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ルート系とは? わかりやすく解説

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ルート系

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/05/20 22:51 UTC 版)

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数学において,ルート系: root system: système de racines)とはある幾何学的な性質を満たすユークリッド空間ベクトルの配置である.これはリー群リー環の理論において基本的な概念である.リー群(や代数群のような類似物)やリー環は20世紀の間に数学の多くの部分で重要になってきたから,ルート系の一見すると特別な性質に反してそれらは多くの分野に応用される.さらに,ディンキン図形によるルート系の分類体系は(特異点論英語版のような)リー理論とあからさまなつながりの全くない数学の分野において現れる.最後に,ルート系はスペクトルグラフ理論英語版におけるように,それ自身重要である[1]

定義と基本的な例

ルート系 A2 の6つのベクトル.

最初の例として,図に示されているような,2次元ユークリッド空間 R2 における6つのベクトルを考える.これらのベクトルは空間全体を張る.任意のルート β垂直な直線を考えると,その直線による R2 の鏡映は任意の他のルート α を別のルートに写す.さらに,写り先は α + に等しい,ただし n は整数である(この場合 n1 である).これら6つのベクトルは以下の定義を満たし,したがってルート系をなす;このルート系は A2 と呼ばれる.

定義

V を有限次元ユークリッドベクトル空間とし,(・, ・) を標準ユークリッド内積とする.Vルート系 (root system) とは,非零ベクトルの有限集合 Φ であって,以下の条件を満たすもののことである[2][3]

  1. 集合 Φ はベクトル空間 V張る
  2. 任意の x ∈ Φ に対して,その実数倍で Φ に属するものは ±x のみ.
  3. 任意の x ∈ Φ に対して,集合 Φx に垂直な超平面を通る鏡映で閉じている.
  4. 整数性)任意の x, y ∈ Φ に対して,x を通る直線への y の射影は x の半整数倍である.

条件3と4を書く同値な方法は以下である:

  1. 任意の x, y ∈ Φ に対して,集合 Φ は元 ルート系 A1 × A1
    ルート系 D2
    ルート系 A2
    ルート系 G2
    ルート系 B2
    ルート系 C2

    ルート系 Φ階数 (rank) は V の次元である.

    2つのルート系は,それらの張るユークリッド空間を共通のユークリッド空間の互いに直交する部分空間と見ることで,つなげることができる.そのような結合から生じないルート系は既約 (irreducible) といわれる.例えば右に描かれているルート系 A2, B2, G2 は既約である.

    2つのルート系 (E1, Φ1)(E2, Φ2)同型 (isomorphic) であるとは,可逆な線型変換 E1E2 であって,Φ1Φ2 に送り,ルートの各対に対して,数 x, y が保たれるものが存在することをいう[6]

    ルート系 Φ のルートに直交する超平面による鏡映によって生成される V等長変換

    β, α に対する整数性条件は垂直線の1つの上の β に対してしか満たされず,α, β に対する整数性条件は赤い円の1つの上の β に対してしか満たされない.(Y 軸上の)α に直交する任意の β は自明に両方を 0 で満たすが,既約ルート系を定義しない.
    鏡映を法として,与えられた α に対し,β の非自明な可能性は5つしかなく,単純ルートの集合において αβ の間の可能な角度は3つしかない.サブスクリプトの文字は,与えられた β が最初のルートとして,α が二番目のルートとして(あるいは F4 における中2つのルートとして)仕えることができるようなルート系の列に対応する.

2つのルートの間の角度の余弦は整数の平方根の半整数倍に制限される.なぜならば,β, αα, β はともに仮定により整数で,

E6 ルート半順序集合のハッセ図.辺のラベルは足された単純ルートの位置.

正ルート全体の集合は αββα が単純ルートの非負線型結合であることとして自然に順序付けられる.この半順序集合

すべての既約ディンキン図形の絵

ルート系が既約であるとは,2つの真の部分集合の和集合 Φ = Φ1 ∪ Φ2 であって,すべての α ∈ Φ1β ∈ Φ2 に対して (α, β) = 0 となるようなものに分割できないことをいう.

既約ルート系はイェヴゲニ・ディンキン英語版にちなんで名づけられているディンキン図形というグラフ英語版対応する.これらのグラフの分類は単純な組合せ論であり,既約ルート系の分類をもたらす.

ルート系が与えられたとき,前の節にあるように単純ルートの集合 Δ を選ぶ.付随するディンキン図形の頂点は Δ のベクトルに対応する.ベクトルの直交しない各対の間に辺が描かれる.なす角度が 2π/3 ラジアンのときは,無向の一重辺であり,3π/4 のときは有向二重辺であり,5π/6 のときは有向三重辺である.「有向辺」という用語は二重・三重辺は短い方のベクトルを指す記号が付けられることを意味する.

与えられたルート系の単純ルートの集合の可能性は1つではないが,ワイル群はそのような選び方に推移的に作用する[14].したがって,ディンキン図形は単純ルートたちの選び方には依らず,ルート系自身によって決定される.逆に,同じディンキン図形をもつ2つのルート系が与えられると,基底のルートから合わせ始めて,2つが実は同じであることを示すことができる.

したがってルート系の分類の問題は可能なディンキン図形の分類の問題に帰着する.ルート系が既約であることとそのディンキン図形が連結であることは同値である.ディンキン図形は基底 Δ のことばで E の内積の情報を持っており,この内積が正定値でなければならないという条件は所望の分類を得るのに必要なすべてであることが判明する.

実際の連結図形は以下のとおりである.サブスクリプトは図形の頂点の個数(したがって対応する既約ルート系の階数)を指し示す.

既約ルート系の性質

Φ |Φ| <| I D |W|
An (n ≥ 1) n(n + 1)     n + 1 (n + 1)!
Bn (n ≥ 2) 2n2 2n 2 2 2n n!
Cn (n ≥ 3) 2n2 2n(n − 1) 2n−1 2 2n n!
Dn (n ≥ 4) 2n(n − 1)     4 2n − 1 n!
E6英語版 72     3 51840
E7英語版 126     2 2903040
E8英語版 240     1 696729600
F4英語版 48 24 4 1 1152
G2英語版 12 6 3 1 12

既約ルート系は対応する連結ディンキン図形にしたがって名づけられる.4つの無限族(An, Bn, Cn, Dn で,古典型ルート系と呼ばれる)と5つの例外的な場合(例外型ルート系)が存在する[15].サブスクリプトはルート系の階数を意味する.

既約ルート系において長さ (α, α)1/2 の値は高々2種類であり,短いルートと長いルートである.すべてのルートが同じ長さを持っているときは長いと定義し,ルート系は simply laced といわれる.これは A, D, E の場合におこる.同じ長さの任意の2つのルートはワイル群の同じ軌道に入る.Simply laced でない場合 B, C, G, F では,ルート格子は短いルートによって張られ,長いルートは部分格子を張り,これはワイル群で不変で,コルート格子の r2/2 倍に等しい,ただし r は長いルートの長さである.

添付の表において,<| は短いルートの個数を表し,I は長いルートによって生成される部分格子のルート格子における指数を表し,Dカルタン行列の行列式を表し,|W| はワイル群の位数を表す.

既約ルート系の明示的な構成

An

A3
e1 e2 e3 e4
α1 1 −1 0 0
α2 0 1 −1 0
α3 0 0 1 −1

V を座標の和が 0 になる Rn+1 の部分空間とし,ΦV の長さ 2整数ベクトルすなわち Rn+1 において整数座標を持つベクトル全体の集合とする.そのようなベクトルは2つを除くすべての座標が 0 で,1つの座標は 1 で,1つは −1 でなければならず,したがって全部で n2 + n 個のルートがある.単純ルートの取り方の1つを標準基底で表すと:1 ≤ in に対して αi = eiei+1.

αi に垂直な超平面を通る鏡映 σi は隣り合う i 番目と (i + 1) 番目の置換と同じである.そのような互換は全置換群を生成する.隣り合う単純ルートに対して,

σi(αi+1) = αi+1 + αi
= σi+1(αi) = αi + αi+1

である,つまり,鏡映は1倍を足すことに等しい.しかし,隣り合わない単純ルートに垂直な単純ルートの鏡映はそれを変えず,0倍を引くことである.

An ルート格子,つまり An ルートによって生成される格子は,成分の和が 0 である Rn+1 の整数ベクトルの集合として最も容易に記述される.

A3 ルート格子は結晶学者に面心立方 (fcc)(あるいは立方最密)格子と呼ばれている[16]

ゾムツール・システムにおける A3 ルート系の模型.

A3 ルート系は(他の階数 3 のルート系も)ゾムツール・コンストラクション・セットで模型を作れる[17]

Bn

B4
 1 −1 0 0
0   1 −1 0
0 0   1 −1
0 0 0   1

V = Rn とし,ΦV の長さ 12 のすべての整数ベクトルからなるとする.ルートの総数は 2n2 である.単純ルートたちの1つの選び方は:1 ≤ in − 1 に対して αi = eiei+1 と(An − 1 に対する上の単純ルートの取り方),短ルート αn = en である.

短ルート αn に垂直な超平面に関する鏡映 σn はもちろん単に n 番目の座標の −1 倍である.長単純ルート αn − 1 に対し,σn−1(αn) = αn + αn−1 であるが,短ルートに垂直な鏡映に対しては,σn(αn−1) = αn−1 + 2αn であり,1倍ではなく2倍である.

Bn ルート格子,つまり,Bn ルートによって生成される格子は,すべての整数ベクトルからなる.

B12 によるスケーリングによって,A1 に同型であり,したがって異なるルート系ではない.

Cn

C4
 1 −1 0 0
0   1 −1 0
0 0   1 −1
0 0 0   2

V = Rn とし,Φ を長さ 2V のすべての整数ベクトルと,λ を長さ 1 の整数ベクトルとして 2λ の形のすべてのベクトルからなるとする.ルートの総数は 2n2 である.単純ルートの1つの選び方は:1 ≤ in − 1 に対して αi = eiei+1 と(An − 1 に対する単純ルートの上の選び方),長い方のルート αn = 2en である.

鏡映 σn(αn−1) = αn−1 + αn であるが,σn−1(αn) = αn + 2αn−1 である.

Cn ルート格子,つまり Cn ルートによって生成される格子は,成分の和が偶数な整数ベクトル全てからなる.

C22 によるスケーリングと 45 度の回転によって B2 と同型であり,したがって相異なるルート系ではない.


ルート系 B3, C3, A3 = D3立方体正八面体の中の点として描いたもの

Dn

D4
 1 −1 0 0
0  1 −1 0
0 0  1 −1
0 0  1   1

V = Rn とし,Φ を長さ 2V のすべての整数ベクトルからなるとする.ルートの総数は 2n(n − 1) である.単純ルートたちの1つの選び方は:1 ≤ i < n − 1 に対して αi = eiei+1 と(An − 1 に対する単純ルートの上の選び方),αn = en + en−1 である.

αn に垂直な超平面を通る鏡映は隣り合う n 番目と n − 1 番目の座標を入れ替え −1 倍するのと同じである.任意の単純ルートと別の単純ルートに垂直なその鏡映との差は二番目のルートの0倍か1倍であり,それより大きくはない.

Dn ルート格子,つまり,Dn ルートによって生成される格子は,成分の和が偶数であるような整数ベクトル全部からなる.これは Cn ルート格子と同じである.

D3A3 と一致し,したがって相異なるルート系ではない.

D4triality英語版 と呼ばれる追加の対称性を持つ.

E6, E7, E8


122英語版 の 72 個の頂点は E6英語版 のルートベクトルを表す
(緑の頂点はこの E6 コクセター平面射影では倍増にされている)

231英語版 の 126 個の頂点は E7英語版 のルートベクトルを表す

421英語版 の 240 個の頂点は E8英語版 のルートベクトルを表す
  • E8 ルート系は次の集合に合同R8 のベクトルの任意の集合である:
コクセター平面英語版で見た,正二十四胞体英語版とその双対の頂点によって定義された,F4 の 48 個のルートベクトル

F4 に対して,V = R4 とし,Φ を長さが 12 のベクトル α であって 2α の座標がすべて整数ですべて偶数かすべて奇数なもの全体の集合とする.この系には48個のルートがある.単純ルートの1つの選び方は:B3 に対して上で与えられた単純ルートの選び方と,α4 = −(1/2)∑4
i=1
 
ei
.

F4 ルート格子,つまり F4 ルート系によって生成される格子は,R4 の点であってすべての座標が整数であるかまたはすべての座標が整数でない半整数であるようなもの全体の集合である.この格子はフルヴィッツ四元数英語版の格子に同型である.

G2

G2 の単純ルート
1  −1   0
−1 2 −1

ルート系 G2 は12個のルートを持ち,六芒星の頂点をなす.の絵を参照.

単純ルートの1つの選び方は:(α1, β = α2α1), ただし i = 1, 2 に対して αi = eiei+1A2 に対する単純ルートの上の選び方である.

G2 ルート格子,つまり,G2 ルートによって生成される格子は,A2 ルート格子と同じである.

ルート系とリー理論

既約ルート系はリー理論におけるいくつかの関連した対象を分類する,特に

各場合において,ルートは随伴表現の非零ウェイトである.

極大トーラス T をもつ単連結単純コンパクトリー群 G の場合には,ルート格子は自然に Hom(T, T) と同一視でき,コルート格子は Hom(T, T) とできる,ただし T円周群である;Adams (1983) を参照.

例外型ルート系とそれらのリー群とリー環との関係は,E8英語版, E7英語版, E6英語版, F4英語版, G2英語版 を参照.

関連項目

脚注

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  1. ^ “Graphs with least eigenvalue −2; a historical survey and recent developments in maximal exceptional graphs”. Linear Algebra and its Applications 356: 189–210. doi:10.1016/S0024-3795(02)00377-4. http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0024379502003774. 
  2. ^ Bourbaki 2002, Ch. VI, Section 1.
  3. ^ Humphreys 1972, p. 42.
  4. ^ Humphreys 1992, p. 6.
  5. ^ Humphreys 1992, p. 39.
  6. ^ a b Humphreys 1972, p. 43.
  7. ^ Hall 2015, Proposition 8.8.
  8. ^ Killing 1889.
  9. ^ a b Bourbaki 1998, p. 270.
  10. ^ Coleman 1989, p. 34.
  11. ^ Hall 2015, Theorem 8.16.
  12. ^ Humphreys 1992, Theorem 3.20.
  13. ^ Hall 2015, Proposition 8.18.
  14. ^ これは Hall 2015 Proposition 8.23 から従う.
  15. ^ Hall, Brian C. (2003), Lie Groups, Lie Algebras, and Representations: An Elementary Introduction, Springer, ISBN 0-387-40122-9 .
  16. ^ Conway, John Horton; Sloane, Neil James Alexander; & Bannai, Eiichi. Sphere packings, lattices, and groups. Springer, 1999, Section 6.3.
  17. ^ Hall 2015, Section 8.9.

参考文献

  • Adams, J.F. (1983), Lectures on Lie groups, University of Chicago Press, ISBN 0-226-00530-5 
  • Bourbaki, Nicolas (2002), Lie groups and Lie algebras, Chapters 4–6 (translated from the 1968 French original by Andrew Pressley), Elements of Mathematics, Springer-Verlag, ISBN 3-540-42650-7 . The classic reference for root systems.
  • Bourbaki, Nicolas (1998). Elements of the History of Mathematics. Springer. ISBN 3540647678. 
  • Coleman, A.J. (Summer 1989), “The greatest mathematical paper of all time”, The Mathematical Intelligencer 11 (3): 29–38, doi:10.1007/bf03025189 
  • Hall, Brian C. (2015), Lie groups, Lie algebras, and representations: An elementary introduction, Graduate Texts in Mathematics, 222 (2nd ed.), Springer, ISBN 978-3-319-13466-6 
  • Humphreys, James (1992). Reflection Groups and Coxeter Groups. Cambridge University Press. ISBN 0521436133. 
  • Humphreys, James (1972). Introduction to Lie algebras and Representation Theory. Springer. ISBN 0387900535. 
  • Killing, Die Zusammensetzung der stetigen endlichen Transformationsgruppen Mathematische Annalen, Part 1: Volume 31, Number 2 June 1888, Pages 252-290 doi:10.1007/BF01211904; Part 2: Volume 33, Number 1 March 1888, Pages 1–48 doi:10.1007/BF01444109; Part3: Volume 34, Number 1 March 1889, Pages 57–122 doi:10.1007/BF01446792; Part 4: Volume 36, Number 2 June 1890,Pages 161-189 doi:10.1007/BF01207837
  • Kac, Victor G. (1994), Infinite dimensional Lie algebras .
  • Springer, T.A. (1998). Linear Algebraic Groups, Second Edition. Birkhäuser. ISBN 0817640215. 

関連文献

  • Dynkin, E. B. The structure of semi-simple algebras. (ロシア語) Uspehi Matem. Nauk (N.S.) 2, (1947). no. 4(20), 59–127.

外部リンク

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