7日の本紙連載「五輪リスク」で東京五輪・パラリンピックの開催中止を訴えた演出家の宮本亞門さん(63)。4月中旬に行ったインタビューでは平和を掲げる五輪精神との矛盾を指摘し、世界や国際オリンピック委員会(IOC)にものを言えない日本政府の姿勢も疑問視した。主なやりとりは以下の通り。(聞き手・臼井康兆、原田遼)
◆「五輪の映像を見て勇気づけられる状況にない」
―コロナ禍で開催される五輪をどう考えるか。
健全な精神と肉体を高め合い、世界を1つにするという五輪精神は素晴らしい。しかし世界中が生死を思う未曽有の体験の中、インドのように多くの国で医療環境が整わず、ワクチンも分配されない。失業や貧困も広がった。救われるのはお金がある人だけ。五輪精神と真逆の事実が進行し、五輪の映像を見て勇気づけられる状況にありません。
―国内の世論調査でも開催に懐疑的な声が多い。
昨年の安倍晋三・前首相の「完全な形での開催」発言以降、コロナ対策の遅れ、水際対策の甘さ、ワクチン供給の遅々とした流れ…。国民はどれだけ不安を耐え忍んできたか。
私が出演したテレビ番組では「自分はこの状況で走っていいのか」と苦悩する聖火ランナーが報じられた。IOCや政府の利己的な考えは、「他人のことを思う」という利他的な精神と正反対。国民はその間で心が引き裂かれています。
◆「何ということに加担してしまったんだ」
―東京大会には期待をしていたか。
2013年の招致決定当初、「世界一お金がかからない五輪」や「復興五輪」といった発言を信じようとした。これだけ政府が断言するのだから、と。17年には大会の公式イベントの演出を引き受けた。
しかし大会経費は倍以上に膨れ上がり、福島第一原発事故の後処理も進まない、全て誘致のための架空のものだっ...
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