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毎月お届けしている好評連載「今月見るべき新作映画3選」から、現在は配信で視聴可能な話題作を厳選。映画好きな大人のための傑作ぞろいなので、年末年始にぜひチェックを!

BY REIKO KUBO

アカデミー賞受賞の大ヒット映画

【1】鬼才ヨルゴス・ランティモスと実力派エマ・ストーンのタッグが切り拓くエポックメイキングな女性像──『哀れなるものたち』

(2024年2月公開記事)

画像: スクリーン上で圧倒的な存在感を放つエマ・ストーン。アカデミー賞の主演女優賞にもノミネートされている ©2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

スクリーン上で圧倒的な存在感を放つエマ・ストーン。アカデミー賞の主演女優賞にもノミネートされている

©2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

 今年のゴールデン・グローブ賞で作品賞とエマ・ストーンの主演女優賞、二冠を獲得し、アカデミー賞でも4部門受賞を果たした『哀れなるものたち』。昨年のヴェネチア国際映画祭でも金獅子賞を受賞した本作は、『ロブスター』『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』等の作品で、国際映画祭に出品のたびに大賞受賞などで話題をさらってきたギリシャの鬼才ヨルゴス・ランティモスの最新作だ。エマ・ストーンとは『女王陛下のお気に入り』に続く2度目のコンビ作品となる。

 舞台はビクトリア朝時代のロンドン。エマ・ストーンが演じるヒロイン、ベラは、投身自殺によって脳死状態になるが、天才外科医バクスター(演じるのは名優ウィレム・デフォー)によって腹に宿した胎児の脳を移植されて蘇る。容姿だけ見ると美しい若い娘だが、頭の中はまだ赤ん坊。映画の原作はアラスター・グレイの同名小説であり、その物語のベースになっているのは、フェミニズムの先駆者メアリー・ウルストンクラフトの娘メアリー・シェリーが書いたゴシック小説「フランケンシュタイン」だ。シェリーの小説では博士が自ら生み出した“怪物”を醜さゆえに捨て去るのに対し、バクスターは、動きがギクシャクした無垢なベラを父親のように見守るが、貴重な研究材料でもあるため、弟子と結婚させて手元に置こうとする。ところが弁護士ダンカン(マーク・ラファロ)に誘惑されたベラは「世界を自分の目で見てみたい」と“父”を説き伏せてダンカンとともに船出する。

画像: ストーリー展開もさることながら、きらびやかな衣装や造形などにも目を奪われる ©2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

ストーリー展開もさることながら、きらびやかな衣装や造形などにも目を奪われる

©2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

 リスボン、アレキサンドリア、パリをめぐる旅の風景は過激にデフォルメされ、絢爛豪華そのもの。その中で、ベラは本能と好奇心の赴くままに突き進んで世界を発見し、“生きる”意味を獲得してゆく。彼女を我が物にしたがる男たちの手をすり抜け、自由な精神とともに自立してゆくベラの冒険譚は、画期的な現代のカリカチュアだ。そしてベラが実践によって性の快楽を知る過程を果敢に演じるエマ・ストーンの心意気にも瞠目させられる。首もとが詰まったゴージャスな衣装、ノーメイクに黒々とした太い眉とストレートのロングヘア。その姿は、大事故から九死に一生を得て生き延び、マチスモの国メキシコでバイセクシャルに生き、自身のアイデンティティを追求したフリーダ・カーロに寄せられているのも納得だ。

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【2】アジア人初、アカデミー賞 最優秀主演女優賞のミシェル・ヨーが魅せる!『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

(2023 年3月公開記事)

画像: 奇想天外なストーリーの主人公を見事に演じてみせるのは、香港やハリウッド映画で長年活躍してきた中国系マレーシア人のミシェル・ヨー。今作で見事オスカーを獲得した © 2022 A24 DISTRIBUTION, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

奇想天外なストーリーの主人公を見事に演じてみせるのは、香港やハリウッド映画で長年活躍してきた中国系マレーシア人のミシェル・ヨー。今作で見事オスカーを獲得した

© 2022 A24 DISTRIBUTION, LLC. ALL RIGHTS RESERVED. 

 今年の主だった映画賞の前哨戦を制覇し、アカデミー賞では作品賞、監督賞など最多7部門で受賞を果たした『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』。アジア人初の最優秀主演女優賞を獲得したミシェル・ヨー演じる主人公は、家業のコインランドリーの税金問題に加え、父親の介護、反抗期の娘との関係悪化など、頭の痛い事案がてんこ盛りのエヴリン。夫のウェイモンド(『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』のキー・ホイ・クァン)も優しいけれど、頼りにならないし、私の人生、どこで間違ちゃったのぉお〜!と頭を抱えていたエヴリンが、突然、全宇宙にカオスをもたらす悪の権化と戦うことに。しかも今生きている世界とは別のバース(宇宙)へ瞬間移動して、クンフーをマスターしたり、凄腕シェフになったり、『花様年華』を思わせる映画スターになったりしながら、怒涛の闘いを繰り広げてゆく。

画像: 時空を超えた世界を行き来する、カオス満載の世界観が話題 © 2022 A24 DISTRIBUTION, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

時空を超えた世界を行き来する、カオス満載の世界観が話題

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 前作が『スイス・アーミー・マン』という奇想コメディを得意とするダニエルズ(1988年生まれのダニエル・クワンと87年生まれのダニエル・シャイナートによるコンビ)が監督だけに、本作でもナンセンスなギャグが炸裂し、うっかりすると乗り遅れる瞬間もなくはない。しかし今や人気のマルチバース設定や、『クレイジー・リッチ』『パラサイト』『ミナリ』と続くアジア旋風、そしてサン・ラックスやデヴィッド・バーンによるご機嫌なサントラを駆使した話題作は、女性やセクシャリティの問題も描きこんで、斬新かつ壮大な心の旅物語としてフィニッシュする。

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【3】"原爆の父"が味わう栄光と、その後に背負う罪の重さ──『オッペンハイマー』

(2024 年3月公開記事)

画像: ノーラン監督作の常連キリアン・マーフィーが、開発に取り憑かれた物理学者オッペンハイマーを演じきる。またロバート・ダウニー・Jr.、マット・デイモンなど、主演級の俳優勢が群像劇を彩る © Universal Pictures. All Rights Reserved.

ノーラン監督作の常連キリアン・マーフィーが、開発に取り憑かれた物理学者オッペンハイマーを演じきる。またロバート・ダウニー・Jr.、マット・デイモンなど、主演級の俳優勢が群像劇を彩る

© Universal Pictures. All Rights Reserved.

 クリストファー・ノーラン監督による映画『オッペンハイマー』は、昨夏、欧米をはじめ各国で公開され、1300億円を超える興行収入で世界的大ヒットを記録。3月11日に開催の第96回アカデミー賞では最多13部門でノミネートされ、作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞など合計7部門で受賞を果たした。"#Barbenheimer(バーベンハイマー)" 騒動後、公開が先送りされ続けた日本でも、ついにその全貌が明らかにされるときがきた。第二次世界大戦中、アメリカ軍から、ナチスより先んじて原子爆弾の開発を託されたドイツ系ユダヤ人の天才物理学者が味わう栄光と悲劇。

画像: 実験成功時には喝采を浴び一時の達成感を味わうが、それが兵器として日本に投下され壮絶な被害を及ぼしたことを知ると…… © Universal Pictures. All Rights Reserved.

実験成功時には喝采を浴び一時の達成感を味わうが、それが兵器として日本に投下され壮絶な被害を及ぼしたことを知ると……

© Universal Pictures. All Rights Reserved.

 主演キリアン・マーフィーが"原爆の父"であり、開発に取り憑かれ、悪魔の兵器というパンドラの箱を開けてしまった男の葛藤を演じ切る。ルドウィグ・ゴランソンの見事なサントラを効かせながら、脂の乗り切った鬼才ノーランが観客の緊張の糸を操り続ける3時間。天界の火を盗んで人類に与え、ゼウスの怒りに触れて磔になったギリシア神話のプロメテウスのごとく、人類の未来を変えてしまったことから重い十字架を背負ったオッペンハイマー。核戦争の恐怖と隣り合わせで生きる我々は、核兵器もまた恐怖から生まれた産物であると本作を通して気づくだろう。

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女性の生き方を問い、勇気づける

【1】#MeToo運動の発端となった、女性記者による告発を丹念に描く『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』

(2023年1月公開記事)

画像: 主演の女性記者2人を、アカデミー賞に2度ノミネートされたキャリー・マリガン(左)と、祖父は高名な映画監督エリア・カザン、両親ともに脚本家という演劇一家で育ったゾーイ・カザン(右)の実力派が熱演 © UNIVERSAL STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.

主演の女性記者2人を、アカデミー賞に2度ノミネートされたキャリー・マリガン(左)と、祖父は高名な映画監督エリア・カザン、両親ともに脚本家という演劇一家で育ったゾーイ・カザン(右)の実力派が熱演

© UNIVERSAL STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.

 名作『鳥』のファッショナブルなヒロイン、ティッピ・ヘドレンへのハラスメントで知られるのは、かの巨匠アルフレッド・ヒッチコック。ハリウッドでも、そして最近になって声が上がり始めた日本映画界でも、権力の威を借る者たちのパワハラ、セクハラは長きにわたって繰り返されてきた。本作は、#MeToo運動の発端となった、ニューヨーク・タイムズ紙によるハリウッドの名物プロデューサー、ハーベイ・ワインスタインの告発を追った実話映画だ。このスクープによりピューリッツァー賞を受賞した記者ミーガン・トゥーイー役には、『未来を花束にして』や『プロミシング・ヤング・ウーマン』など、女性の生き方やジェンダーのあり方を主題にした作品での好演も光る英国女優キャリー・マリガン。ミーガンとコンビを組むジョディ・カンター役には、脚本家としても活躍するゾーイ・カザン。また、実名報道に応じた有名女優アシュレイ・ジャドが本人役で登場する。

画像: 制作スタッフに女性メンバーが名をつらね、記者2人が仕事と子育ての両立に奮闘する姿や、過去に被害を受けた女性たちの長年の葛藤とその生き方も細やかに描く © UNIVERSAL STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.

制作スタッフに女性メンバーが名をつらね、記者2人が仕事と子育ての両立に奮闘する姿や、過去に被害を受けた女性たちの長年の葛藤とその生き方も細やかに描く

© UNIVERSAL STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.

 長い年月、トラウマに苛まれ、それでも新たな被害者を出さないために、身を切る思いで声を上げる被害女性たちの葛藤。根気強く、かつ繊細に調査を重ね、悪の告発に精魂を尽くすジャーナリストらの信念。同時に、産後うつや子育てに悩み、心身の疲労や不安と闘う女性記者の揺らぎ。それらを丹念に掬い取ることでスリルと感動を紡いだ制作陣スタッフには、『アイアム・ユア・マン 恋人はアンドロイド』で話題を呼んだ監督マリア・シュラーダーをはじめ、プロデューサー、脚本、撮影など、気鋭の女性メンバーが結集した。

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【2】ポップなビジュアル世界を楽しませながら、女性のあり方を社会に問う意欲作『バービー』

(2023年8月公開記事)

画像: バービーを演じるマーゴット・ロビー(右)は本作のプロデューサーも務める。恋人のケンを演じるのは『ラ・ラ・ランド』でゴールデングローブ賞 主演男優賞を受賞したライアン・ゴズリング ©2023 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.

バービーを演じるマーゴット・ロビー(右)は本作のプロデューサーも務める。恋人のケンを演じるのは『ラ・ラ・ランド』でゴールデングローブ賞 主演男優賞を受賞したライアン・ゴズリング

©2023 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.

 1959年に発売開始されたマテル社のバービー人形を実写化した映画『バービー』は、世界中で興行収入10億ドルを突破し大ヒット中だが、日本公開を前に巻き起こった物議はいまだ収束する様子がない。原爆の発明者を描いたクリストファー・ノーラン監督作『OPPENHEIMER(原題)』(配給:Universal Pictures)と『バービー』の画像をコラージュした海外のファンアートがSNS上に溢れ、2つのタイトルを掛け合わせた「バーベンハイマー」という造語まで生まれた。そんな騒ぎの中、『バービー』のアメリカの公式X(Twitter)が肯定的なコメントをリプライしたために、批判が巻き起こったのだ。しかし本作品自体は、現代社会が抱えるさまざまな問題を提起する意欲作だ。そして映画は世界を写す窓であるから、その窓から外の人々、外の世界を見つめ、対話してゆくしか道はないと感じる。

『バービー』の監督のグレタ・ガーウィグは、ままならない高校生活を自虐的に描いた『レディ・バード』で監督デビューを果たし、『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(アカデミー6部門にノミネート)で女性のさまざまな生き方を肯定した注目の監督だ。そんな彼女の最新作『バービー』は、パティ・ジェンキンス監督の『ワンダーウーマン』を抜いて、女性監督としてNO.1のオープニング記録を打ち立てている。また製作・主演は、性的暴行によって未来を奪われた女性たちを描いた『プロミシング・ヤング・ウーマン』でプロデューサー業にも乗り出したマーゴット・ロビーが務める。

画像: バービーの世界観を体現したカラフルな造形も見どころのひとつ ©2023 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.

バービーの世界観を体現したカラフルな造形も見どころのひとつ

©2023 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.

 この注目の二人がタッグを組んだ『バービー』は、なんと『2001年宇宙の旅』のパロディで幕を開ける。「ツァラトゥストラはかく語りき」が鳴り響く中、ミルク飲み人形で遊ぶ女の子たちの前に、モノリスのごとく金髪の巨大なバービー(マーゴット)が現れ、革命をもたらしたとさ、と語り出す。そして舞台は一転してピンク色に染め抜かれたバービーランドへ。そこは大統領をはじめ、さまざまな職業に就くバービーたちが“You Can Be Anything“を合言葉に暮らす多様性溢れる街。一方、そんなバービーたちの傍らには、ライアン・ゴズリングを筆頭にシム・リウら扮するケンたちが居並ぶ。ある日、悩みも痛みも老化もないはずのバービーが、足に異変を感じ、太股にセルライトを発見する。完璧な私にいったい何が!?とショックを受けたバービーは、その理由を突き止めるべく、ケンとともに人間の世界へ旅立つ。

 人間の世界が男性社会だと知って驚くケンの心情をライアン・ゴズリングが歌い上げ、「私はいったい誰なの」とビリー・アイリッシュが切ない新曲を寄せる。その他、デュア・リパ、リゾ、KPOPからはFIFTY FIFTYといった豪華な面々の歌声もバービーたちの旅に寄り添う。ポップでカラフルな造形のなか、注目の女性タッグが現代社会への風刺とユーモアを詰め込んで「セルフ・ラブ」を訴える本作は、目を凝らして世界を見つめ、考え、行動する力への讃歌でもある。

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【3】スーパースターの妻が選んだ生き方をソフィア・コッポラが丹念に描く『プリシラ』

(2024年4月公開記事)

画像: 主演のプリシラをケイリー・スピーニー(右)、稀代のスター、エルヴィス・プレスリーをジェイコブ・エロルディが演じる ©THE APARTMENT S.R.L ALL RIGHTS RESERVED 2023

主演のプリシラをケイリー・スピーニー(右)、稀代のスター、エルヴィス・プレスリーをジェイコブ・エロルディが演じる

©THE APARTMENT S.R.L ALL RIGHTS RESERVED 2023

 ソフィア・コッポラが、エルヴィスと14歳で恋に落ちたプリシラ・プレスリーの回想録から紡ぎ出し、主演ケイリー・スピーニーにヴェネチア国際映画祭最優秀女優賞をもたらした最新監督作『プリシラ』。1959年、アメリカ軍将校の父の転属先、西ドイツで暮らしていた14歳のプリシラは、兵役で駐留していたエルヴィスと出会い、初めての恋に落ちる。そして彼の邸宅からカトリックの名門ハイスクールに通うことを条件に両親を説き伏せ、彼と生きるためにアメリカに飛んだ。熱気あふれる60年代のメンフィスでプリシラを迎えたのは、パステル・ピンク、ベビー・ブルー、ゴールドが輝くエルヴィスの大豪邸「グレースランド」での夢のような暮らし。髪の色もメイクもドレスもダーリン好みに変え、カジノに繰り出し、“キング”ことスーパースターとその取り巻きたちと遊びに興じる日々。しかし彼が取り巻きを引き連れてツアーや映画撮影に出てしまうと、いつかかってくるともしれない電話を待つ日々が待っていた。そしてエルヴィスがマネージャーの“パーカー大佐”に縛り付けられ搾取されたように、プリシラもエルヴィスに縛り付けられ、屋敷に取り残された。

画像: 孤独と向き合うプリシラ。自らのアイデンティティを追求し、生き方を模索する ©THE APARTMENT S.R.L ALL RIGHTS RESERVED 2023

孤独と向き合うプリシラ。自らのアイデンティティを追求し、生き方を模索する

©THE APARTMENT S.R.L ALL RIGHTS RESERVED 2023

 そしてアーティストとしての苦悩を子供じみたかたちでプリシラにぶつけるエルヴィスに対し、22歳という若さで母になったプリシラの決意で映画を締めくくる。エルヴィスの曲の使用が認められなかったため、サントラはソフィアの夫トーマス・マーズのフレンチ・バンド、フェニックスに託された。娘を乗せた車のハンドルを自ら握り、おとぎの国を後にするプリシラ。その胸の裡を、ドリー・パートンが歌う「オールウェイズ・ラブ・ユー」に語らせる心憎いラストの演出にもほろりとさせられる。

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大人のための大満足アクション&SF

【1】トム・クルーズ渾身の会心作!『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』

(2023年7月公開記事)

画像: 61歳を超えてなお、ハードなアクションに果敢に挑むトム・クルーズのプロフェッショナル魂に圧倒される ©2023 PARAMOUNT PICTURES.

61歳を超えてなお、ハードなアクションに果敢に挑むトム・クルーズのプロフェッショナル魂に圧倒される

©2023 PARAMOUNT PICTURES.

 ベーリング海峡の水面下、迫り来る魚雷に緊迫する潜水艦内部が映し出される。先の潜水艇タイタンの悲劇の記憶が新しいだけに、いよいよ公開の『ミッション:インポッシブル』最新作は、冷や汗もののオープニングで幕を開ける。タイトルの「デッドレコニング」が意味する推測航法とは、起点、偏流などから過去や現在の位置を推定し、その位置情報をもとにして行う航法だという。かつての監督官から「大義のための戦いは終わりだ」と告げられたIMFエージェント、イーサン・ハント(トム・クルーズ)は、過去の行いは正しい選択だったのかと葛藤しながら、アブダビ、イタリア、オーストリアと舞台を変えながら世界を駆け巡る。

画像: 前作から引き続き登場するホワイト・ウィドウ(写真右/ヴァネッサ・カービー)は、ミステリアスかつ冷たく冴えた華やかさで魅了 ©2023 PARAMOUNT PICTURES.

前作から引き続き登場するホワイト・ウィドウ(写真右/ヴァネッサ・カービー)は、ミステリアスかつ冷たく冴えた華やかさで魅了

©2023 PARAMOUNT PICTURES.

 イーサンとフィアット500に乗り、コミカルかつ壮絶なカーチェイスを繰り広げる新たなヒロインはグレース(ヘイリー・アトウェル)。さらにイルサ(レベッカ・ファーガソン)、ホワイト・ウィドウ(ヴァネッサ・カービー)、パリス(ポム・クレメンティエフ)らも爪痕を残す。そしてなんと言っても砂漠を馬で駆け抜け、目も眩むような断崖絶壁からバイクで飛び降り、疾走する列車の上での死闘をスタントなしで繰り広げるトム・クルーズの闘志に胸熱! コロナ禍と配信の影響で苦境に立たされている映画と映画館のために走り続けるクルーズ。本作のPART TWOが公開された暁には、ぜひとも彼にオスカー像を手にしてもらいたい。

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【2】美しきティモシー・シャラメ扮する主人公が、さらなる成長を遂げて魅了する『デューン 砂の惑星PART2』

(2024年3月公開記事)

画像: 前作では父を亡き者にされ、まだあどけなさの残る少年を演じたティモシー・シャラメ。今作ではそこからの成長ぶりに注目が集まる © 2024 Legendary and Warner Bros. Ent. All Rights Reserved IMAX® is a registered trademark of IMAX Corporation. Dolby Cinema is a registered trademark of Dolby Laboratories.

前作では父を亡き者にされ、まだあどけなさの残る少年を演じたティモシー・シャラメ。今作ではそこからの成長ぶりに注目が集まる

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『スター・ウォーズ』や『風の谷のナウシカ』等に多大な影響を与えたフランク・ハーバートによるSF小説『デューン 砂の惑星』は、今から半世紀以上前にエコロジーが近未来の鍵を握ることを予言していた。デイヴィッド・リンチ版から37年ぶりに、映画化に抜擢された監督ドゥニ・ヴィルヌーヴ(代表作『メッセージ』『ブレードランナー 2049』)による壮大な映像叙事詩の序章PART1が公開されたのが、今から約2年半前。宇宙で唯一、不老薬である “スパイス”が採れる惑星デューンを舞台に、『PART2』では愛する父を殺され国を滅ぼされたアトレイデス家のポールが、宿敵ハルコンネン家に復讐の狼煙を上げる。

画像: シャラメの美しい佇まいのみならず、惑星の造形などヴィルヌーヴ監督ならではの深淵で壮大な世界観にどっぷり浸りたい © 2024 Legendary and Warner Bros. Ent. All Rights Reserved IMAX® is a registered trademark of IMAX Corporation. Dolby Cinema is a registered trademark of Dolby Laboratories.

シャラメの美しい佇まいのみならず、惑星の造形などヴィルヌーヴ監督ならではの深淵で壮大な世界観にどっぷり浸りたい

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 ポール役のティモシー・シャラメが、悩める少年から宇宙の未来を救う救世主として覚醒するまでの変遷を陰影深く演じて魅せる。ポールの運命の相手となる砂漠の民チャニにゼンデイヤ、ポールを導く母レディ・ジェシカにレベッカ・ファーガソン。そのほかクリストファー・ウォーケン、シャーロット・ランプリング、フローレンス・ピュー、レア・セドゥ、アニャ・テイラー=ジョイら豪華な顔ぶれの群像ドラマにハンス・ジマーの荘厳な音楽が響き渡る。

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【3】熱狂の渦を巻き起こした前作から待ち焦がれた待望の最新作!『マッドマックス:フュリオサ』

(2025年5月公開記事)

画像: 主役のフュリオサを演じるのは、飛ぶ鳥を落とす勢いの若手実力派、アニャ・テイラー=ジョイ © 2024 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved. IMAX® is a registered trademark of IMAX Corporation. Dolby Cinema is a registered trademark of Dolby Laboratories.

主役のフュリオサを演じるのは、飛ぶ鳥を落とす勢いの若手実力派、アニャ・テイラー=ジョイ

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 メル・ギブソン主演の『マッドマックス』3部作から30年ぶりに製作された続編『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015年)は血湧き肉躍る怒涛のアクション・ムービー。2016年のアカデミー賞で10部門にノミネートされ、6部門に輝いたが、マックス役を引き継いだトム・ハーディのお株を奪う奮闘をみせたフュリオサ役シャーリーズ・セロンがノミネートすらされなかったことには疑問を感じていた。その鬱憤を晴らすべく、闘うヒロインの前日譚を描く『マッドマックス:フュリオサ』が幕を開ける。監督は1作目からメガホンを取るジョージ・ミラー御大。そしてシャーリーズ姐御に代わり、若き日のフュリオサを演じるのは、2015年の『ウィッチ』で注目を浴びNetflixドラマ『クイーンズ・ギャンビット』の大ヒットでゴールデングローブ賞主演女優賞を受賞したアニャ・テイラー=ジョイ。

画像: 『マッドマックス』らしさ全開の風景。大スクリーンでこの世界観にどっぷり浸りたい © 2024 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved. IMAX® is a registered trademark of IMAX Corporation. Dolby Cinema is a registered trademark of Dolby Laboratories.

『マッドマックス』らしさ全開の風景。大スクリーンでこの世界観にどっぷり浸りたい

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 世界の崩壊から45年。幼きフュリオサは、水も石油も枯渇した砂漠の果ての「緑の地」で家族や仲間と共に暮らしていたが、ディメンタス将軍(クリス・ヘムズワース)をヘッドとするバイカー集団に攫われてしまう。さらにウォーボーイズたちがひれ伏す、巨大要塞の主・イモータン・ジョーとディメンタスの覇権争いに乗じて復讐の狼煙を上げるフュリオサは、母との誓いを胸に阿修羅と化す。シャーリーズに比べて線は細いが、旬の女優アニャの鋭い目力とゾクゾクさせる低音ヴォイスはフィリオサの怒りを湛えて見る者のハートを射抜く。フュリオサ覚醒までのドラマをもっと見たいという名残惜しさも感じるが、ジョージ・ミラー監督待望の最新作、暑気払いにはもってこいだ。

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孤独と対峙する人々の心を繊細に紡ぐ、味わい深いヒューマンドラマ

【1】映画館を舞台に孤独との向き合い方を描く、映画好きな大人必見の『エンパイア・オブ・ライト』

(2023年2月公開記事)

画像: 近年、心に染みる名演が続くオリヴィア・コールマン(右)と、若き才能として注目を浴びるマイケル・ウォード(左)。人生の後半を迎え孤独と対峙する者と、夢を実現しようとするみずみずしい若者の対比が描かれる ©2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

近年、心に染みる名演が続くオリヴィア・コールマン(右)と、若き才能として注目を浴びるマイケル・ウォード(左)。人生の後半を迎え孤独と対峙する者と、夢を実現しようとするみずみずしい若者の対比が描かれる

©2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

 淡く美しい光を浴びて、海辺に建つクラシカルな映画館。赤い絨毯が敷き詰められたロビーの天井近くには“暗闇の中に光を見出す”と文字が彫られている。マネージャーのヒラリーは、閉館後の集計はもとより、モギリもするし、ポップコーンも売る。妻帯者の支配人に呼び出されれば、屈辱を感じながらも応えもする。同僚はそんな彼女をそっと見守っている。舞台は1980年代、イギリスの港町。サッチャー政権下の失業と分断という状況下で、音楽や文学から生活文化などの価値観が激しく対抗した時代だ。その空気を掻き立てるサウンドトラックとともに、心の病を抱えたヒラリーが、黒人青年に恋をする心の有り様とほろ苦い人生が描か描かれる

画像: 見事なまでに美しいクラシックな映画館の外観や内装にも目を奪われる ©2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

見事なまでに美しいクラシックな映画館の外観や内装にも目を奪われる

©2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

 孤独と虚しさを抱えたヒラリーが恋に戸惑い、華やぎ、また狂気に歪む。闇に取り込まれそうになる彼女を救うのは、同僚の映写技師だ。毎日働いているのに座ったことのなかった映画館のシートに身を沈め、スクリーンが放つ光を見つめるうちに、彼女の瞳も輝きだす。日本でもコロナ禍での映画館閉鎖は、不安な日々に追い討ちをかけただけに、“暗闇の中に光を見出す”ヒラリーの姿に涙が滲む。

 監督は、『アメリカン・ビューティー』で、デビュー作にして一躍オスカー監督となり、その後も『007 スペクター』などの大作も手がける英国演劇界出身の気鋭サム・メンデス。そしてヒラリー役は、『女王陛下のお気に入り』『ファーザー』『ロスト・ドーター』と毎年のように身につまされる映画を突きつけてくる女優オリヴィア・コールマンだ。見る者の視線も心も鷲づかみにする圧倒的なリアリティとくるくると変わる表情! ひと昔前、「韓国映画はソン・ガンホで見ろ」とよく言われたが、ここのところ「大人のための映画はオリヴィアで見ろ」である。

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【2】『サイドウェイ』の名匠と俳優コンビが再タッグ!孤独なクリスマスに心が触れ合う『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』

(2024年6月公開記事)

画像: 主演のポール・ジアマッティ(中央)は『サイドウェイ』(2004年)の演技で数々の映画賞を受賞した実力派 Seacia Pavao / © 2024 FOCUS FEATURES LLC.

主演のポール・ジアマッティ(中央)は『サイドウェイ』(2004年)の演技で数々の映画賞を受賞した実力派

Seacia Pavao / © 2024 FOCUS FEATURES LLC.

『サイドウェイ』(2004年)の監督アレクサンダー・ペインと、名優ポール・ジアマッティのコンビで再び今年のアカデミー賞を沸かせた話題作。舞台は1970年代。ボストン近郊の名門寄宿学校で古代史を教える教師ハナムは、堅物の嫌われ者。そんな彼が、クリスマスに家族のもとへ帰れない子供たちの指導教官を命じられる。「再婚相手と2人きりにして」と、母からカリブ海旅行の同行を断られたアンガスのほか、韓国からの留学生や宗教活動で両親不在の下級生など、総勢5人がハナムのもとに。ところがアンガス以外の学生は、父親がヘリコプターで迎えにきた金持ちの生徒に誘われてスキー・バカンスに行ってしまい、親と連絡が取れないアンガスひとりだけが残される。家族が集うクリスマス休暇に独りぼっちのハナムとアンガス、そして食堂の料理長メアリーが、寒々しい学校に“ホールドオーバー(残留)”することに。

 天涯孤独で、甘やかされた金持ち学生たちに反感を抱くハナム。大人びて反抗的な表情に家庭の問題や悩みを隠したアンガス。女手ひとつで育てた一人息子をベトナム戦争で亡くしたばかりのメアリー。愛想の悪い3人が他者の孤独を知り、心の傷に触れることで、少しずつ互いの距離を縮めてゆき……。

画像: メアリーを演じたダヴァイン・ジョイ・ランドルフ(中央)は、本作の演技でアカデミー賞助演女優賞を獲得 Seacia Pavao / © 2024 FOCUS FEATURES LLC.

メアリーを演じたダヴァイン・ジョイ・ランドルフ(中央)は、本作の演技でアカデミー賞助演女優賞を獲得

Seacia Pavao / © 2024 FOCUS FEATURES LLC.

 人はいくつになっても欠点や不満を抱え、平静を装った顔の下で怒ったり、葛藤したりしているが、人の痛みを知ることで見える景色が変わってゆく。監督アレクサンダー・ペインは、そんな厄介な心の機微を積み重ね、切なくもほろ苦い人間讃歌を紡ぐ名手だ。名優ジアマッティ演じるラストの旅立ちに胸震わされるドラマの中、アンガス役の新星ドミニク・セッサ、そしてアカデミー賞助演女優賞に輝いたダヴァイン・ジョイ・ランドルフのアンサンブルも光る。

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【3】24年間のすれ違いからNYでの再会──大人の女性の共感必至!『パスト ライブス/再会』

(2024年4月公開記事)

画像: 主人公のノラはLA出身で韓国系二世のグレタ・リー(右)、相手役のヘソンは主演作『LETO レト』がカンヌ国際映画祭で話題を呼んだユ・テオ Copyright 2022 © Twenty Years Rights LLC. All Rights Reserved

主人公のノラはLA出身で韓国系二世のグレタ・リー(右)、相手役のヘソンは主演作『LETO レト』がカンヌ国際映画祭で話題を呼んだユ・テオ

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『パラサイト 半地下の家族』配給の韓国のCJ ENMと『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』を生み出したA24という最強チームがタッグを組んだ『パスト ライブス/再会』。ニューヨークを拠点に活動する劇作家セリーヌ・ソンが、自らの体験をモチーフにしたデビュー作で堂々アカデミー作品賞と脚本賞の2部門ノミネートを達成した話題作だ。映画は、アジア系の男女と白人男性が座る、ニューヨーク午前4時のバーカウンターの場面から始まり、そして舞台は24年前のソウルへと。少女ナヨンと同級生の少年ヘソンは、子どもごころに互いを将来の結婚相手と意識していたが、ナヨン一家のカナダ移住が決まってしまう。学校帰りの分かれ道、ナヨンは寂しさからか、「また会おうね」と言い出せなかった。そこがふたりの運命の分かれ道だった。

 12年後、ニューヨークに移り、作家修行中のナヨンと、ソウルのヘソンはネットで繋がる。ヘソンの優しい笑顔、懐かしい韓国語、ソウルへの郷愁が溢れた。しかしここでもふたりはすれ違う。そしてさらに12年後……。

画像: ノラの夫を演じるジョン・マガロ(右)は、気鋭のケリー・ライカート監督作にも立て続けに出演し注目をあびている Copyright 2022 © Twenty Years Rights LLC. All Rights Reserved

ノラの夫を演じるジョン・マガロ(右)は、気鋭のケリー・ライカート監督作にも立て続けに出演し注目をあびている

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 ナヨンが夫アーサーに「韓国では見知らぬ人とすれ違ったとき、袖が偶然触れるのは、前世(PAST LIVES)でふたりの間に“縁”があったからだというの」と語りかける。韓国語でこの“運命”という意味に近い“縁(イニョン)”をキーワードに、セリーヌ・ソン監督は彼らの揺れる思いを俳優たちの表情で紡いでゆく。ニューヨークの風景を背に、きっとへソンは前世からの仲なのだと感じる居心地の良さと恋心、そしてニューヨークに留まり、ここで何者かになってやるという決意がせめぎ合う。そんな大人のラブストーリーで観客の心をキュンとさせ、心に決めた誓いを有言実行した新進女性監督は、早くも次回作を製作中だというから今後も楽しみだ。

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演技派俳優たちが魅せる!いま必見の日本映画

【1】注目の若手・河合優実の演技が光る!社会から社会から忘れられた存在を語りかける『あんのこと』

画像: 2020年に現実に起きた事件をモチーフに入江悠監督が映像化。底辺から抜け出そうともがく主人公を演じる河合は、作品と杏の人物像について、日々問い続けながら撮影に臨んだという © 2024 “A Girl Named Ann” Film Partners

2020年に現実に起きた事件をモチーフに入江悠監督が映像化。底辺から抜け出そうともがく主人公を演じる河合は、作品と杏の人物像について、日々問い続けながら撮影に臨んだという

© 2024 “A Girl Named Ann” Film Partners

 2019年の女優デビュー以来、映画を中心に出演を重ね、新人賞など多数の賞に輝いてきた河合優実。『あんのこと』は、TVドラマ「不適切にもほどがある!」の大ヒットで全国区の顔となった彼女の最新主演映画だ。コロナ禍で大切な人を亡くし、その思いを静かな熱量の中に刻みつけたのは、『SRサイタマノラッパー』シリーズで人気の監督、入江悠。

 河合が演じる21歳の杏は、母と足の不自由な祖母との3人暮らし。小学4年生から不登校になり、母親から虐待され、麻薬の常習者となってしまう。そんな彼女にひとりの刑事と更生プログラムを取材する記者が手を差し伸べるが……。絶望の世界に差し込んだ一筋の光によって変化してゆく杏の表情を繊細に演じ、見る者の心をゆさぶる河合。熱血漢の刑事の顔に得体のしれなさをにじませる佐藤二朗。記者の思惑を抱えながらも、ある種ニュートラルな視線を物語に呼び込む稲垣吾郎。彼が表現する戸惑いと悔恨が観賞後の胸にじわじわと広がってゆく。

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【2】監督 是枝裕和、脚本 坂元裕二、音楽 坂本龍一。才能が結集したカンヌ国際映画祭 脚本賞受賞作『怪物』

(2023年6月公開記事)

画像: 実力派の安藤サクラ(右)がリアリティあふれる母親役を好演 ©2023「怪物」製作委員会

実力派の安藤サクラ(右)がリアリティあふれる母親役を好演

©2023「怪物」製作委員会

『万引き家族』でカンヌ国際映画祭の最高賞パルムドールを受賞し、『誰も知らない』と『ベイビー・ブローカー』ではそれぞれの主演俳優がともに最優秀男優賞に輝くという実績を重ねる是枝裕和監督。今年も新作『怪物』をコンペ部門に出品し「プレッシャーだな」と漏らしていたが、見事に脚本賞とともに凱旋した。TVドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』等で大人気の脚本家、坂元裕二と初タッグを組んで練り上げたドラマは三章仕立て。舞台は澄んだ湖を臨む郊外の町。子ども思いのシングルマザー早織(安藤サクラ)は「豚の脳を移植された人間は、人間?豚?」と、奇妙な質問を投げかけられた日から一人息子 湊(黒川想矢)の様子が気になり始め、学校の担任教師(永山瑛太)を尋ねるが……。

画像: 小学5年生の生徒を演じるふたりは、今作が映画初出演とは思えない、みずみずしい演技を披露 ©2023「怪物」製作委員会

小学5年生の生徒を演じるふたりは、今作が映画初出演とは思えない、みずみずしい演技を披露

©2023「怪物」製作委員会

 怪物とはいったい誰のことなのか? 視点を変えながら、坂元脚本ならではの先が読めないミステリアスなドラマが展開し、終盤に向けて世界が豊かに広がってゆく。それまで影のような佇まいだった校長(田中裕子)が静かに教え子を導くシーンでは、トロンボーンとホルンの音色とともに胸が震える。『万引き家族』でも組んだ撮影監督・近藤龍人のカメラが嵐と陽光の中での子どもたちの生き生きとした表情をとらえ、是枝映画の情感が一気に溢れ出し、そこに病の中で坂本龍一が紡いだピアノ曲が寄り添う。湊たちに、世界の子どもたちに、まるで “誰にでも手に入る幸せが降り注ぎますように” と祈るように──。

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【3】江戸時代を舞台に黒木華の好演が光る美しい青春映画『せかいのおきく』

(2023年5月公開記事)

画像: 演技派として揺るぎない地位を確立している黒木華。時代劇ならではの佇まいや所作の美しさでも観客を魅了する ©2023 FANTASIA

演技派として揺るぎない地位を確立している黒木華。時代劇ならではの佇まいや所作の美しさでも観客を魅了する

©2023 FANTASIA

 江戸の末期。武家の娘おきくが、寺子屋で子どもたちに読み書きを教えた帰り、雨宿りした厠のひさしの下で、古紙や下肥を売り買いする矢亮と中次と出会う。おきくは武家の娘ながら、今は父の源兵衛(佐藤浩市)とともに長屋暮らし。中次と矢亮は最下層の仕事と蔑みを受けることもあるが、日々明るさを忘れない。人気の阪本順治監督が初めて時代劇に挑んだ『せかいのおきく』は、身分の違う男女3人が心通わせていく青春映画。

画像: 中次を演じる寛一郎(左)は、今作で父・佐藤浩市との共演も果たす。矢亮を演じるのは実力派の池松壮亮 ©2023 FANTASIA

中次を演じる寛一郎(左)は、今作で父・佐藤浩市との共演も果たす。矢亮を演じるのは実力派の池松壮亮

©2023 FANTASIA

 背筋を伸ばして墨をする。空に向かって柏手を打つ。握り飯を握る。たおやかな着物姿も所作も見事な黒木華が、やがて悲劇に見舞われるおきくを好演。そして、しんしんと降り積もる雪の中のおきくとのシーンが美しい中次に寛一郎、飄々としながら哀しみを秘めた矢亮に池松壮亮。主演3人に加え、長屋仲間の石橋蓮司、僧侶役で登場の真木蔵人ら、阪本組の常連が人情や笑いを運び、源兵衛役の佐藤浩市が寛一郎との親子共演の場で「“せかい”って言葉、知ってるか? 惚れた女ができたら言ってやんな、俺は “せかい” で一番お前が好きだって」と粋なセリフでキメてみせる。

 江戸の四季を映し出す美しいモノクロ映画だが、要所要所でスクリーンがカラーに染まるという演出も。若者3人が “せかい” に向けて歩き出す、ラストの清々しさが心に焼き付く話題作だ。

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