意。人によってはこれらの条件でNGという場合もあるでしょう。自分も悩みましたが、原盤権に関しては、アグリゲータと「密なコミュニケーション」を求める上ではむしろトレードオフとして必要かなと割り切りました。著作権管理については、とりあえず1stリリースがパブリックドメインな楽曲だったので良いとしても、今後に関しては保留です。場合によっては代行委託せずに著作権管理団体に直で依頼する道も検討中です。


  4. recommuni

    日本の音楽系SNSの草分け的存在。以前は完全招待性でしたが久々にアクセスしてみると普通に自分で登録できました。ちょっとまだ詳細を把握できてませんが、前述したサンレコ2009年2月号の記事には、レコミュニ内でのダウンロード販売に留まらず、「iTunesStoreや着うた&着うたフルサイトへのディストリビューションを委託することもできる」、との記述があります。


[海外]

海外のアグリゲータに関しては、既に先達の素晴らしいレポート記事が多数ありますので、それらの記事も併せてご紹介していきます。

  1. CDBaby

    まさに”WEBにおける個人音楽販売”のムーブメントを作りだした『源流』と言える超有名サイト。リンクは日本向けの窓口サイトです。CD販売がメインですが、iTunesStore等のダウンロード配信にも対応。詳しくは以下のリンク先の秀逸なレポートを読むのが一番わかりやすいと思います。
    iTunes Store デビューへの道(完結編)
    また、CDBabyという素晴らしいサイトがなぜ生まれたかが以下を読むとわかります。
    独立系ミュージシャンのサバイバルを助ける本物の漢


  2. TuneCore

    ダウンロード販売のみを考えるならこちらも有力な選択肢。ややコスト高という指摘もありますが、ロイヤリティが100%還元されるので販売数を多く見込めるアーティストであれば十分に相殺できるでしょう。TuneCoreに関してはtakeruiさんのエントリが参考になります。
    iTunesストアデビューだけならTuneCoreの方がよいんじゃないか。
    CDBabyかTuneCoreか – その損益分岐点


  3. IODA

    先述したBounDEEの提携先、サンフランシスコのアグリゲータ。直接IODAを利用する機会はあまり無い気もしますが、サイトを見るとそのポテンシャルが想像できます。BounDEE経由でこれらのコネクションが有効に機能するとすれば、かなりの魅力です。特にOur Partnersのページは、海外配信サイトのアーカイブとしても利用できそうな充実ぶりです。


  4. The Orchard

    米国の大手アグリゲータの1つですが、情報が少なすぎるので日本からOrchardを利用するメリット等はちょっと不明です。Tokyo Officeがある様な記述が見受けられますが詳細はちょっと不明です。すみません。


以上、ざっと名の知れたアグリゲータはとりあえずピックアップしてみました。おそらく2年後、3年後にはまた状況が大きく変わっているのかも知れません。
音極道としては、Mind Peaceとの1年契約を中心に、状況によってはCDBabyを併用した配信を模索していく予定です。

最後に、HMV★うたフルでの配信が無事始まったのでこの場を借りてご報告します!以下のQRコードからアーティスト検索結果画面に直接飛べます。
HMV検索ページQR

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著作権

YouTubeで見る “J-POP王道コード進行” の歴史

このエントリーは、Music Hacks第1回目のエントリー、JPOPサウンドの核心部分が、実は1つのコード進行で出来ていた、という話のフォローエントリーです。Music hackの中で取り上げたすべての楽曲について、YouTubeで原曲を見てもらえる様にリスト化しよう、という意図です。
ニコニコ動画のアカウントが無くてMusic Hacksの方の動画が見れない方は、お手数ですが、この際ですからアカウント取ってください。無料ですので。
とりあえず取り上げた順番にYouTube貼っていきます。一言コメント付き。


瞳をとじて [平井堅] (2004)

非常にオーソドックスな「王道進行」かつ「比較的最近の大ヒット曲」ということで冒頭にもってきました。ニコニコの年齢層を考慮しても、「瞳をとじて」なら覚えてるでしょってことで。SPEEDあたりはもうリアルに知らない若い子とかいそうでゾっとします(笑)

♪瞳をとじて


オリビアを聴きながら [杏里] (1978)

チューリップの財津和夫とかも「王道進行」っぽいコードを使ってて、古さで言えばそちらの方が古かったのですがちょっと変則気味だったので、オーソドックスな「オリビア」の方を取り上げました。

♪オリビアを聴きながら


いとしのエリー [S.A.S] (1979)

“勝手にシンドバット””気分次第で責めないで”と続いたことで定着しつつあった、コミックバンド的な評価を一変させた曲。そういう意味でサザンにとっても最初の勝負どころだったんだよなあ。1979年の時点でそういう大切な曲に王道進行もってくるあたりが桑田の非凡さ。

♪いとしのエリー


悲しい色やね [上田正樹] (1982)

この曲は全然JPOP臭がしないです。その秘密はメロディラインにあります。佳作だと思います。

♪悲しい色やね


シーズンインザサン [TUBE] (1986)

上田正樹の逆で、TUBEってすごいJPOPっぽい。むだにJPOPっぽい。なんだろうこの感覚。

♪シーズンインザサン


世界でいちばん熱い夏 [プリンセス・プリンセス] (1989)

日本のポップス史の中で一番「JPOP」を体現したのがプリプリの様な気がする。JPOPの教科書的なソングライティング。サビ前のBパターンも王道進行。

♪世界でいちばん熱い夏


ロビンソン [スピッツ] (1995)

この曲も全然JPOP臭がしない。そして”悲しい色やね”と全く同じ工夫がメロディラインに施されてるのが興味深い。

♪ロビンソン


White Love [SPEED] (1997)

この曲はSPEEDのシングルで一番売れた曲。そういう曲に王道進行が使われてるパターンってすごく多いんです。

♪White Love


LOVEマシーン [モーニング娘。] (1999)

データ調べてませんがこれもモーニング娘。で一番売れた曲、のはず。
この曲のコード進行は王道進行としては若干変則的で、冒頭からⅣ→Ⅴと、7th音が無い。

♪LOVEマシーン


Everything [MISIA] (2000)

王道進行をサビの後半にもってきているパターン。この曲は富田恵一のアレンジ含め、すべてが「王道」的な感じ。

♪Everything


Fragile[E.L.T] (2001)

王道進行をひたすら前面に押し出した平凡な曲。これを「いい曲」と感じちゃうリスナーがいるのは理解できるんだけど、作り手としては批判的にならざるを得ません。

♪Fragile


さくら[ケツメイシ] (2005)

この曲も一般の人達にはすごくウケがいいし、それは理解できる。
でも王道進行にまんまラップを乗せた安直さは、ある意味JPOPを10年遅らせたとも言える。聴いててすごく複雑な気分になる曲。

♪さくら


Can’t Take My Eyes Off You[Boys Town Gang] (1982)

この曲とGive Me Up、2曲ともコード進行としては冒頭Dm9。このあたりはJAZZのⅡ→Ⅴからの流れという意味合いの方が強いのかも。それにしても気持がいい曲です。

♪Can’t Take My Eyes Off You


Give Me Up[Michael Fortunati] (1986)

この曲を、特に若い年齢層の人がどれくらい知っているのかすごく興味がある。

♪Give Me Up


I Should Be So Lucky[Kylie Minogue] (1988)

今のカイリーミノーグから比べると別人の様なアイドル路線。逆に言うとそれだけサウンド的に進化を遂げた今のカイリーミノーグと、いまだにmihimaruGTとかが20年前のI Should Be So Lucky をカバーしちゃう日本の状況。要するに20年遅れてる。

♪I Should Be So Lucky


Together Forever [Rick Astley] (1988)

この曲はオッサンホイホイかなあ。今の人は知らなそうだなあ。どうなんだろう?

♪Together Forever


大迷惑 [ユニコーン] (1989)

超大胆なアレンジとオーケストレーションのお陰で、王道進行が隠し味くらいにしか感じない。才能って素晴らしい。動画の方で敢えて弾かなかったのは、ピアノじゃどう考えてもこの曲の素晴らしさを伝えられないから。

♪大迷惑


だいすき [岡村靖幸] (1988)

この曲もメロディラインが個性的なんで王道進行をほとんど意識させない。これもピアノではメロディラインの味わいを伝えられないと思って弾きませんでした。

♪だいすき


夢のうた [幸田來未] (2006)

エイベックスのここ最近の手抜きっぷりはなんなんだろう?バラードとか特に。逆にアーティストがかわいそうになる。

♪夢のうた


偶然の確率 [GIRL NEXT DOOR] (2008)

誰かが、”avexで「社運をかけた」ってフラグだよね”って言っててまったくだと思った。

♪偶然の確率


Drive Away [GIRL NEXT DOOR] (2008)

デビュー曲もビックリしたけど、これはもっとビックリした。

♪Drive Away


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WEB

『WEBミュージシャン』宣言

ここしばらく開店休業状態だった当ブログですが、更新を再開します。本家サイトの『音極道』の方も近々リニューアルオープンします。

で、いろいろ思うところがあり、唐突ですが本日より本格的に「生業として」音楽活動をスタートしようと思います。活動名義はサイト名である『音極道』をそのまま使用することとしました。
なお、今後自らの音楽活動に関するエントリーは新ブログ「音極道 Music Hacks」の方にリリースしていきますのでこちらも併せてよろしくお願いします。

以下、活動指針をニコニコ宣言に倣って宣言してみます。


第一宣言 一切の音楽出版社、音楽レーベル等に所属しません

音楽制作コストが劇的に低下し、WEBを利用したプロモーションもある程度機能する様になってきた昨今、もはや「音楽出版社」「音楽レーベル」の存在意義は失われつつあります。
「ポスト・レーベル」時代のモデルケースとなる様、制作・プロモーション・販売に至るまでを各種WEBサービス等を利用しながら独力で行います。


第二宣言 ミュージシャンの新しいビジネスモデルを模索し、先駆となることを目指します

2007年10月、リスナーが自由に価格設定してmp3ファイルをダウンロードできるという画期的試みでレディオヘッドが新作をリリースしたのは記憶に新しいところです。その後もナインインチネイルズやシャーラタンズなどの有名アーティスト達がさらに踏み込んだ形でこの「革命路線」を継承しています。
またインディーズアーティストにおいても、梅田望夫氏の『ウェブ時代をゆく』でも取り上げられたJonathan Coultonのような、WEBをフル活用した新しいタイプのミュージシャンが生まれ始めています。
このような、新しい音楽ビジネスモデルの「日本におけるモデルケース」となれる様、独自の試みも織り交ぜながら、試行錯誤していきます。


第三宣言 ミュージシャンの新しい著作権行使のあり方について模索し、先駆となることを目指します

著作権に関しては、ここ最近特に活発な議論がなされており、私自身そういった議論にはおおいに興味があります。
しかしながら議論には「限界」があります。結局、著作権のあり方を決定するのは議論ではなく著作権「行使」の場面であり、著作権利者の考え方一つで法律に関わらず社会の現実は変わってしまうからです。
例えば(あくまで例えばです)、「ダウンロード違法化」が著作権法において現実のものになってしまったとしても、すべての著作権者がすべての作品のネット配信を認めた瞬間、事実上「違法ダウンロード」というものはこの世に存在しなくなるわけです。
私自身が著作「権利者」となってその権利を様々な形で行使することにより、「新しい著作権のあり方」についてのモデルケースとして、様々な実証データを提供していきたいと思います。


第四宣言 ”Music Hacker”を目指します

旧『音極道』本家サイトには『模倣道(パクリ道)』というコンテンツがありました。
毎回ある楽曲を題材として、その内部構造を徹底的に明らかにした上でそれを模倣した曲を発表していく、という試みでした。
ある日、「Music Hack」という言葉が唐突に頭に浮かんだとき、「ああ、”模倣道”で自分がやりたかったことって音楽を”Hack”することだったんだな」と悟りました。
ハッカーと呼ばれる人々にとっては、「先人のコードを読むこと」「自らがコードを書くこと」が表裏一体でありフラットだという感覚があるのではないかと思うのです。
私が音楽でやりたいこともまさにそれで、「先人の楽曲を読み解く」フェーズがすでに単なるアナリーゼではなく「創造」だという感覚。
例えば、菊池成孔などはまさに尊敬すべき「Music Hacker」であり、彼(と大谷能生)の著作である『東京大学のアルバートアイラー』『憂鬱と官能を教える学校』
といった作品群そのものが「Hack」であり「コンテンツ」であり「創造」であると思うわけです。
『音極道』は今後、極めて異端で独自性の強い音楽活動を展開していくと思われますが、それらはすべて「Music Hack」という基本コンセプトの元に展開していきます。

2008年 9月16日

J2 a.k.a. 音極道


『WEBミュージシャン』としての記念すべき最初のリリースは「バッハ イタリア協奏曲 BWV 971」のピアノソロです。
最終目標は、「全楽章の演奏を自ら録音・マスタリングしてiTunes および着うたサイトから有料配信する」ことですが、プロモーションの一環として練習風景をニコニコ動画にUPしてます。今回の演奏に関して、「グレングールドと同じテンポで弾く」ことを自ら課した裏テーマとしています。
なぜいきなりバッハなのか?グールドと同じテンポで弾くことに意味があるのか?などの詳しい経緯についてはこちらのエントリーにて解説していますので興味のある方はぜひそちらを読んで頂ければと思います。

あらためて「音楽家」として、末永く活動していきたいと思っていますので今後とも音極道をよろしくお願いします。

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ネットWatch

「がくっぽいど」における三浦建太郎氏の対応は批判されて然るべき

初音ミクと同じ、YAMAHAのVOCALOID技術を採用した合成音声ソフト「がくっぽいど」におけるキャラクタ「神威がくぽ」のイラストを三浦建太郎氏が無償で手がけた。
(詳細については、ITmediaの記事を参照。)
この件について、有村悠氏の批判エントリー 「プロは無償で商品を作ってはならない」 が物議を醸している様だ。
私個人としては、「今回の」三浦建太郎氏の一連の対応には、おおいに問題があると思っている。そういう意味で、有村氏の見解を全面的に支持する。
しかしながら、有村氏のエントリーが妙に誤解を招きやすいというか、揚げ足を取られやすいというか、かゆいところに手が届いていない印象を持ってしまったので、少なくとも私が何故「三浦氏に問題がある」と考えるか、という点について言及しておきたい衝動に駆られた。その点だけ端的に述べておきたい。
まず、今回のイラスト無償奉仕のニュースを聞いて真っ先に感じた違和感は、
「ニコニコ動画の世界には無償で」という理由による無償奉仕にも関わらず、ニワンゴ及びニコニコ動画ユーザには1円たりとも恩恵が無い
という点だ。
結局その恩恵をこうむったのは本来対価を支払うはずだった発売元のインターネット社だけである。
それどころか、インターネット社は「三浦氏の無償奉仕」を美談として積極的に喧伝し、イメージアップのツールとして利用しているフシも見受けられる。イメージアップと言えば聞こえがいいが、正直言ってこれは今回の商品のメインターゲットであるニコニコユーザに対する徹底した媚びへつらいである。企業戦略としてはある意味当然だがちょっとやり方があざとすぎる。そして前述した様に実際にはニコニコユーザになんらメリットはもたらしていない。
三浦氏がどこまで自覚的であったのか、単に純粋な思いを発売元に利用されただけなのかは不明だが、どちらにしてもプロとしては脇が甘すぎるし、有村氏が指摘するような”悪しき前例”として今後さまざまな場面で利用されてしまう可能性も高い。
三浦氏が本当にニコニコ動画&ユーザに貢献したいと思うならば、例えばあらかじめキャラクタの全面二次利用許諾を宣言してしまうとか、いくらでも他にやりようはあったはずだ。逆に三浦氏がこの仕事の対価を受け取ったところで、それを問題視したユーザがいたとは思えない。
そもそも「自分はニコ厨だからニコニコ動画には無償で」という発想は、理由としては極めて感情的、端的に言えば「アマチュアリズム」である。もちろんそれは悪いことではない。むしろ人間味があって良いことかもしれない。
しかし、プロが仕事の場に「アマチュアリズム」を持ち込む時は慎重でなければならない。最低限のルールとして、それを公言しては(もしくは公言を許しては)アウトではないか。
定食屋のオヤジが知り合いにタダでメシを食わせたとしても、大勢の客の前で「タダでいいよ」と声高には叫ばないだろう。誰だってそのくらいのデリカシーはあるはずだ。三浦氏にだって、他の客は対価を払っているのだろう。そこに想いが至らないのであれば、やはりプロとしては軽率に過ぎる。
有村氏のエントリーに関して言えば、タイトルが「プロは無償で作品を作ってはならない」ではなく、「プロは無償で商品を作ってはならない」なところがポイントかな、と思う。
プロだって「作品」を無償で配布するのはよくある事だ。しかし、「商品」を無償で、とは普通言わない。そのあたりで今回の違和感をうまく言い表していると個人的には思った。

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WEB

JASRAC改革の理想形

4月23日、 公正取引委員会が独占禁止法の疑いで日本音楽著作権協会(JASRAC)に立ち入り検査したというニュースはちょっとしたサプライズだった。
そして、案の定というか、多くのブログやニュースサイトがこの件に言及している。
しかし、いつもJASRAC関連の話題になると、どうも話が散漫になってしまう印象があって煮えきれない。著作権や音楽ビジネスに対する理解レベルがバラバラなまま発言者ばかりが増えてきて、結局議論が噛み合わないで収束するというパターンが多すぎる。
そこで、このエントリーではちょっと視点を変えて、JASRACの現状を踏まえた上で、じゃあどのように改革するのがベストだろうか、という方向から、「JASRAC改革の理想形」について考察してみたいと思う。
JASRACがまるですべての著作権問題の元凶であるかのごとく忌み嫌われる様にになって久しいが、JASRAC批判のポイントは大きく分けて2つある。1つは、組織としての「不透明性」であり、もう1つは「権利行使のあり方」だ。
まずはそれぞれについて、具体的な批判項目を列挙してみよう。
前者(不透明性)における批判は、

  • 年間一千億超の著作権使用料を徴収しておきながら(特に配分における)開示情報が少なすぎる
  • 他の公益法人に比べ組織役員の報酬が突出して高額
  • 天下りの温床である
  • まともなガバナンスが働いているとは思えない非民主的な役員選出方法

などなど。
そして、後者(権利行使のあり方)については、

  • (主に生演奏などを提供する)零細飲食店に対する強行な取立て手法
  • 利用料率・徴収金額の妥当性
  • (原著作権者からも利用料を徴収してしまう、などの)柔軟性に欠ける運用

といったところだろうか。
逆の言い方をすると、組織としての「透明性の向上」および「権利行使手法の見直し」が、「理想形」に近づく道だと言い換える事ができる。
このうち、「透明性の向上」については、程度の差こそあれ、大筋ではコンセンサスを得られやすいだろう。
問題は、「権利行使手法の見直し」の方だ。これはそう簡単に結論の出る問題ではない。
実際問題として、今のJASRACのやり方に満足している著作権(信託)者もいるだろう。現行の利用料率では高すぎると思っている人もいる。反対にもっと高くして欲しいと考えている人もいるはずだ。YouTubeに怒り心頭の著作権者もいれば、好意的に見ている人もいる。利用者サイドも然り。零細飲食店でも、もう少し請求額が下がれば喜んで払うという店主もたくさんいるはずだ。要するに考え方が多様化している。
であれば、その多様性を吸収できるシステムこそが「理想に近い」のではないか。結論を出す必要はない。このポイントにこそ市場原理を働かせる意義がある。
もう1つ忘れてならないのは、現行のJASRACが決して「デメリットの塊」ではないという事だ。有効に機能している部分もある。特に今回立ち入り検査の要因となった「包括的利用許諾契約」は有効に機能している部分の1つだと考えている。
もちろん現行の「包括契約」に改善すべき点はある。だからこそ公取委は問題視しているわけで、それは理解できる。
しかし、利用許諾手続きの煩雑化は、著作物利用のモチベーション低下を招き、ひいてはマーケット全体を縮小させる。
実際、海外でも多くの国が放送利用における包括契約を採用している様だ。細かい修正は必要でも、「許諾手続きの簡略化」という考え方自体は間違っていない。
以上の点をすべて踏まえた上で、以下はJASRAC改革の私案。
結論から言ってしまうと、 池田信夫氏が提唱している案に極めて近い。JASRACの分割(民営化?)だ。郵政民営化をヒントにしている点も同じ。
ただ、池田氏のエントリーだけでは中身についての詳細が判りかねるので、とりあえず自案について詳しく解説してみる。
 
newjasrac.gif
 
まず、公益法人としての現行JASRACは、そのインフラだけをそっくり残して「窓口業務」に専念する。逆に言うと、信託業務をすべて別会社に移行する。つまり、JASRACに直接著作物を信託する著作者はいなくなる。
まさに郵便局のインフラを窓口会社として残した郵政民営化と同じ図式。そして信託業務をさらに三社(A,B,C)に分割する。このうち、信託会社Cは、海外の著作物を専門に扱い、信託会社A,Bは異なる運用ポリシーを掲げて(例えば信託会社Aは大手出版社向け、信託会社Bはインディーズをメインターゲットとして安価な価格設定で流通促進に重きを置く、など)徴収する利用料率などの策定は全て各信託会社で独自に策定する。現行のJASRAC信託者は、信託会社A、Bいずれか(もしくはJRCやイーライセンスなどの既存民間会社のいずれか)とあらためて信託契約を結ぶ。信託会社A,B,Cは窓口業務を新生JASRACへ委託する。新生JASRACは各信託会社の依頼に応じて窓口業務を行う。
ここで重要なポイントが2つあって、1つは、既存の民間管理会社であるJRCやイーライセンスなども、新生JASRACに窓口業務を委託できるようにする事。もう1つは、新生JASRACは各種放送メディアとの間でこれまでとほぼ同等の包括的利用許諾契約を可能とする事だ。
こうする事によって、従来のJASRAC(信託業務)と民間管理会社が真にフラットな競合関係になり、また複数の信託会社を束ねた形での包括契約は必然的に放送メディア側により詳細な楽曲利用履歴の提出を義務付ける事につながる。結果的に著作権者への使用料配分の透明性は向上し、著作権者から見れば多種多様な運用ポリシーの管理会社からより自分の意向に合った会社を選択する事ができる。
まだ、著作権等管理事業法が改正される前(つまり、文字通りJASRACが独占事業だった頃)に行われた 坂本龍一のインタビュー記事がある。その中でのこの発言が、示唆に富んでいる。以下引用。

まずチョイスがあるべきです。レストランは二軒以上欲しい。メニューもいろいろ選びたい。ネット上だけの管理会社もあっていいでしょう。そこに競争が生まれます。実社会と同じです。仲介業務だけ聖域である理由はない。

このインタビューの後、著作権等管理事業法が改正され、民間の管理会社が複数参入し、表面上は「レストラン」が増えた。しかし現実には いまだにJASRACの徴収額シェアは全体の95%を超えると言われる。現実にはそこに二軒目のレストランはまだ無い。そういう現状が公取委立ち入りの背景にある。
一方で、JASRAC批判記事として有名な 週刊ダイヤモンド2005年9.17号の記事 にはこんな記述がある。

「全国の店舗の利用状況を調査して使用料を徴収したり、放送で使われる楽曲を管理するには膨大な手間がかかることから、「民間会社で管理することは不可能」(佐賀芳春・ダイキサウンド取締役)だ。結局、著作権者にしてみれば、全国に徴収網を張り巡らせるジャスラックに丸ごと管理を任せたほうが手っ取り早いため、事実上の独占状態は容易には崩れない」。

 

上記2つの引用記事が私案のヒントとなった。

この様な改革が、どの程度実現可能性があるのかは、あまり深く考えてはいない。多分、ツッコミどころも多々あるだろう。
しかし、細かい事は抜きにして目指すべきゴールをイメージするのも無駄ではないと思う。

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音楽

手塚治虫の「全作品」が合法的に二次利用可能という画期的試みもスルーされまくりという日本の悲劇

手塚治虫のあらゆる創作物を、期間限定で合法的に二次利用可能とし、広く一般から作品を募るという超画期的な試みが「人知れず」行われている。
経済産業省の委託により、日本動画協会と映像産業振興機構が共同で立ち上げた「オープンポスト(OpenPost)」というコンテンツ投稿サイトプロジェクトだ。
この試みが本来社会に与えるべきインパクトのデカさが、世間に全くと言っていいほど伝わってない。
 ダウンロード違法化やダビング10といった問題も確かに重要だが、それよりもこの素晴らしい試みがいまだに殆ど認知されていないという状況の方が個人的に危機感を感じる。コンテンツは「生み出して」ナンボだ。コンテンツ立国を目指すならそこが肝にならなければおかしい。
なぜこれほど認知されていないかという原因は明白。
基本的な告知宣伝不足に加え、その内容が余りに「判りづらい」のだ。もうワザとやってるのかと思う位。
まずは、肝心の投稿サイト「OpenPost」TOPページを見てみる。
http://openpost.jp/
「みんなの投稿コミュニティサイト Open Post.JP」
ページタイトルからいきなり萎える。
何のサイトかさっぱり判らない。ページ全体を見ても、サイトディレクションが根本的にずれてる。手塚プロダクションがあらゆる手塚作品の著作権をオープンにしたのは、ど素人にアトムのイラストを描かせる為ではあるまい。
サイト制作サイドがこの企画の意義を理解できていないとしか思えない。
OpenPostの概要を知るには、むしろNHK解説委員室ブログの方が判りやすいので興味のある方はこちらを参照した方が良い。
さて、OpenPostがなぜ「超画期的」なのかというと、公表場所と期間が限定されているとは言え、「手塚治虫の全作品におけるキャラクター、ストーリー、ロゴデザイン、美術設定などを自由に二次利用できる」という点だ。鉄腕アトム限定とかブラックジャック限定ならそれほど驚かない。
ところが、本サイトを含め他の紹介記事や告知を見ても、実は「全作品OK」とは一言も書いていない
それどころか二次利用可能な素材は限定されていると誤解されかねない表現が多々ある。
例えば、サイト上の「作品投稿の流れ」という部分の第2項にこう記述されている。

「②素材データベースから素材をダウンロードして作品を投稿」

 これを読むと、素材データベースに提供されているもののみ利用可能なのかと思ってしまう。
そして募集要項第2項には

サイト内にて提供されたテーマ作家の作品(キャラクター、ストーリー、ロゴデザイン、美術デザインなど)を活用したオリジナルの動画映像、マンガ、イラスト、脚本(小説)、商業デザイン、キャラクターデザイン。

 
と明記してあって、これも一読するとサイト内の素材データベースから入手可能なものに限定されるのかとも読める。
しかし実際には、「サイト内にて提供された」は「作品」ではなく「テーマ作家」にかかっている様だ。
そもそも素材DBからは、ストーリーやロゴデザインデータが一切入手できない。また素材DBの説明文でも「参考資料に利用して」という記述があるし、何より素材DBに存在しないキャラクタやストーリーが普通に使用されている。
以上の点から事実上「全作品二次利用OK」と判断できる。
結局、最も重要な部分が全く明記されていない為に、結果としてユーザの混乱を招き投稿意欲を刺激できていない。これは宣伝告知上の致命的ミスだと思う。
現状ではこのサイトが盛り上がってるとはお世辞にも言いがたい。
しかしこの素晴らしい試みが惨憺たる状況のままで終わって欲しくない。うまくすると「良質な二次創作」がいかに「創造力と才能」を要求されるか、を世に知ってもらうチャンスでもある。
面白い「二次創作物」を創ることは、ある意味一次創作より難しい。
浦沢直樹の「PLUTO」のような大胆なリメイク作品を独自に創作してOpenPost上で発表する事も可能なのだ。とりあえずOpenPostが存続する3月末までに、そんな展開がこれから起こることを期待したい。

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考察

「ブックマークレイプ」の恐怖

「A君(仮名)」はIT系の専門学校に通うごく普通の青年だった。
どちらかといえばおとなしく、友人も多いほうではなかった。
「A君」はかなりヘビーなネットユーザーで、学校に行っている以外の時間はほとんどネットを徘徊していた。
彼が「はてなブックマーク」を使い始めたのは、約2年前。
典型的なネガティブブックマーカーで、彼のブックマークは「これはひどい」「死ねばいいのに」といったタグで埋まっていた。
「A君」のコメントは口汚いわりに、切れ味とか小気味よさに欠けていた。
どこかズレていて、読むものに「不快感」だけを与えるようなタイプ。
2ちゃんねらー的価値観をひきずっているのが垣間見えるというのもあって、はてブ界隈ではそのネガティブコメントもスルーされる事が殆どだった。正直言って誰にも注目されていなかった。
それが「A君」を油断させていたのかもしれない。「どうせ誰にも注目されていない」という思いが彼の言動を大胆にさせていた。
「A君」にとって、はてなブックマークはちょっとしたストレス発散の場所であった。
ある日、いつものように「はてなブックマーク」のトップページにアクセスした「A君」は、しばし呆然とし言葉を失った。
「人気エントリー」のトップには、昨日まで無かったURLが凄い勢いでブックマークを伸ばしていた。
「はてなブックマーク-●●●のブックマーク」 http://b.hatena.ne.jp/●●●
●●●の部分には、「A君」の使用するidが記されていた。
「A君」のブックマークページが凄い勢いでメタブクマされ、午後1時の段階で200ユーザを超えていたのだ。
「なんなのこれ… 意味わかんない….. 」
そうつぶやきながら、「A君」は強烈な不安感を抱きつつ、恐る恐るブクマコメントに目をやった。
「この人はいつもこんな感じなんですね」
「頭悪すぎ」
「タグクラウドがこれほどシンプルな人も珍しいwww」
案の定、あざけりや嘲笑のコメントが並ぶ。
しかし、なぜこんなことになっているのだろう?誰か著名なブロガーがこのブックマークを晒したのだろうか?
完全にパニックに陥りながらも、「A君」は自らブックマークして、そのコメントで懇願した。
「意味がわかりません。不快なら謝ります。やめてください!」
しかし、凄い勢いで増えていくブクマコメントの山の中にその1行は空しく埋もれていく。
「A君」は自ら「スター」bstar.gifを連打して自分のコメントを目立たせようと試みるがブクマの勢いは衰えない。
ブックマークページの設定をプライベートに変更してもお構い無しにブックマークは数を伸ばしていく。
2時間ほど抵抗を試みた「A君」だったが、憔悴しきった彼は程なく「はてな」を退会した。
その後、「A君」が「はてな」に姿を現すことは2度と無かった。
「A君」のid消滅後はさすがにブックマークは勢いを失ったが、結局600を超えるユーザにブックマークされた彼のブックマークページは、その日の人気エントリー断トツの1位になってしまった。
パニックに陥った「A君」は気がついていなかったが、実際のところブクマコメントの内容は、100ユーザを超えたあたりから微妙に変化を見せていた。
最初の100ユーザまでは確かに嘲笑や罵詈雑言が殆どだったが、それ以降はむしろ
「なんでこれが人気エントリーなんだ?」
と、この現象自体を訝る声や、
「DQNかもしれないが、ここまで晒されるとむしろ同情。本人も謝ってるじゃん」
といった同情論の方がむしろ多かった。
いずれにしても、そういった興味本位や同情ブクマも含めて、ブックマーク数は600を超えてしまった。
この「事件」は、一言で言えば「ブックマーク炎上」で済んでしまうのかもしれないが、「メタブックマーク」の持つコミュニケーションの非対象性や残酷さを浮き彫りにした。
通常のブログ炎上には必ず「きっかけ」がある。具体的には、何らかの意見の表明や失言、コメント欄での酷い対応がトリガーになる。
そして、ブログ炎上であれば、コメント欄の閉鎖やエントリそのものの削除など、ブログ主の抵抗手段はある。別エントリーで反論することも可能だ。
しかし、ブックマーク炎上、特にこの事件の様な「メタブックマーク」炎上だと、殆ど効果的な抵抗手段がない。被害者である「A君」には、「退会」以外ブックマークを止める手立ては皆無だった。ただひたすら耐えるしかなかった。
そもそもメタブックマークとは、「ブックマーク」という素材を1段上から見下ろして俯瞰する性質を持っている。当事者とのコミュニケーション自体を拒否するスタイルとも言える。
あるブログが、この事件を「ブックマークレイプ」と称し、「炎上」の残酷性、コミュニケーションの不在が増幅された醜悪な出来事だったと批判した。
このブログ記事は多くの共感を集め、「ブックマークレイプ」という呼称が多く使われるようになった。
この「ブックマークレイプ」事件は様々な余波をネット上に残した。
まず、気に入らない相手がいるとその人のブックマークページをメタブクマして罵倒する、というパターンが流行し、頻発した。そのいくつかは、小規模ながらも騒動に発展した。
一方で、俗に言う「アルファブロガー」の面々は、最初の「ブックマークレイプ」事件がなぜ起きたのかという点に興味を持った。
しかし、その点については調べれば調べるほど謎が深まった。
事件前に「A君」のブックマークページを晒したブログ記事は皆無だったし、2ちゃんねるや大手ニュースサイトで取り上げられた形跡も皆無だった。
いったい何がトリガーになったのか、誰にも判らなかった。
その疑問に対する答えは、突然解明された。それも、極めてショッキングな形で。
”例の事件の真相”
と題された動画がYouTubeにアップされたのは、事件からちょうど1週間後のことだった。
その動画には、痩せ型の男が写っていた。彼は自分を「X(エックス)」と名乗った。
「X」は、「ブックマークレイプを起こしたのは自分です」と語りだした。
「X」は事件について淡々と語りだした。その内容を要約すると、

  • 3ヶ月前から周到に準備していた。
  • あらかじめ、今回の計画に相応しいはてなユーザを100名ピックアップした。
  • その100名にはてなポイントを「投げ銭」した後、「こちらの希望URLをはてなブックマークしてくださればまた投げ銭します」
    とメールを出した
  • その後、当たり障りのないURLをブックマークする指示を出し、従ってくれたユーザには投げ銭、というやりとりを繰り返した。
  • 確実に指示に従ってくれた80名に、今回のターゲットを伝えた。今までの10倍のポイントを差し上げますとも伝えた。
  • ブックマークする時間、コメント内容も指示した。
  • 事件の経過は完璧に計画通りだった。最終的な600超というブックマーク数は予想より多かった。
  • 「ブックマークレイプ」事件という呼び名は、気に入っている

こんな内容だった。
そして最後に、
「この計画の動機は、私怨ではありません。
私がやった事の意味は、いずれ判る日が来るでしょう。では、さようなら」
そう言って、「X」はおもむろに小刀を取り出し、自らの腹に突き立てた。
飛び散る鮮血がビデオカメラにも付着した。血まみれの手でビデオカメラをストップするところまでを映し出し、その動画は終わった。
このショッキングな動画は、UPから1時間半後に削除された。
しかし、この間にダウンロードした数人の人間が、YouTubeやニコニコ動画に再掲した為、多くの人間がこの動画を眼にすることとなった。
その日の夜には、「男性が自宅で割腹自殺」という記事が新聞各紙に掲載された。
あれから3ヶ月。
「X」が起こした「ブックマークレイプ」事件は、数あるネット事件の中でも最悪の後味の悪さを残した。しばらくはネット全体がなんとも言えない重苦しさだった。
「X」は「やった事の意味は、いずれ判る日が来る」と語った。
しかし、彼がこの事件を計画した動機も、なぜ自殺する必要があったのかも、誰にも判らない。
しかし、1つ気がついたことがある。
あれ以来、「ブックマーク」でのネガティブコメントが激減した事を。

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メディアWatch

そもそも同一性保持の概念は「音楽」にそぐわない

 
プロのミュージシャンが「他人の曲」を演奏する時
 
「完コピ」する者など皆無だ(いたら笑い者だ)
  
  
  
「同一性保持」を言い出したら
 
例えば「JAZZ」というジャンルは消滅する
 
JAZZがインプロビゼーション「即興」で創られるからだ 
 
演奏するたびにJAZZは形を変える
 
 
 
ヒップホップもそうだ
 
「同一性保持」とは真逆の発想がヒップホップを生んだ
 
 
 
法律がどうであれ
 
それが 「音楽」の実態であり コンセンサスである
 
 
法律がどうであれ
 
そもそも同一性保持の概念は「音楽」にそぐわない
 
 
 
「おふくろさん」のバースについて言えば
 
川内氏が創作した部分は 一語一句変えられていない
 
イントロにすら かぶっていない
 
トッピングにすらなっていない
天丼の横に漬物の小皿を置いただけだ
 
 
「音楽」のパフォーマンスにおいて これは日常茶飯である
 
 
 
法律がどうであれ
 
それが 「音楽」の実態であり コンセンサスである
 
 
法律がどうであれ
 
そもそも同一性保持の概念は「音楽」にそぐわない
 

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ネタ

どうやら「おふくろさん」のバースには裏事情がいろいろあるっぽい

一週間に4エントリーなんて初めてかも?
仕事に支障が出てきたので(笑)しばらく小休止の予定だったけど、「おふくろさん」のバース部分に関してちょっと調べたら新たな疑問がいろいろ出てきたので、メモとして手短に書き留めておく。
まず、百聞は一見にしかず、YouTubeにあったバース付き「おふくろさん」はこちら。
http://www.youtube.com/watch?v=vOyRGDrcBsU
実際聴いてみると、セリフなんかじゃなく明らかな「バース」。これ同一性保持権にひっかかるのかけっこう微妙。バース部分が終わってから、メインのイントロが始まっててわりとその境目がハッキリしてる。
それはそれとして、このバース、調べてみるとかなり謎が多い。
ハッキリ言って、これは揉め事にならない方がおかしいよ。なんか明るみに出ていない裏事情がいろいろありそう。

調べてわかった事
  • このバース部分にはちゃんとした「作詞家」がいる。ちなみに作曲は原曲と同じ猪又公章とのこと。
  • 「作詞」は、保富康午氏とみて間違いなさそう。Wikipediaの氏の項目 作品欄にも「おふくろさん(前奏部分)」という記述がある。
  • 保富氏は、川内氏に勝るとも劣らない大御所っぽい。JASRACのデータベース で検索すると、
    「科学忍者隊ガッチャマン」や「サザエさんのうた」の作詞、「大きな古時計」の訳詞などを手がけている
  • 「おふくろさん」のJASRAC登録に、保富氏の名前は無い
  • 「おふくろさん」の前奏部分が独立してJASRAC登録されているということも無かった
新たな疑問
  • 普通、新たにバースを作るとなったら、同じ作詞作曲家に依頼するのではないか?作曲は猪俣氏なのに作詞が保富氏になったのは何故?
  • 保富氏には、おふくろさんがバース付きで歌われても著作権料が入らない。これほどの大御所がこの仕事を請けたのにはどんな理由が?
  • そもそも、なぜ別の作詞家に依頼してまでこのバースを作る必要があったのだろう?
  • 素朴な疑問だが、仮に保富氏が今も存命で、今回の騒動に関してバース部分の「保富氏自身の著作人格権」を主張して川内氏と対立したら、法解釈的にはどうなる?
    JASRAC登録が無いので財産権は無いにしても、人格権は有効そうだよね?

なんか情報持ってる人がいらっしゃったら教えてください。

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ネットWatch

日本人は「ゆがんだ著作権意識」で洗脳されている

森進一の「おふくろさん」を巡って、作詞をした川内康範が「歌詞を勝手に改変した」と激怒しているいわゆる「おふくろさん騒動」。
この騒動はいまだに収束していない様だが、この件に対する世論の反応が興味深かった。
一言で言えば「意外」だった。
まず、たまたま目にした幾つかのテレビ番組では、明らかに「川内氏擁護」の論調だった。それ以外の多数の番組でも、判断には踏み込まず単なる「揉め事」として面白がっている様なニュアンス。明確な「森進一擁護」の論調は見当たらなかった。
テレビ以上に意外だったのがネットの反応。ネットでも森進一擁護の論調はかなり少数派。
あのたけくま先生でさえ、明確に「川内氏支持」を表明
川内氏に批判的なスタンスなのは、自分が目にした限りでは小倉弁護士 くらいか。
日頃からラジカルな改変パロディを好み、JASRACなどの権利団体を露骨に嫌悪する2ちゃんねるの様な場でさえ森進一を明確に擁護する人は少数派に見受けられた。これにはさすがに驚きを通り越して閉口してしまった。
「なるほど、見事に洗脳されてるんだなー」と妙に感心してしまった。
本来あるべき著作権の議論から見れば、明らかにバランスを欠いている。このアンバランスさに全く違和感を感じない日本人は、知らず知らずの内に「ゆがんだ著作権意識」に洗脳されているのではないか。
必ずしも、川内氏を支持する事を問題にしているわけではない。どちらが悪いかの判断は留保したとしても、今回の騒動では「本来あるべき議論」が欠落している。
それは「具体的に森進一がどんなセリフを語り、その内容のどの部分が問題なのか」という検証だ。
この「洗脳」のカギは日本の著作権法にある。日本の著作権法が定める「同一性保持権」は国際的にみても特殊な内容なのだ。
日本の著作権法が持つ特殊性を端的に説明している記事がクリエイティブコモンズのサイトにあった。
【CCPLv3.0】著作者人格権(同一性保持権)に関する議論 より抜粋。

ここで、皆さんに理解していただきたいのは、世界的には、著作者人格権のうち同一性保持権は、日本の著作者人格権とは基準が異なる、ということです。日本の著作者人格権は、著作者の意に反する改変について同一性保持権を広く認めています。これに対して、世界的には、著作者の名誉声望を害する態様での改変に限って、同一性保持権の行使を認めている国がほとんどなのです。

国際的な著作権法のベースとなるベルヌ条約でも、同様の制限事項がある。
ところが、日本の著作権法にだけはこの重要な制限事項がポッカリと抜けている。結果として、日本の原著作権者は「自分の気に入らない改変は全て認めない」と主張できる、絶対的で不可侵な存在になってしまっている。
そして、実際問題「オリジナルは基本的に絶対で不可侵」だという感覚は、日本人の中に無意識のうちに定着していないか。裏を返せば、著作物改変という行為そのものに必要以上の罪悪感を感じてしまう意識。
もちろんその感覚は法遵守という意味では真っ当なのだが、そこに疑問を持てないほど定着してしまっているところが「洗脳」と表現した所以だ。
その感覚は、一見「クリエイティブ」を保護している様でいて、現実には、改変やパロディに内在する「クリエイティブ」を不当に軽んじてしまう事になっている。日本の著作権法がなぜこのような形になったのか、その経緯は知らないが、そこには誰かの意志があり、何らかの力学が働いている。
日本には、著作権者や権利団体が他国に比べて強硬に振舞える土壌がちゃんと培われていたのだ。
昨今の著作権法を巡る動きとしては、これとは別に著作権保護期間の延長という問題がある。
欧米にならって著作権保護期間延長を訴えるのであれば、同一性保持権に関しても欧米にならって制限を設けたらどうか。そういう議論であれば、今よりも有意義になるのでは。どこかにトレードオフが無ければ権利者にとって虫が良すぎるというものだ。
余談になるが、先にも挙げた小倉弁護士の記事にあるように、仮に森氏側に非があったとしても、JASRAC管理楽曲を、作詞者が歌手に対して「今後いっさい歌わせない」と主張できる法的根拠は無いようだ。だから現行法においても、川内氏の主張は度が過ぎていることになる。この川内氏の暴走を諌める論調がメディアからほとんど出てこないのだから、深刻だ。
いずれにしても、現行法における同一性保持権の「過度な権限」からまず手をつけない限り、日本はいつまでたっても著作権後進国のままのような気がする。


[3/6追記]
この記事は、「おふくろさん騒動」を素材に著作権について語るエントリーなので、「揉め事」としてのゴシップ的側面はスルーしてます。そこをご理解ください。
そういう意味で、「あえて空気読んでない」部分はあると。
もう少し言わせていただけば、ゴシップとしてのこの騒ぎは最早マスコミの「恣意的報道」の真骨頂なので、報道の論調をそのまま鵜呑みにするのは慎重な方が良いと思います。
PE’Zの「大地讃頌問題」との比較で言えば、例えば森進一がセリフの追加を、レコーディング時に行っていて、それを発売前に川内氏が差し止めた、という流れであればPE’Zの場合と同じになります。現行法においても、川内氏が主張できるのは、
「冒頭にセリフを追加するな」
までであって、セリフの有無に関わらず、
「この曲を歌うな」「おれの曲は今後歌わせない」
というのは、権限の範疇を越えているのではないでしょうか。
「上から目線」というのは、この記事に関しては自覚していて、しかしこの表現が一番言いたい事が伝わる気がしたのでそのままにしました。