<シリーズ「検証マイナ保険証」>
いつ、どんな議論を経て、誰が決めたのか。
現行の健康保険証の廃止がどのようにして決まったのか、その経緯が分かる記録を政府は残していなかった。
決定に至るまでの手続きも異例で唐突だった。国民が納得するだけの説明もない。
医療に欠かせない保険証を「人質」に、マイナンバーカードの利用を迫る政府の姿勢が、かえって国民の不信を増幅させている。(マイナ保険証取材班・戎野文菜)
◆「なぜ廃止」「なぜ強制」…相次ぐ疑問
現行保険証の廃止を巡っては、河野太郎デジタル相が2022年10月13日、「24年度秋に現在の保険証の廃止を目指す」と表明。その後、政府は2024年12月廃止と決定した。
東京新聞は、厚生労働省とデジタル庁に、現行保険証の廃止を決めた経緯が分かる文書の開示を求めたが、開示文書からは政府内の決定経緯は判然としなかった。
「現行の保険証で不都合はないのに、なぜ廃止を決めたのか」(静岡市の派遣社員54歳女性)
「任意のものをなぜ強制するのかについての説明が不足している」(広島市の65歳女性)
東京新聞をはじめ18の地方紙が8月に行った合同アンケートでは、現行保険証廃止について政府に説明を求める声が相次いだ。
マイナ保険証の利用率は8月時点で12.43%にとどまる。
廃止表明から2年近くたっても、「マイナ保険証のごり押しに不信感しかない」(川崎市43歳主婦)、「極めて強引であり強権的」(仙台市65歳男性)などと政府への反発が目立つ。
◆「権力的な目線だよ」
そもそも河野太郎デジタル相が2022年10月に表明するまで、政府は現行保険証を完全に廃止する方針ではなかった。
廃止表明の1年前、デジタル庁幹部に本紙記者が、マイナンバーカード普及のため保険証を使えなくする考えがないのか尋ねると、即座に否定し、こう答えた。
「使えなくなると言えば普及するってのは権力的な目線だよ。ダメだよ。保険証は(なくなれば人が)死ぬんだから」
政府は2022年6月の「骨太の方針」で「24年度中をめどに(マイナ保険証と現行保険証の)選択制の導入を目指す」と閣議決定。期限は設けず、普及状況などを考慮して「原則廃止を目指す」としていた。
たとえ廃止になっても、申請があれば現行保険証を交付する方針だった。
◆異例の審議会飛ばし
ところが、たった4カ月で保険証は「完全廃止」への切り替わった。
政府は、国民に意見を問うどころか、国の医療政策を審議する社会保障審議会の部会にすら事後報告で済まし...
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